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【イベントレポート】U-39 KOIN Campus~岸えりなのキャリアから学ぶ20代の決断と選択~

U-39 KOIN Campus第3回目は、京都の東九条にあるホテル『HOTEL SHE, KYOTO』の支配人である岸えりな氏をお招きして、「空間」づくりにかける想いや自身のパラレルキャリアからホテルの支配人になったキャリアの決断と選択についてお話しいただきました。

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登壇ゲスト プロフィール

株式会社水星 HOTEL SHE 統括マネージャー・支配人 岸 えりな氏
【経歴】
1994
年、兵庫県丹波市生まれ。同志社大学文学部美学芸術学科卒業後、住宅設備メーカーで法人営業を行いながらフリーランスでデザイナーを経験。ホテルという手段を通して世の中に新しい選択肢を与える仕事に興味を持ち、水星に入社。

【株式会社水星 / SUISEI Inc.】 
https://suisei-inc.com/

ホテル開発・空間プロデュース・地域ブランディングなどの事業を通して、『ライフスタイルと観光の新しい選択肢』の創造を図るホテルプロデュースカンパニー

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モデレーター

株式会社想結び 西尾 創平

 ・株式会社想結び HPhttps://co-omusubi.jp/

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01.オープニング

・ホテルはメディア!?

HOTEL SHE, KYOTO』のホームページ(https://www.hotelshekyoto.com/)は岸氏自身が作成されたそう。特徴的なデザインについて岸氏はこう語る。

「ホテルはメディアであるというテーマが水星にはある。客室にレコードプレイヤーを置き、メディアみたいに新しい文化とか価値観とかを泊まってくれるお客さんに伝えることができる。」
「観光の後の寝泊まりする場所として宿を提供しているわけではなく、”新しい文化や価値観とかを試着してもらうような場所”としてホテルの空間を活用していきたいと思っている。」

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02.ホテル支配人として

ホテル支配人というとスーツでビシッと決めているイメージを持たれるけれど、実際はそうではないという岸氏。

・前職(住宅の設備メーカー)との違い

「みんな私服で出勤していて同世代しかいないから、会社に行くことへのハードルが下がった。なんかこう、スーツをバチっと着て仕事行っているという感じが今は全然ないかな。バックグランドも、前職で大きい会社で働いていた方も一定数いるので、その前職での良い制度を水星に取り入れている。」

・採用の基準は「バイブス」

「詳しく言葉で説明できないので、難しい部分もあるんですけど(笑)
休日、京都で何をしているかとか、好きな音楽とか、 最近行った展覧会とか。
自分が普通に普段飲みに行きたいと思うかどうか?や、会った時に面白い話が繰り広げられるかどうか?を、結構仲間にしたいかの基準にしている。」

・東九条にあるホテルのコンセプトは「最果ての旅のオアシス」

京都の街を歩いていると観光客が多く、観光客向けにどんどん開発が進んでいて”本当の京都はここにあるのかな?”と感じている岸氏。

「東九条の町は、まだ全然開発されてないエリアで、 実際、本当にその場所に昔から住まれているおじいちゃんおばあちゃん、昔ながらのお花屋さんとか、銭湯とかで、生活を営んでいるみたいな、リアルな京都の街並みがある。

九条まで来たら、ちょっと一息つける、一歩外に出ても本当にそこに住んでいる人たちが営んでいる生活があるので、その目に入ってくる景色とかも、すごく落ち着けるような景色が広がっている。」

・自分たちなりの京都のあり方、世界観

一見日本らしさを前面に出していないように感じるホテルの世界観は「荒涼とした砂漠の中のハイウェイを走り続けるとあらわれる、旅人が安らぎを求めるモーテル」。そこに東九条という閑散とした町並みにあるホテルを重ね合わせているそうだ。

「”京都イコール市松模様”とは思っていなくて。自分たちが思う京都っぽさっていうのは、そういうところがまた全然別のところにあるので、内装デザインが一見全然京都ちゃうやん!と思われるかもしれないんですけど、自分たちなりに京都のあり方みたいな解釈した先にあるのがこの世界観。」

・コロナ禍にホテル業界へ転職し、始まった企画が「泊まれる演劇」

コロナ真っ只中の、ホテル経営が難しい時期に入社した岸さん。
観光業が縮小する中、「泊まれる演劇」という、チケットを買った人だけが宿泊でき、ホテルに立ち入った瞬間から劇が始まるホテル一棟丸々使ったイマーシブシアターイベントをHOTEL SHE, KYOTOでは実施していたという。その期間は俳優さんもスタッフで混じり、劇をやっているところに宿泊する人も入り込んでいく体験ができる。

