KOIN塾 事業を共創する仲間と仕組みの作り方 開催レポート(第4回)
ついに最終回を迎えたKOIN塾!第4回のテーマは「オープンイノベーション」です。外部リソースを活用しながら、関わる人たちや地域を豊かにするような“well-beingな共創”を、どのように生み出していけばよいのでしょうか?前半は講師のトミーさん(my turn理事)の講義、後半ではmy turn代表理事の杉原惠さんをゲストにお迎えし、具体的な取り組みを通して理解を深めていきました。
オープンイノベーションとは、ハーバード大学経営大学院教授ヘンリー・チェスブロウ教授の定義によると、「組織内部のイノベーション促進のために、意図的、積極的に内部と外部の技術やアイデアなどのリソースの流出入を活用し、その結果、組織内で創出したイノベーションを組織外に展開するための市場機会を増やすこと」とされています。提唱されたのが2003年なので、ビジネスの分野でも比較的新しい概念です。
筆者も以前「オープンイノベーション2.0」に関する記事を書いたことがあり、その変遷を調べましたが、チェスブロウ教授が定義したように企業内部と外部の技術・知識・アイデアを有機的に結びつけることでイノベーションを創出する考え方をオープンイノベーション1.0と言います。
*「オープンイノベーション2.0」に関する記事
https://tumugu-1000nen.city.kyoto.lg.jp/feel/4506/
もともと経済システムにおけるイノベーションは、基礎研究所を社内にもち、技術開発から生産まで一貫して自前で行うクローズドなものが主流で、一組織内だけで創出されるものと考えられてきました。しかし、2000年代に入り、研究開発効率の向上や新規事業の創出を目的にした企業間コラボレーションによるイノベーションが提唱されるようになってきたのです。日本では2015年がオープンイノベーション1.0の元年とされています。
“企業同士の連携”で生み出されるオープンイノベーション1.0から進化して、企業に加えて大学・研究機関や行政、市民等の多様な主体が関わり合い、多対多の関係で共通の社会課題を解決していくのが、オープンイノベーション2.0です。そこでは、トミーさんが強調されるように「1人でできないからこそ、仲間と共創していくこと。そのためにも自分の価値観や想いを自分から発信する」ことが重要です。企業も行政も自分たちの組織内だけでは取り組むことが難しい社会課題について、長く地域に根ざして活動してきた市民団体や新しい視点をもっている個人との出会いを探しています。そのときに、一方的な想いだけでなく、社会に求められている文脈やニーズにも沿いながら発信できると、まさにmy turnさんがリビングラボを通じて各地でプロジェクトを立ち上げているように、マルチセクターでの連携につながり、市民や地域が本当に必要なサービスを作り上げることができます。
オープンイノベーションの変遷
さらに、ビジネス環境の大きな変化(DX化やAIの発展)に伴い、企業は製品であるモノを作って終わりではなく、ビックデータを活用した販売後のサービス向上や全体最適の視点でプラットフォームとしての役割も求められるようになってきました。そこで、交通網などの大きなインフラをもつ大企業がオーガナイザー役となり、まちづくりにおいて業種・業界の垣根を越えた複数の企業が連携する「1対多」のオープンイノベーション3.0が進展したと言われています。
そのような変遷の中、トミーさんと一緒に筆者が実践的に研究し、オープンイノベーション2.0の進化系として新たに提唱し始めているのが、「オープンイノベーション4.0」です。
自律したもの同士がオープンにつながりながら形成される「自律分散型社会」では、会社・組織だけに依存せず、個人は複数の多様なコミュニティに所属しています。そして、複数のコミュニティを越えて組織や個人をつなげていく「越境人材」によって、コミュニティ同士が共創・協奏する(共創よりも創発性が高い)類型が増えてきており、それを新しい4.0のモデルとして発信していきたいと考えています。
