IDEA

Negu

Ad lacum
吉田 光志
プログラマー/エンジニア。個人の心をはじめ、集団の倫理を発達させるためのアプローチに対して、テクノロジーをうまく活用できないか? と考えました。個人的に探求しているのは(個の集合である)組織や個々の心の発達度合いに応じて、適切にデザインされたテクノロジーという在り方も提案したいから。40歳をすぎて自分起点のプロジェクトを進めるべくAd lacum(「湖へ」という意味)という活動ユニットをスタートし、今回のアプリ開発にも着手したところです。

──現在考えられているアイデアとその目的はどのようなものでしょうか?

ビジネスのタイトルは「Negu」。キャッチフレーズはあなた自身をねぎらうために、自分へ手紙を届けるアプリです。巷では風の時代(個の時代)と呼ばれる時代の転換期において、個人の内面に生まれている漠然とした不安を解決するために考案したアプリ・サービスです。手紙という形で自分自身との対話を促し、自身を冷静に客観視したり、励ましたりすることで深い癒しと安らぎを自らに与えます。“良かった経験”についてフォーカスし、ゆっくりと時間をとって味わうポジティブ心理学でいうところのSavoring(セイヴァーリング)を積極的に行うことで、主観的、心理的ウェルビーイングの向上のみならず、ストレスを緩和させたり、さらには心身のレジリエンスを強化したりすることがサービスの狙いです。

 

──具体的にはどのようなことを計画されているのでしょうか?

社会変化の中で、変わるための一歩を歩みだせない人、毎日の忙しさに翻弄されて漠然した危機感を持っている方へ、自分自身へ手紙を書く時間を提供します。まずは自らをいたわることからはじめて、“励まし合うコミュニティ”としてのつながり育みオンラインやオフラインの活動を通じて築いていきたいと考えています。その先には、アプリから始まる個人の変化を通して、成長のきっかけを与えてくれる複合的なサービスへの発展も計画しています

 

──アイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?

1つ目は、1日に1度だけ書ける手紙を通じた未来の自分とのコミュニケーション。
未来の自分に手紙を書くことには、さまざまなポジティブな効果があるといわれています。

  • 素直に自分の弱さと向き合う
  • 自分自身を冷静に客観視する
  • ずっと苦しんでいた不安がやわらぐ
  • 楽しかったことを味わうことによるウェルビーイングの向上
  • 深い癒しと安らぎが得られる

自分自身への手紙なので、何も隠す必要はありません。理想の相手になりきって自分をさらけだすことができる機会を、日常の中で自然とつくれます。

2つ目は、変容する体験を共有し、さらに一歩ふみだすための体験をサポートする
Neguは、手紙を書く体験をいつもとは違う場所や、普段会わない人と行うことができます。誰かと旅先で対話し、影響を受けながら手紙を書くという経験が、新しい洞察をもたらしてくれるよう後押しする機能があります。

3つ目は、自己に存在する認識していない喜びを言語化する
Neguはウェルビーイングに関係するPERMAモデル(Positive emotions、 Engagement、 Relationships、 Meaning、 Accomplishment)に従い、アプリ上で手紙の作成をガイドします。ウェルビーイングを高めるためには、PERMAモデルのどれか1つに偏るのではなく、全体的に押さえることが重要だといわれています。また心理学的効果やこれらのアプローチに詳しくない方にも、サービスを通して分かりやすく導くことで、専門家の力を借りなくとも自分自身で気づきを促せるよう、ユーザビリティの高いUXを提供していきます。

 

──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?

大企業に勤めあげれば安泰という価値観が壊れつつあり、20代の若い世代から働き続けなければいけない中年の世代まで、漠然とした不安を抱えていると感じています。不安の根本にあるのは、主観的満足度の低さ、これまで培われてきた自己批判マインドがひとつの原因だと気づき、自分をいたわるためのセルフコンパッションと、自己変容を認知するための行動として手紙を書くということに着目しました。

自分自身、いつのまにか惰性的に毎日を過ごすようになっており、我慢という名目でいろいろな感情に蓋をするようになっていました。その結果、自分が何を望むのかわからなくなっていました。そんな中、誰にも言えないようなこともジャーナリングという形で言語化し、認知することで自分の心が世界に向かって開いていくような感覚を覚えました。普通に生きているだけで、しなければならないこと(have to)が自分の生活の多くを占めてしまうようになってしまいますが、時間をとって自分に心に向き合うことで、多くのことが手放せることに気が付けると思います。

そうすることで、自分が本当にやりたいことに向き合えるようになった経験から「自ら何かを手放すこと、自分が本当にやりたいことを他人から教えてもらうのは非常に難しい」と感じたため、積極的にこういったことへ取り組む機会を増やせるよう、誰もが使えるアプリのアイデアを思いつきました。

風の時代(個の時代)への大きな変遷がある中で、自分のマインド(内面)と向き合い、変化に積極的に向きあえる人を応援したいと考えています。

 

──なぜこのアイデアが今必要だと考えているのですか?

これまでと異なる価値観が社会に溢れ、大企業では業績悪化を伴わない40代での早期退職や、メンバーシップからジョブ型職種への切り替えが起こるなど、主に仕事面での環境変化が激しくなっています。積極的に変化を受け入れる個人にとってはチャンスが広がる一方で、旧世代の価値観で一生懸命働いてきた人やこれからのキャリアを考える若い人にとっては、未来が見通せず不安になる側面も数多くあると思います。

特効薬はありませんが、日本人が世界に比べて相対的に低いといわれている主観的満足度の低さや自己批判マインドからの解放を促すことにより、これらの問題に対しての一助になると考えました。またリサーチを続けると、欧米ではすでにさまざまな優れたアプリ、サービスやカウンセリングの機会が散見され、ハイテク企業内には、企業内僧侶(聖職者)というポジションも存在するほどだと知りました。そこで日本でも今後一層、専門家の知識やテクノロジーを通じて人の心にアプローチするニーズが高まると感じ、開発に着手することにしました。

 

──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?

当初は、ミドルトランジションという中年の危機にフォーカスした視点でサービスを考えていました。また、アプローチもアートを活用したいということを考えていましたが、メンタリングを受ける中で「根本のペイン(痛み)は中年だけでなく若い人にもあること」や、自分が考えていたアートを利用した方法だと「一度きりのアクションになりがちで、再アクセスすることが難しい状況(講師など専門的なリソースの継続確保が前提)となっていた」ことに気づきました。

より多くの人がペインを取り除く機会を得て、継続参加してもらうにはどうしたらいいか? メンタリングを通じて、より日常的で「気軽に実施できる行為として手紙を書く」ということに着目することと、本当に解決したいのは現代日本人の病である “主観的満足度の低さや自己批判マインド” だと自覚しました。さらに、もともとデザインを開始したかった具体的なアプリ像や、ユーザー層のイメージ化まで辿りつくことができたのは驚きでした。

 

──アイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。

実現したいアプリのイメージができたので、実際に動かすアプリのモック(試作)を作り、サービスとしての利用を試します。まずはKOINのコミュニティや周囲の仲間たちに、実際に使っていただくことで得られた気づきをアプリにフィードバックしてもらいながら、少しでも多くの人の心の支えになるものを作りたいと考えています。そして今後ユーザーに価値を感じてもらった先には、連携できそうなポータルやサービス企業との繋がりも、積極的に探していきたいと思っています。

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