大切に長く着る文化を育てたい
──現在考えられているアイデアとその目的はどのようなものでしょうか?
ビジネスのタイトルは「大切に長く着る文化を育てたい」。キャッチフレーズは「美しい生地で生活に華を!」です。世の中は洋服で溢れていますが、流行という名のもとに多様性は抑えられ、生地の質もどんどん下がっており、触っても心ときめくような生地の服に出会うことは少ないです。このような状況に少なからず装うことにつまらなさを感じている人々が、流行にとらわれない質の良い服に出会うことで、生活の中にもっと華やかさを取り込むことができます。
──具体的にはどのようなことを計画されているのでしょうか?
普段は目立たない機能的な服で日常を過ごしている私たちでも、ちょっとしたお出かけやお茶会、観劇に行くときは少しいつもと違う服で気持ちも華やかになりたいと思います。そんなときに、いつもと違う色、違う質感、違う着心地の服があれば良いなあと思いながらも、既存のお店の服はなんとなくデザインも生地の質も同じだなあ、と漠然と感じている人々が、高級ブランド服のような高い服でなくても生地の良い服を楽しむことができます。
──アイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?
1つ目は、「色とりどり、華やかな柄と、生地の質にこだわる」です。
バルセロナ発のファッションブランドDesigualのような華やかさとはもう少し別の大人向けの華やかさを、シンプルな型で提供します。生地の仕入れ先にこだわり、あまり市場に出回っていないような色、柄、質の「生地が主役」のデザインです。
2つ目は、「客層を音楽・美術・観劇ファンに特化」です。
一般的な流行にとらわれない感性を持っている人は、美しいものに触れる機会が多い人々に多い傾向があると思います。また、装う機会が多い人々、人に見られる機会が多い人々のほうが、流行の服に飽きている傾向もあります。そんな中には遊び心や、生地にこだわる人が他の層より多いと考え、ターゲット層とします。
3つ目は、「セミ・オーダー」です。
気に入った服があっても、サイズが合わないと諦めざるを得ません。コストを抑えるためにもセミ・オーダーとなりますが、バランスのとれたパターンの範囲内で修正を加えるほうが、体にぴったりの服とは違ったバランスの良さもあります。
──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?
自分自身、着たい服がなかなか見つからず作って着るようになりました。その過程で自分のイメージした服を着ることの楽しさと、質の良い生地を纏うことに大きな幸せを感じるようになりました。一方で、販売されている服を見ると、同じような服ばかりが並び、百人百様の人々が欲しいものは半分もないのでは?デザイン重視であまり生地にこだわりがあるブランドが少ないのでは?と思うようになりました。もっと自由に流行や限られたチョイスに縛られずに自己表現を楽しむことができ、良い生地の服を大切に着る楽しみが普通にならないだろうか、という思いから、このアイデアを持つに至りました。
──なぜこのアイデアが今必要だと考えているのですか?
着たい服が見つからない、あってもサイズが合わない、という声に呼応し、サイズに関しては最近特化した製品が出てくるようになりましたが、デザインに関しては、色や柄のバリエーションは少ないのではと感じています。また、環境への配慮から、良いものを大切に着たい、という人も増えています。情報が溢れ大衆化する層とより個性を求める層に大きく分かれてきていると思います。そのような中でより個性的で小さい単位でのブランドが求められ増えていくと考えます。
──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?
参加時点では、ブランドというよりサイズに焦点を当てていましたが、ブランドを立ち上げる方が、自身の求めるビジネス像により近いと気づくことができました。特に自分ではあたりまえであったので気づかなかった点ですが、生地に対する情熱があるので、その情熱をビジネスのコアにするように、というアドバイスをいただいて、ブランドの基本方針のようなものが見えてきたことも大きな成果でした。また、プログラムの過程で、ビジネスやブランディングなどについて少し勉強し始めたことで、基礎的知識がまずかけていることも認識できました。簡単な法律や会計についての知識はあったほうが良いと思います。
何事も考えるよりまずは始めて見るのが良いかと思いますが、その際に、小さい単位でまず試してみてから、ということを良くおっしゃっていたのが印象に残ったので、まずは小さく行動を起こしてみようと思います。
──アイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。
現状認識として、ブランドの基本的なイメージ形成の端緒は掴んだので、今後発展させていけると思います。一方でマーケティング方法、販売方法、生産方法などの詳細を詰めていく必要があり、そこに大きな工夫が必要と感じています。特に、どのように顧客にリーチするか、という点をプログラムで強調して言われたことなので、顧客のどのような要望にどのように答えていくか、という視点から生産方法や販売方法などを考えていきます。
現在、装いも日常的に楽しめるような大人の楽しみの空間が少ないと思いますので、服を販売するとともに、装いの機会を増やしていけるような活動ができれば良いなあ、というのが遠い未来の展望です。