IDEA

狩猟で自然共生クリエーション

同志社大学大学院 総合政策科学研究科 ソーシャル・イノベーションコース
兵田 大和
民間企業等での社会人経験を経て、現在の同志社大学院に在籍。幼少の頃よりシカ肉とシシ肉を口にする機会があり、20代の頃には海外でジビエを含む様々な現地食を食べてきた。同志社大学大学院での実践研究をきっかけに、持続可能な狩猟の実現に向けてNPO法人Ecosauvage lab.の立ち上げを企画し、本プログラムの支援を受けることにした。現在、狩猟以外に地域の里山再生、造園現場、河川レンジャー活動、皮革製造技術の開発と製品企画に関わり、博士論文の執筆を進める。

──現在考えられているビジネスとその目的はどのようなものでしょうか?

ビジネスのタイトルは「狩猟で自然共生クリエーション」。キャッチフレーズは「みんなの里山にイノベーションを」です。

今後、立ち上げを予定しているNPO法人Ecosauvage lab.は、科学的根拠と専門性、そして現代に適応した社会性のある狩猟と里山生態系の保全をイノベーティブに推進・実行する研究ラボです。様々なステークホルダーと協働を図ることで、人と動植物が共生していける持続可能な地域社会の発展と基礎を支えていきます。

 

──具体的な事業としてはどのようなことを計画されているのでしょうか?

生物多様性の危機など自然環境の悪化に対して、自治体や企業は実効性のある環境投資やガバナンスなどで社会的責任を果たすことをこれまで以上に求められています。ですが、効果的かつ具体的な取り組みとして実際に確立できた例は残念ながらごくわずかです。そこでEcosauvage lab.は、科学的根拠と専門性に基づく狩猟のコンテンツ、ノウハウ、開発ツール、ネットワークを活かし、実際の自然環境保全と行政機関・企業の社会的責任の履行をサポートしていこうと考えています。

 

──ビジネスアイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?

1つ目は、生態系保全にかなう狩猟を展開するノウハウ。生業としての職猟や趣味としての遊猟は、里山や生態系の保全といった社会性に乏しいのが現状です。Ecosauvage lab.は、江戸時代まで続いていた持続可能な地域づくりを意識した狩猟元来の社会的役割の構築を展開していきます。

2つ目は、効果的かつ効率的に狩猟を実施する開発ツールの適用。現場発想で適正技術を応用し、大学と企業とで共同開発した狩猟具「ぬけに杭」や「ハンター×ハンガー」、より狩猟の効率化を可能にするセンサー「ihos-eco」などのツールを駆使して、元来生産性の低い狩猟の生産性を向上させ、持続可能な社会づくりに貢献していく狩猟者を支援していきます。

3つ目は、大学院の実践研究発の利点を生かしたステークホルダーとの関係構築。大学院発の強みである行政、他大学とのネットワークや信用を活かすことで、里山地域からの信頼を獲得することができます。アイデアをフラットな場で多様なステークホルダーと共有しながら、21世紀的な狩猟が里山保全に貢献する形を模索・構築していきたいと考えています。

 

──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?

持続可能な社会づくりにかなう狩猟はまだまだ社会に認知されず、確立されていません。

私は大学院に入り、その授業の中で「日本の里山の現状を改善する必要がある」と直感しました。そこから現在の狩猟を核とする実践研究をはじめ、目的が明確で適正な狩猟こそが持続可能な社会づくりに貢献できると考えるようになりました。

これまでの社会経験や若い頃の海外経験、そして現在の実践研究を活かし、狩猟が持続可能な社会づくりに貢献できるよう取り組んでいきたいと考えています。

 

──なぜこのビジネスが今必要だと考えているのですか?

経済活動がその元手である自然環境の生態系メカニズムから遊離してしまったことで、温暖化や生物多様性の危機、水とエネルギーの枯渇などの環境問題が世界規模で起きています。

日本では、シカやイノシシ、サルなどをはじめとした鳥獣害が輪を掛けて深刻化し、これまで環境保全の基礎的手法として有効だった植林さえ機能しなくなり、経済社会の基礎を支える農林漁業の存続が危ぶまれています。明治の近代化以降、社会の持続可能性の危機という初めての事態に日本社会は直面しています。そんな中でEcosauvage lab.の取り組みは、鳥獣害でより複雑化した現代特有の環境問題に対処することができると確信しています。

 

──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?

大学院での事業化を念頭に置いた実践研究を通じて、背景にある社会環境問題を学術的に整理しながら、現場スキルと不足する専門知識は体で修得してきました。

そのため、本プログラム開始時点では、それ以前の自身のキャリアとの差異から、総合政策科学としての環境問題の専門知識を学際的にカバーするという大きな負荷、また学際的故のリソース不足、地域特有の伝統的社会習慣とのコミュニケーションなどで疲弊し、自らの活動の比較優位を冷静に見極めることができなくなっていました。本プログラムが進むにつれ、自らのリソースの棚卸が可能となり、事業化を目指した態勢にブラッシュアップすることができました。また、折しもこれまでの広範囲に渡る学際的な研究活動が学術と事業の両面で成果が見え始め、自らの強みのセルフプロデュース、その次の段階の具体的な事業イメージが見えるようになってきています。

 

──ビジネスアイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。

まずは、生態系保全に適う狩猟のビジネス化と仲間づくりを進めていきます。猟場のコンディションを整えるために京都府内の民間企業と共同開発した「ぬけに杭」「ハンター×ハンガー」「ihos-eco」など小回りに長けた狩猟グッズ。それらを既存の狩猟の質を高めようとする猟友会や狩猟を学ぶ学校へ広く発信していきます。さらに生態系保全にかなう高品位な狩猟コンテンツやプロダクトの企画推進・販売も、協働事業者とともに増やしていきたいです。例えば、皮革製品や生息地管理の過程から出てくる伐木材を使った製品、また、ihos-ecoを応用した管理効率が良い防獣柵など。狩猟コンテンツとしては、適正技術を適応した次世代型の技術と融合させたもの、生態系全般と伝統的知見から狩猟を捉え直したものを、SDGsやESDの取り組みに投入していきます。これによって京都の里山の状況を改善させ、その事例を書籍化し、全国へも広めていきたいと考えています。

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