ベイビーシアター・キット
──現在考えられているビジネスとその目的はどのようなものでしょうか?
ビジネスのタイトルは「ベイビーシアター・キット」。キャッチフレーズは「あかちゃんとの体験設計を商品に」です。感受性に満ち溢れた乳幼時期のあかちゃんが、多様な気づきに触れるための芸術体験を、お家で楽しめる舞台キットにしました。聴覚や触覚で構成された舞台を通して、これまでとは異なる世界に、初めて触れることができます。保護者は演じることで日常から切り離され、あかちゃんの目線から世界を覗き、豊かな発見に満ちた子育てそのものを捉え直します。
──具体的な事業としてはどのようなことを計画されているのでしょうか?
乳幼児期は毎秒毎秒なにかと新鮮に出会い、シナプスの数も人生で最も多く、吸収したことを感覚や行為と繋げる能力がとても俊敏です。大人が考えるよりずっと学びの多い時期に向け、刺激により五感を動かし「あかちゃんとのコミュニケーションを育むための演劇」をベースにした舞台・小道具・台本からなるキットを春夏秋冬の4回お届けします。子育てから少し離れ、あかちゃんがどんな風に感じているのか、じっくり観察してみることができます。
──ビジネスアイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?
1つ目は、お家で楽しむ舞台芸術体験キット。
自宅でお母さんとあかちゃんが舞台を演じるための物語・舞台・小道具・台本をお届け。演じ方の例をオンラインで見られるので初心者でも安心です。春夏秋冬の4回キットを集めると、1つの物語が完成。あかちゃんの成長など、季節の変化によって反応を楽しむことができます。月に1回オンラインでワークショップも開く予定です。
2つ目は、プロが演じる「コレクション公演」。
ベイビーシアター・キットは舞台公演と紐づいた物語になっています。毎年行うコレクション公演では、プロの役者が演じる舞台をあかちゃんと一緒に観劇することができます。その公演内容を自宅で楽しめるのが「ベイビーシアター・キット」。劇場で観る芸術体験と、自宅で演じる芸術体験の両方をお届けします。
3つ目は、あかちゃんとの世界を楽しむラボコミュニティ。
ベイビーシアター・キットを通して、あかちゃんとの世界をおもしろがるラボメンバーを募集します。キットに囚われない遊び方を自由に開発したり、共有をしたり。次の「ベイビーシアター」をつくるのも面白そうです。家庭同士のつながりや重なり合いを生むことで、あかちゃんとの世界をおもしろがるコミュニティを育みます。
──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?
以前より「あかちゃんのための演劇であるベイビーシアター」を、子どもたちに届ける体験型のアートとしてキットにしたいと考えていましたが、予定していた公演がコロナでオンライン公演になり、期せずしてベイビーシアター・キットの開発に至りました。
その際は、お家の中に仕込む舞台セットとして、事前にベイビーシアター・キットを送り、保護者はミニマム化した舞台美術をリビングに仕込み、不思議な小道具たちを隠しました。当日は指示書をもとに、保護者があかちゃんにとっての俳優となり、ベイビーシアターをお家に発生させるというオンライン公演を実施。演劇をリアルなキットに落とし込み、「体験」としてご自宅へお送りすることができたのです。この経験を通して、今回の商品やビジネスを考えることができました。
──なぜこのビジネスが今必要だと考えているのですか?
現在の日本では、出産時の死亡より「産後の自殺で亡くなる母親の方が多い」という事実をご存知でしょうか。ようやく授かり、10ヶ月大切にお腹の中で育てて、こんなに悲しいことはありません。子育てを担う母親の「孤育て」と、ホルモンバランスの崩れによって、どうしようもなく起こる産後うつは、社会が認識し支えるべき問題です。 環境のサポートや外部支援はあれども、生まれたばかりのあかちゃんと母親との関係性を支えるコミュニケーションについて、フォーカスした支援や取り組みは少ないと思います。あかちゃんは感受性の豊かな時期にたくさんの刺激を受け、この時期に関係性についても学び、親しい人と愛着形成を育みます。 社会的弱者としてのあかちゃんではなく、素晴らしい能力を持ち、ともに世界を楽しむ存在として捉えられたとき、子育てが変化すると私たちは思います。 ──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか? 創業したばかりの私たちは当初、法人全体の事業計画について明確にするべきか、「ベイビーシアター・キット」という構想を具体化するべきか、方向性を絞れていませんでした。初回のメンタリングでは「ベイビーシアター・キット」という事業を軸に、これまでの団体の経緯、法人としてこれからの事業を考えていく方向へ舵を切りました。 また「形のあるものづくり」という初めての事業において、商品設計、値決め、他事業との関係の持たせ方を一緒に考えていただき、テストマーケティングの入り口まで到達することができました。 ──ビジネスアイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。 本プログラムを通して、私たちが生み出したいものは、あかちゃんに向けたおもちゃではなく、あかちゃんとおとなが一緒に自分たちの生きる世界の美しさにみずみずしく出会い直す、そんな発見の体験設計だということに改めて気づきました。 キットを購入する人は「消費者」でなく、「あかちゃんという哲学者とこの世界の秘密を一緒に見つける研究者」という発想の転換です。またキットを通して、お家で世界の秘密に触れる旅をする。キットを購入した人と世界を研究していく、そんな研究所のような仕組みを考えています。 今後は、キット販売を通じて「ベイビーシアター」を知る人が増えていくでしょうし、お家から広がって、あかちゃんと共にあること、あかちゃんに学ぶことが当たり前の社会づくりを実現していきたいと思います。
進める中で、リピーターを生む商品計画など、マーケティングの知識に触れられたことも有意義でしたが、自分たちの商品の核が形のあるものづくりではなく、体験を生むものづくりであったことに気づけたことは大きな収穫でした。