IDEA

未来を創る最善の意思決定を支える「flow」

KUMIKIPROJECT株式会社
桑原 憂貴
84年生まれ。リクルートHRマーケティング(現:リクルートジョブズ)を経て、ソーシャルマーケティング専門のコンサルティング会社に転職。東日本大震災をきっかけに岩手県陸前高田市で起業。「DIT(Do it together)」をコンセプトに個人宅や店舗、オフィスなどの空間を地域材でつくるワークショップをプロデュース。一般財団法人KILTA(キルタ)を設立し、地域ではじめる人を、地域の材を活用し、地域の人が講師となり、地域住⺠がともにつくり支える生態系を構築。

──現在考えられているビジネスとその目的はどのようなものでしょうか?

プロジェクトデザインツール「flow(フロー)」は、「ロジックモデル*というフレームワークを用いて、ウェブ上で目指す成果と道筋を策定・検証できる」ことを通じ、「社会的価値をうみたい多様な組織のプロジェクトメンバー」が、「社会にいいことを可視化し、手段の目的化を防ぎ、成果につながる活動の有効性を向上させる」ツールを開発します。

*ロジックモデル=成果と手段を図示したもの

 

──具体的な事業としてはどのようなことを計画されているのでしょうか?

プロジェクトメンバーが抱える「上司の思いつきでやることが増えて疲弊する」「主体性は求められるのにアイデアは通らない現場」「目指す方向が明確でなく進むべき道がわからない」など、「手段の目的化」や「思いつき」に振り回されて本来の社会的な価値を発揮できない組織課題に対し、チームで対話しながら活用できるプロジェクトデザインツールが目指す成果と手段を定め、成果志向の意思決定を支えます。

 

──ビジネスアイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?

1つ目は、「ロジックモデルの策定支援」。SDGsをはじめ、Iris+など世界で使われる社会的成果の指標に加え、全国のソーシャルビジネス事業者が重きを置いている指標をデータベース化することで、直接成果・中間成果・最終成果及び取組や取り組みの結果などのつながりを表すロジックモデルの設定を誰でも簡単にできるようにサポートします。

2つ目は、「社会的成果レポートのワンクリック生成」。実施した取り組みや成果をわかりやすくグラフで可視化したものうち、必要な項目を選択してワンクリックでレポートを生成。CSRレポートや統合報告、WEBサイトへの掲示など、定量データで分かりやすくステークホルダーに発信できる状態にすることで情報開示を改善します。

3つ目は、「非財務資本と財務資本の関連予測」。これは将来的にですが、例えば自然資本やソーシャルキャピタルと呼ばれる関係資本などが豊かになったり、減少したりすると、財務資本にどのように良い/悪い影響を与えるかを予測し、組織の意思決定に役立てたいと思っています。

 

──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?

東日本大震災をきっかけに、国産材の利活用や人と人のつながりをうむ参加型リノベーションの仕事に8年間取り組んできました。コロナ禍で休業を余儀なくされたとき、手間を愛着に変え、ともにつくる手法を通じて、はじめる人と支える人の関係性を築く手法で手がけたはずの店舗の苦しい状況を度々聞き、事業の存在意義や解決したかった社会課題に手法が届いていないのではという疑問を持ったことがきっかけとなり、このアイデアを考えるようになりました。

 

──なぜこのビジネスが今必要だと考えているのですか?

短期的には多様な組織活動において、プロジェクト単位で目指す真の成果をチームで見据えたとき、その取組は社会性を帯びると考えています。

お金のためだけでないプロジェクトの成果と、それに至る道筋が明確になることは、事業性と社会性が両立できる取組の増加につながると考えます。加えて広い視野で捉えると、国連の定める「持続可能な開発目標(SDGs)」が2030年の目標達成に向けて、日本でも菅総理が「脱炭素社会の実現」を表明するなど、社会的な課題の解決は大きな事業機会になりつつあります。

また世界最大の機関投資家といわれる年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が環境・社会・ガバナンスを大切にするESG投資に舵を切っており、この取り組みは、社会的な価値を評価する金融市場のニーズと、こうした非財務情報をマネジメントできてこなかった企業の進化を促し、つなげることも見据えています。

 

──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?

本プログラム開始時点では、自分が解決したい課題が他の人にとっても課題と言えるかについての検証が必要だという認識を持っていました。本プログラムが進むにつれ、コンセプトの問い直しや、インタビューによる課題仮説の検証により、「社会的価値の見える化ツール」という当初のコンセプトから「社会的価値を創造するためのプロジェクトデザインツール」へ変わり、顧客対象も当初想定していた自治体での利用から、企業をはじめとする多様な組織のプロジェクトチームといった顕在化しているニーズと繋げるなど、事業性と社会性を両立する気づきを得て、デザインモックアップの開発をすることができました。

 

──ビジネスアイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。

必要最小限のプロトタイプを開発し、最初に役にたちたい相手として、社会的課題の減少あるいは社会的価値の増加を評価する必要のある休眠預金活用団体へツールの導入と伴奏支援を行っていきたいと考えています。多様な課題に、多様な方法で取り組む事業者とともに、その成果を測る指標を収集するほか、社会的価値の評価方法や評価のために使用可能な社内に点在するデータの収集などを実際に行いながら、未来につながる最善の意思決定を支えるためのツール開発と改善を進めていきたいと思っています。

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