「コンセプトで話したように、”観光目的に京都に来る人が泊まるホテル”ではなくて、『泊まれる演劇』を見たいから『HOTEL SHE, KYOTO』や京都行くみたいな人をターゲットにしている。」

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 03.キャリアの決断と選択

・学生時代から京都の好きなところ

兵庫県の出身で、 大学の4年間京都で1人暮らしをし、就職で大阪に住んだ後に戻ってくるほど京都愛が強い岸氏。大阪に住んでみて古本屋が多くあるなど京都独特のカルチャーに気づいたそうだ。中でも京都の好きな場所は鴨川だと語る。

「鴨川って、アクセスのいいところにあり、京都の北から南まで全部通っているからどこからでも行けるんです。四条河原町とか周りがガヤガヤしている場所からすぐ行けて、鴨川に行ったらすごく大自然広がっていて、河川敷にゆっくり寝転んで過ごすことできるみたいな。ああいう、公共性の高い空間が街中にあるのは、それこそお金のない若者とかが育むカルチャーとかができやすい要因の1つかなと感じる。」

「学生時代、お金がなかったから鴨川でバンドの練習をしたりしていた。芸大生もよく鴨川でなんか創っていたりとか研究していたりとか。そういう街中にでっかい公共空間みたいのがあるのが、京都のすごく好きなところ。」

・フリーランスのデザイナーからホテルのマネージャーに至った過程

「クライアントワークでただ販促物のバナーをひたすら作っている、みたいなデザインの仕事は、自分はやりたいことではないのかもと感じるようになり、何か1つのテーマや伝えたいことを自分がプロデュースして、それをデザインを通して作っていきたいと思った。水星は、自分たちが運営する施設を自分たちでプロデュースできる。自分のやりたいことに結構ドンピシャだった。」

・最初のキャリアの選び方

自身の就活では就職説明会で見た企業しか受けることがなく、自ずと都会の企業へ就職した経験から、就活の方法で住む場所を選ぶのは勿体無いと話す。

「今って本当に大学生の方の就活の方法がすごく多様になってきていると思う。就活に使うサイトとかもいっぱいある。インターンやイベントなども。自分に本当にマッチした企業を見つけていただけるといいんじゃないかな。」

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04.グループセッション/質疑応答

・他のホテルとの差別化、サービス設計する上での考え方は?

「自分が欲しいサービスを作っているだけ。自分が泊まって良かったサービスを取り入れる。」

・チャレンジする中でテンションが下がった出来事はありますか?

ここ1年間ぐらいで大変だったエピソード。
詩人”最果タヒ”氏とホテルがコラボレーションする企画の準備で、ホテル内での展示だけではなく、最寄りの九条駅やホテルの周辺のお店さんにも展示を依頼する際に苦労した。

「高齢の方が多い町内会や自治会にすごく説明に行っていたんですけど、なかなか、最初受け入れてもらえなかったりとかして、もう一件一件私がノックしてって。全部1人でやっていたんで、 心折れそうになった時とかもあったんですね。でも、23ヶ月ずっとやっていると、ちょっと興味持って調べてみてくれるおじいちゃんとかが出始めてまして。調べると(最果タヒ氏は)いろんな賞を受賞されているすごい方なので、 一気に見る目が変わって、おじいちゃん同士のコミュニティで口コミ広がってどんどん協力してくださった。」

・最終的にその人たちを動かすのって、どういう形で動かせるんですか?

「”町を使ったアートイベント”という言い方をすると、自分たちの街並みがある日突然違う風になってしまうんじゃないかと思われてしまう。
そうではなくて、町の風景に最果タヒ氏の詩がひっそり溶け込んでいるみたいな。町の雰囲気を壊さない企画がどういうものかを、ちゃんと考えておく必要があるんじゃないかなと思っている。自分たちが住んでいる町ややりたいと思っているエリアの魅力をどれだけちゃんと理解できているかどうかとかはすごく大事。」

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 05.最後にこれからチャレンジする人に向けてのメッセージ

「私が学生の時にはこういう実際に京都で働いている人の声を聞くようなイベントにそもそも出会うすべを知らなかった。ここに集まってはる皆さんは、今参加できているそれだけでもすごいことやなって思っている。ぜひそういう情報を自分から使いに行くという姿勢があれば、理想の働き方とか絶対手に入れられると思う。」

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岸氏の活動とその想いについてお聞きして、問題が起きてもそれを乗り越えて新たな価値を生み出していく姿勢と本当に「やりたいこと」を実行する大切さ、「地域風土に溶け込む空間づくり」を学べる貴重な機会となりました。

常に新しいことに挑戦し続けることこそが、岸氏のキャリア決断の本質なのかもしれません。

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