READING

KOIN塾 事業を共創する仲間と仕組みの作り方 開催レポート(第1回)

WRITER : 井上 良⼦

2024年度KOIN

1回レポート 

一般社団法人my turnによるKOIN塾が今年も始まりました!

KOIN塾のレポートを担当するようになって早くも4年目、本年度のKOIN塾は「事業を共創する仲間と仕組みの作り方」をテーマに、全4回に渡り開催されます。

 

2024年度KOIN塾 プログラム

1回:マーケットシフト(社会変化)

2024年の社会はどのように変わり、どうなっていくのか学び考える

2回:パーパスドリブン(目的の明確化)

    あなたやあなたの会社は何のために存在するのか学び考える

3回:ウェルビーイング(心の豊かさをカタチに)

    個人も企業も健康になる、ウェルビーイング経営について学び考える

4回:オープンイノベーション(外部リソースの活用)

    変化の激しい複雑な社会で、変幻自在な生態系について学び考える

 

 本年度も講師を務めるトミーさんこと福冨さん(my turn理事)の自己紹介に続いて、参加者同士での自己紹介から始まりました。就職活動に向けて新しいことを始めたい、起業を考えているが何から始めたらよいのか分からない、視野や事業を広げたい、つくりたい社会の実現に近づきたい、自分の選択肢を広げたい、など、それぞれの現在地からさらに前進するために、例年にも増して幅広い年齢層の多様な方々が集まっています。

     講義の前半では、2024年の社会を考える上で鍵となる「人工知能(AIArtificial Intelligence:アーティフィシャル・インテリジェンス)」に焦点を当て超AI時代に突入した現代社会について、経済・自然・文化という3つの切り口に応じた3つの問いから考えていきました。

 

 

 

    会場の参加者の中では、約半数がAIを使ったことがあると回答していましたが、来年以降さらにAIを取り巻く状況が劇的に変わっていくそう。AIが人間の労働力に代替される点についてメディアで取り上げられることも多い中、まず現在の経済はどのような状況にあるのでしょうか?

 企業の余剰利益(付加価値)がどのように分配されてきているか、1960年から2020年までの伸び率を表したグラフが示すように、役員や従業員の給料は横ばいが続く一方、2000年以降の株主還元が格段に上がっています。1991年にバブルがはじけて「失われた30年」と言われた期間に、賃金は上がらない反面で物価が上がり、一部の株主(富裕層)だけが経済的豊かさを享受していることが分かります。

 政治にも期待できず、不平等な社会において私たちは何をしていけるのか、トミーさんからの問いかけに会場の参加者も考え込んでいる様子です。社会の変化に関して憤ったり、不安を感じたりするだけで終わるのではなく、状況を受け止めた上で、自分自身の今日の行動をどのように変えていくのか、まで考えることが大事だとトミーさんは続けます。

 

 

 

      自然の側面について共有されたのは、主に人間の経済活動やそれに伴う気候変動によって1年間に4万種類以上の生物が絶滅していて、生物多様性がこれまでにない危機に直面しているということ。100年前は1年で一種、1975年には1年で1000種というペースだったのに比べて危機的な減少です。とくに都会に住んでいるような場合は、日常生活の中で生物・植物の減少や陸だけでなく海の生物の多様性の減少について体感することが難しい中で、私たちはどのように自然環境を守ることができるのでしょうか。

 国際社会では、2030年までに陸と海を30%以上保全し、生物多様性の損失を反転させる“30by30”という目標が掲げられているとのこと。人だけでなく、動物や自然も含めた社会全体のウェルビーイングを実践的に提唱しているトミーさんのお話を聞き、私たち人間の活動そのものが地球環境や生物の多様性なくしては成り立たないことを再認識しました。

  さらに、文化の切り口からは、世代別人口を表したデータを示しながら、世代間の価値観の変化に関して、これからは組織の中で現在の団塊Jr.世代が意思決定を担う役員層になってくること、いわゆる「昭和世代の価値観」からシフトしていくことが指摘されました。

 実際に近年、働き方の多様化やコロナ禍を経た人々の価値観の変化を私たちも実感として感じることも多い中で組織でのリーダーシップや働き方、事業のつくり方も変わっていくことが想像できます。

 

    続いてトミーさんから示されたZ世代の子育てに関するアンケート調査では、約5割の人が将来子どもを欲しくないと考えており、お金の問題(約2割)以外の理由に、自分の時間や自由がなくなる(1位)、子どもが苦手、好きではない(2位)、育てる自信がない(3位)ことが挙げられているそう。これまで「子は宝」と考えられてきた社会の価値観から大きく変化していることが見てとれます。実際に日本の出生率は全体で1.2、東京都では、都道府県で唯一1を下回り、0.99という結果が出ています。

 将来的にも、生産年齢人口がますます減少していき、日本はこれから成長することが難しくなっていくことが見込まれ、さらに外資系企業の進出や海外からの投資の増加により人材確保も含め、とくに国内の中小企業は衰退の危機を迎えています。その意味でも「これから人が一番大事になってくる」とトミーさんは強調します。

 ここまでの講義を聴いた参加者からは、「人口減少のことは知ってはいたが、視点が自分の日常の範囲内にとどまっていたことに気づいた。」という声や、同じように「自分の生活とのつながりがないと、具体的に何か行動しなければという気持ちにはならない。」といった正直な感想が出ていました。トミーさんは、「まずは身近な人と、たとえば世間話や家庭の中で社会のことを話題にしてみるところから」始めて、家庭の価値観の合う人や同世代の人とだけ話すのではなく、様々な世代や価値観の人と対話することが大事だと言います。

    そして、いよいよ話題はAIに移ります。ここでトミーさんが取り出したのは、手のひらサイズの小型ドローン。免許が不要なこのドローンにはAIが搭載されていて、トミーさんの顔を認識し動きに合わせて追いかけてきます。驚きとともに今後一般の人にも普及していくことをリアルに実感したところで、これからの社会において、AI技術はどのように進化し、どのように使われていくのか、後半の講義が続いていきました。

 世界では、オープンAIやグーグル、アップルが続々と技術進化を発表し、米国の起業家イーロンマスク氏によって新たに設立された人工知能の企業「xAI(エックスエーアイ)」が60億ドル(9400億円)の資金調達を行うなど、AIの注目度は高まる一方。日本でも日立製作所が3年後までにAI開発の人材育成(従業員の約2割に当たる5万人規模で)に力を入れていくとのこと。フェーズとしては、これまで社内業務の効率化にAIを活用することが多かったところ、今後は事業拡大に本格的に活用されていくことになるそうです。

 反面で、今まさに紛争が続いているパレスチナにおいても、イスラエル軍が攻撃の対象をAI 標的システムの使用により判別し、空爆の対象にしていたことも公になっています。

    進化し続けるAI技術を「人間がどう使っていくのか、人類にとっての大きなテーマになる」と話すトミーさん。参加者からの「AIに頼りすぎると人間本来の感覚が薄れていくのでは」というコメントを受けながら「一番大事なのは身体性。“感じる力”を取り戻す必要がある。社会や人の感情で動いてばかりいると薄れてしまう自分の感じ方を、自分自身で学んでいくこと」だと、心に響く言葉で締め括られました。人間にしかできないことは何か?という大きな視点と、自分に引き付けた上で、今やっている/これからやっていきたい仕事や活動は自分がやることなのか?という視点を両方もつことが大切だというメッセージは、社会の流れや変化が激しい時代に生きる私たちにとって指針になるのではと感じました。

  次回のKOIN塾のテーマは「パーパスドリブン(目的の明確化)」。次回もお楽しみに!

メンバーページ