【イベントレポート】U-39 KOIN Campus~京都の伝統産業に挑む 北澤 真の挑戦~
U-39のこれから京都や日本を担う若手の方々に向けて、初回となる今回は、北澤造園の北澤 真氏をお招きし、伝統産業や仕事への向き合い方、働き方、そして挑戦の軌跡についてお話を伺いました。
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登壇ゲスト プロフィール
京都鳴滝 北澤造園 北澤 真 氏
1988年京都生まれ。立命館大学理工学部都市システム工学科卒業。生家は代々続く北山杉を主とする造園業。父の後を追って野山を歩き、木の鼓動、石の声、鳥や虫の気配など、自然界のさまざまなエッセンスを鋭敏に感じ取る幼少期を過ごす。
庭を中心とした空間芸術のテーマは「自然界と人間界の美しい共生」。サイトスペシフィックな作品として、個人邸やホテル、京都の寺社などで展開。生来の本能・野性に導かれるまま、現代生活から失われつつある自然界の圧倒的な感覚を取り入れた美しい空間創出を目指し、地元京都から海外への進出も手掛けている。
・北澤造園 HP: https://kitazawa-zouen.kyoto.jp/
・北澤 真 インスタグラム:https://www.instagram.com/kitazawa.makoto/
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モデレーター
株式会社MIYACO 徳田 直也
・株式会社MIYACO HP: https://miyaco.kyoto.jp/
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作品紹介と創作のポイント
まず、北澤氏がこれまでに手掛けてきた作品を見ながら、制作時のお話やポイントをお聞きしました。
<泪 @妙顕寺>
「石を積み上げて作った亀の周りに砂紋を5つ描き、亀から涙が落ちて砂紋が広がっていく様子を表現しました。点滅するライトは亀の鼓動を表していて、命の尊さを表現しています。」(北澤氏)
<パーティ>
・ハウステンボス 花の世界大会&ガーデニングショー2017
・テラスガーデン部門 最優秀デザイン賞 作品
「この大会では過去に花が多く使われる傾向がありましたが、他の作品との差別化を図るため、私はあえて花を多用しすぎずに京都的な技術を取り入れて作りました。」(北澤氏)
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働き方や仕事観について
続いて、北澤氏の働き方や仕事観についてお話を伺いました。
徳田氏:
「家業に入ろうと思ったきっかけは何ですか?」
北澤氏:
「一番のきっかけは、10歳くらいから家業をしている親の手伝いをしていたことです。中学生の時、滋賀県大津のホテルの庭を新しく作り直すことになり、夏休み前に兄と一緒に土を運んだりと手伝っていました。夏休みが終わって、作った庭の仕上がりを見て、何もないところからここまで出来上がっている光景に何かビビッと感じるものがありました。その夜に一緒に行った兄を興奮しながら説得して、自分が家業を継ぎたいと話しましたね。当時、兄は銀行員になりたいと言っていて、実際にそれを今叶えているので、結果的にお互い良かったと思っていますね。」
徳田氏:
「どこにビビッときたんですか?」
北澤氏:
「父がやっている職業がこんなに魅力的なんだと体感したんです。ただ、家業に入る前に大学を卒業してからは会社に通っていました。土日は仕事が休みだったので、週末に京都に戻り、家業の庭造りの仕事をしていました。最初はサラリーマンを3年ぐらいやろうと思っていましたが、地方から造園業に就職・修行に来る若者たちの成長を見て、このままでは差が開くだけだと思い、3ヶ月で会社を辞めて、家業に入りました。今では早めにこの道に入って良かったと思っています。」
「22歳の時から今も『世界一の庭師になる』と思っています。家業に入って半年くらいした頃の話なんですが、八坂神社の裏で作業していたとき、おばさんから『庭師さん』と声をかけられたときにショックを受けたことがありましたね。」
徳田氏:
「『庭師さん』と呼ばれて、なぜショックを受けたんですか?」
北澤氏:
「半年しかやっていない自分でも、世間の人は庭師だと思っているんだと実感しました。また、そこから3日後のことですが、父と仕事終わりに行った銭湯の石垣を見て、父に『これ、庭師さんもやるの?』と聞いたら『やる』と言われ、それができない自分が悔しいと思いました。その翌日から、夕方6時頃に先輩が帰った後、夜中の11時半頃まで裏の畑で石を積んだり、庭を作る練習を始めました。」