たとえばトミーさんは、京都と滋賀で活動する中で、もともと構築してきた京都市の複数のコミュニティ(SILKやKOIN、my turnの各リビングラボなど)と大津でのリビングラボ”Otsu Living Lab”、そして新会社HOMO SAPIENS主催の塾の参加者が新たに立ち上げたコミュニティ”conpeito”、さらにはwell-beingをテーマにオンラインとリアルの両軸で活動する学びのコミュティといった多様なコミュニティを行き来しています。
複数コミュニティに所属しながらも「well-beingの実践」という一貫したテーマのもと、やみくもに動くのではなく、意図して誰かと誰かをつないだり、異なるコミュニティ同士が出会いやすい仕組みをつくったり、「越境コミュニティをデザイン」している点がポイントです。
後半では、my turn代表理事の杉原惠さんがトミーさんと登壇された滋賀県守山市での共創をテーマにしたイベントでの経験談を通じて、オープンイノベーション4.0としての「越境コミュニティ」の実例を学びました。
守山市で立ち上がったリビングラボを推進する団体が主催するイベントで、土曜日の開催にも関わらず、企業・地域・学生・アカデミアなど、多様なステークホルダーの方が100名以上集まったそう。
地域が異なればリビングラボの活動内容も異なりますが、杉原さんがイベントに参加して気付いたのは、「ノウハウ以前に行動することの大切さ」だと言います。これから守山市で何かプロジェクトをやりたい人や既に取り組んでいる人の発表を聞く機会もあった中で、「自分だけで考えたアイデア」が多かったこととも関連しているそうです。「自分だけ」のフェーズだからこそ仲間と出会えることが重要で、行動し発信することで人が集まり、共感や後押しも得ながら前に進んでいく。経験上つかんでいた共創のプロセスが「器のように(外部からの情報を受け取って)なってくるんだなと、確信に変わった」と話されていたのが印象的で、ある程度の経験を積んだ段階で別の場所に身を置くことで自分たちの活動を捉え直す機会にもなったのではないかと感じました。
また、当日の会場の雰囲気や滋賀での現状を考えたとき、圧倒的に実践者(プレーヤー)が多い「京都は恵まれていると感じた」反面で、「いろんな人が活動している割には“横のつながり”が少ない」という“余白”にも気付いたそう。京都と滋賀のコミュニティのそれぞれの特徴に応じた違いに気づけたことが、視野の広がりにつながったと言えそうです。そして“課題”という言葉ではなく、“余白”と表現する杉原さんの物事の捉え方が素敵だなと感じると同時に、そのように捉えられるからこそ、自分自身や所属するコミュニティ(杉原さんの場合はmy turn)の可能性も広がるのだと思いました。
杉原さんのお話を聞いたKOIN塾の参加者からは、「自分の軸をもつことと同時に発信することの大事さを学んだ」、「発信することにハードルを感じていたが、杉原さんが前回お話しされていた“雑談レベル”で伝えられるようになることを目標にしたい」、「自分の頭だけで考えるだけにとどまらず、苦手なことや弱みも含めて伝えられるようになりたい」、といった前向きな感想が飛び交っていました。
最後は記念の集合写真を撮り、今年度のKOIN塾も盛況のうちに締め括られました!
筆者自身、今年もKOIN塾に伴走させてもらい、毎回新鮮な学びを得て地域での実践や研究に活かしてきました。ますます確信しているのは、トミーさんも最後にコメントされていたように「戦略よりも妄想・探究すること」そして「一人称で(人として)出会い、本音で語ること」「対話の中での再発見」の大切さです。
戦略的に頭で考えると過去の経験に縛られたり、“合理的な判断”によって行動にストップがかかってしまったりしがちですが、直感的に感じて動物的に動いたうえで、理屈は後から考える方が枠を越えられます。そして、普段の肩書きを外して自分軸で発信することで共感する仲間と出会い、人との対話の中で自分の本来性や良さを見出す・再発見していくこと。
そんなプロセスで複数のコミュニティをもつ個人が越境し合い、異なるコミュニティ同士のオープンイノベーションが加速していく社会を、これからも実践的に探究し、発信し続けていきたいと思いを新たにした最終回でした。
今年度も第4回までのレポートを最後までお読みいただき、ありがとうございました!!