Fun Tap Project
──現在考えられているアイデアとその目的はどのようなものでしょうか?
ビジネスのタイトルは「Fun Tap Project」。キャッチフレーズは「 “楽しいビール”で地域がつながる」です。地元ブルワリーが作る樽生クラフトビールを楽しく飲める設備=Fun Tapを提供し、街の人が“楽しいビール”を飲んだり提供したりする事で地域エンゲージメントを高め、より深く地域と繋がりを持つきっかけをつくるプロジェクトです。
──具体的にはどのようなことを計画されているのでしょうか?
ビールサーバーを導入し、地元のクラフトビールを提供したい人や事業者が持つ「本格的なタップを備えた設備は欲しいが、高価で費用対効果が見合わない」「既存の個人向けサブスクサービスでは選べる地元産銘柄が少なく容量も足りない」などの設備コストや既存サービスへの不満に対して、地域産樽生クラフトビール(10リットル)に特化した空冷式ビールサーバーのレンタルサービスを提供するものです。
──アイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?
1つ目は、「『飲める場所』ではなく 『飲みたい場所』に」です。
多くの人にとって生ビールが飲める場所といえば飲食店ですが、それは必ずしも「飲みたい場所」であるとは限りません。「この瞬間、この場所で生ビールが飲めたら最高なのに!」と思うことはありませんか? Fun Tapは飲食店以外の事業者にサービスを提供し飲む人の「ここで飲みたい」気持ちを間接的に叶えます。
2つ目は、「飲むだけ、じゃ終わらない」です。
Fun Tapは単なるビールサーバーのレンタルサービスではありません。ブルワリーの思いや商品のコンセプトが伝わるようなコンテンツを用意し、実際にビールを飲む人やサービスを利用する事業者が同じ地域で活動するブルワリーに興味を持つ、知る、好きになるきっかけをつくります。
3つ目は、「“またやってみたい”気持ちでリピーターを作る」です。
ビールを注ぐのはプロ(お店の人)ではなく飲む人自身。DIY体験の様に普段はプロがしてくれている事をあえて自分でやってみる、ってワクワクしませんか?Fun Tapは注ぐ事で感じる楽しさやワクワク感で、訪れる人の「ビールを注ぎにもう一度ここに来たい」という気持ちを刺激し事業者が運営する場所のリピーターを作ります。
──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?
私の理想的なビールサーバーが世の中に無かったからです。
私と夫は大の生ビール好きで大手のビール工場に見学へ行き本格的なサーバーを使って自らビールを注いだ体験とその味が忘れられず、ずっと自宅にお店で見るようなビールサーバーを付けたいと夢見ていました。そして2020年、コロナ渦が外で生ビールを飲む機会を私から奪った事で、その思いは一層強くなり、ビールサーバーの購入を本格的に考え始めました。しかし大手厨房機器メーカーのビールサーバーは個人で購入が出来ないと知り、イベント用のレンタルサーバーも既存の個人向けサブスクサービスも検討しましたが、自分の理想とは何かが違う物でした。私の理想は10リットル樽を手間なく数日間楽しめる、金属性のタップを備えた本格的なビールサーバーなのです。
しかし諦めの悪い私は理想のビールサーバーを求めてリサーチを繰り返し、3か月後、遂に自分が満足できる空冷式ビールサーバーの自作に成功。暫くは夫と二人だけで自宅で生ビールを注ぎ、飲む事をひたすら楽しんでいましたが、家庭用電源1つで使用できるこのビールサーバーがあれば、飲食店以外の場所でも“美味しく飲める適当な量”のビールが提供出来る環境が作れるのでは!と気付き今回のアイデアを考えるようになりました。
──なぜこのアイデアが今必要だと考えているのですか?
コロナ禍により生ビールを飲む機会が激減した事で、私はこれまで生ビールだけが特別に叶えてくれた美味しさや楽しさを何度も思い返しました。中でも近所の商店街で開催されたクラフトビールのイベントには特別な楽しさを感じていました。普段は大手メーカーの生ビールを飲む私にとって商店街で地元のクラフトビールを楽しむ時間は、いつもは点で存在する地域の場所と食の魅力がイベントによって線となり、ビールを飲む自分自身が地域と繋がった感覚があったからです。
大規模なイベントや飲食店での生ビールとの関わり方が従来とは異なってしまった今だからこそ、日常生活の場所に地元産の樽生クラフトビールを楽しめる環境が提供できれば、美味しく、そして楽しく人と地域が繋がる様な新しいきっかけを作ることができると考えています。
──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?
当初は「自分で注ぐビールの楽しさと美味しさを多くの人とシェアしたい」という想いがあるだけでした。また会社員という立場上、事業化に取り組む前に「まずはアイデアがそもそも社会のニーズを満たしているのか」「事業化するとなれば具体的にどんな手続きが必要なのか」を軽く知っておきたいという気持ちで参加しました。
しかし本プログラムが進むにつれて「魅力を感じる方法やターゲット、コンセプト」など、こちらからニーズを生み出すことの重要性を感じ、一旦会社員という立場を忘れて本気で取り組むならどうすれば良いかを具体的に考えるようになりました。これまで自分はどうやって生ビールを楽しんできたのかを掘り下げていくことで、「いつもとは違う場所で、いつもとは違う方法で、いつもとは違うビール」を飲む事が一番美味しく、楽しく、私がシェアしたい事の本質であることに気づくことが出来ました。
──アイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。
Fan Tap Projectは、作り手であるブルワリーはもちろん樽の配送をお願いする街の酒屋さん、顧客となってくれる事業者など地域の協力と理解なくして前に進めることは出来ません。その為、事業化への第一歩はプロジェクトに共感していただける共創パートナー探しから始めます。
また、ターゲットをざっくりと事業者としていますが、私にはFan Tapの顧客になって欲しい事業者が2つあります。1つは京都の街に残る銭湯、もう1つは自分が働く会社です。ビールが最高に美味しい「湯上り」と「仕事終わり」に“楽しいビール”が飲めるとなれば、私は京都という地域をもっと好きになるに違いないと信じています。最高の“楽しい一杯”がある世界を京都から作ります。