徳田氏:
「そこまで熱量を持って打ち込める仕事があるって素晴らしいですね。」
北澤氏:
「初めて給料をもらったときは印象的でした。好きなことをさせてもらってお金を頂けて喜びを感じました。給料袋を開けてお金が入っていることに感動したことは今でもはっきりと覚えています。」
徳田氏:
「全然話が変わるんですが、前に聞いたコンビニでのエピソードを思い出しました。北澤さんはコンビニに入って、歩みを止めずにその流れのままパンやおにぎりを取って買い物しますよね。なぜそんなことをしているんですか?」
北澤氏:
「世界一の庭師を目指すと決めたとき、成し遂げたいことがあって、それからの逆算だと思ったんです。今日一日、どれだけ努力すれば良いのか。現場では常に最高のパフォーマンスを心がけています。後から『もっと頑張れた』と言っても、今日できていなければ、明日もできない。結局、その積み重ねだと思います。僕の仕事は暗くなったらできないので、明るい時間にいかに効率的に過ごすかが重要になってきます。コンビニでお弁当を温める時間すら惜しいんです。毎日1分1秒を大切にして、手帳にできたかどうかを○や×で記録していました。」
「全員が世界一を目指す必要はないですが、願いの強さは大切だと思います。僕がここまで来られたのは、本気でやったからだと思っています。」
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家族と職人さんとの仕事観
家業を継ぎ、家族と職人さんと共に仕事をされている北澤氏の仕事観についてさらにお聞きしました。
北澤氏:
「まず、家族が仲良く一緒に仕事をできていることが一番だと思います。家族で一緒に働くとなると、難しいこともあります。北澤造園では父が過去30年ほど経営を見てきましたが、人々のライフスタイルの変化も激しい現状と今後のことを考えると改革が必要だと思っています。改革を進める上で、まずは僕自身が変わろうと思い、日々仕事に取り組んでいます。ゴールから逆算して、今やるべきことをやれば絶対にできると思っています。」
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現在挑戦していること
最後に、北澤氏が現在挑戦されていることについて伺いました。
北澤氏:
「現在、アメリカのロサンゼルスであるプロジェクトを進めています。有難いことに、人からのご紹介で今後はアメリカや海外での仕事も増えていくと思っています。長期的な目標としてはアメリカで発行されている専門誌にて日本庭園ランキングが毎年発表されているのですが、20年以上連続で足立美術館の庭園が賞を取っています。20年以上、新たに1位を取る庭が出てきていないので、自分がこれから知名度を築き、40代になったときに足立美術館よりも素晴らしいものを作りたいというのが今の目標です。」
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Q&Aセッション
リアルタイム質問フォームであるSlidoを活用して、リアルタイムで参加者の皆さまから質問をいただきました。
Q.逆算のやり方や実践されている方法を教えていただきたいです。
北澤氏:
「曼荼羅チャートのようなものをノートに書いていました。最初に『世界一の庭師』と真ん中に書き、そこから技術や普段の生活、重要なことをひたすら書き出していきます。最初の1、2年はそれを続けて、癖がついて頭に入ると、書かなくてもイメージできるようになりました。やりたいことが見つからない場合でも、まずゴールを決めて、そこから逆算で何年後になれるのか、この1年で何をするのかを考えます。僕の場合、半日以下の時間まで目標を設定します。寝る前に15分くらい、明日の作業のイメージをしながら過ごすという、非常にシンプルな繰り返しですね。」
最後に
「自分は死ぬまで諦めなければ、絶対に実現できると思っています。ただ、そのためには自分が『強烈な念』と呼んでいる、やりたいことばかりを考える姿勢が必要になってきます。特に自分より若い世代にはそれを伝えたいと思っています。自分のやりたいことに向かって日々取り組むと、一人一人の生活がより豊かになり、しかも、お金では買えない感動や充実感を得られるのではないでしょうか。」
北澤 真氏の熱い想いと挑戦を通じて、伝統産業や仕事への向き合い方について深く学ぶことができました。彼の言葉から、多くの刺激と勇気を得ていただけると幸いです。
WRITER : 西尾 創平