【イベントレポート】U-39 KOIN Campus Collabo with アトツギ掛け算プログラム~伝統技術で服を蘇らせる 4代目 荒川氏の挑戦~

U-39 KOIN Campus最終回となる第4回目は「アトツギ掛け算プログラム」とのコラボ企画です。
株式会社京都紋付の4代目となる代表取締役社長の荒川徹氏をお迎えして、変化する時代に適応しながらも日本の文化や職人技を守るためのビジネスモデルづくりについてお話しいただきました。
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登壇ゲスト プロフィール
株式会社京都紋付 代表取締役社長 荒川 徹 氏
【経歴】
家業である京都紋付に入社後、伝統産業の現場で技術を学ぶなかで、変化する時代に適応しながらも、日本の文化や職人技を守る重要性を実感する。
業界全体が縮小するなかで、同社独自の「深黒加工」に注目し、新しい価値を生み出す取り組みを開始。洋服の黒染めによるアップサイクル事業『KUROZOME REWEAR PROJECT「K」 』を立ち上げ、廃棄される衣類を再生させることで、持続可能な社会づくりに貢献。国内外のブランドとのコラボレーションも積極的に行い、伝統と革新を融合させたものづくりを展開。未来へ続く技術と文化の架け橋となることを目指し、日々挑戦を続けている。
【株式会社京都紋付】
http://www.kmontsuki.co.jp/
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モデレーター
株式会社MIYACO 徳田 直也
【株式会社MIYACO HP】
https://miyaco.kyoto.jp/
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01.オープニング
今回は、京都知恵産業創造の森が実施する2つの事業―何か新しいことに挑戦したい39歳以下の学生・社会人を対象に各分野で活躍するゲストを招いてトークセッションを展開する「U39 KOIN Campus」事業と、組織や家業を改革するマインドを持つアトツギの皆様が交流し、新たなコミュニティの形成を図る「アトツギ掛け算プログラム」―のコラボ企画です。
株式会社京都紋付 代表取締役社長の荒川さんをお招きして、100年以上続く「黒染め」の技術を受け継ぎながら、時代に合わせて家業に新たな価値を生み出し、市場へ挑戦し続ける取り組みとその姿勢について語っていただきます。
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02.会社と伝統技術「黒紋付」について
荒川氏:
当社は1915年創業で、私で4代目になります。創業以来、「黒紋付染め」を専門としてきました。かつては成人式や婚礼用の着物として年間300万着以上の市場規模があり、当社でも最盛期には年間10億円規模の売上がありましたが、今や黒紋付関連の売上は会社全体の1%以下にまで落ち込んでいます。
現在、京都で黒紋付を染める職人は10人ほどしか残っておらず、当社でも週に1回程度しか染め作業をしない状況です。しかし、「黒紋付染め」の技術は日本の伝統文化の一部でもあります。この技術を活かし、新たな市場へ展開できないかと考えたのが、私が40歳前後の頃でした。
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03.黒染め技術を活かした新たな挑戦
徳田さん:
伝統産業の厳しさが伝わってきますね。そんな状況の中で、黒染め技術を活かして衣類のアップサイクル事業へと展開されたわけですね。
荒川氏:
そうです。当社の「真っ黒を極める」技術には定評がありました。そこで、着物だけではなく洋服を黒く染め替えるサービスに着目しました。
一時期は「あと3年このまま赤字が続くなら廃業するしかない」とまで考えたこともありましたが、ちょうどその頃から私たちの黒の染め直し技術がアパレルメーカーの間で評価され始めました。
具体的には、有名ブランドの売れ残り商品を黒く染め直して再販するビジネスモデルや、一般のお客様の着なくなった洋服を黒染めして再生させる個人向けサービスを開始しました。この「KUROZOME REWEAR PROJECT K」が軌道に乗り始め、メディアにも取り上げられ、SDGsの観点からも注目されるようになりました。結果として、売上がV字回復しました。
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04.リブランディングの秘訣とは?
徳田さん:
リブランディングの際に最も重視されたポイントは何でしょうか?
荒川氏:
「自分たちの強みは何か?」を改めて考えて、私は「黒に特化する」という結論を出しました。よくあるのが「市場が縮むから、ほかの色染めや別のジャンルにも手を広げよう」という発想ですが、うちは逆で、「黒以外に手を出すのはやめよう」と決めたんです。
実際、もともと着物用の染色設備なので、幅が狭いとか、洋服とは工程が異なるなど不利も多い。それでも負けない「黒の技術」を核にしていこうと。黒紋付の伝統を守りつつ、新しいマーケットに黒染めを横展開していくことを第一に考えました。
徳田さん:
最初はどうやってブランドさんとコラボを始めたんですか?
荒川氏:
京都市や京都商工会議所などが主催する展示会に積極的に出展したりしました。そこで目立つブース作りを心がけ、「黒染め専門」という一点突破のインパクトを出していったんです。京都は観光や出張がしやすいので、東京や大阪のアパレル関係者の方が話を聞きに来てくれやすいメリットもありますね。
あとは、自分で「黒染めの未来」みたいなビジョンをいつも語っていました。そうすると「面白そうだね」と興味を持ってくれる人が現れる。そこからパートナーを紹介されて「じゃあ試しにやってみようか」と少しずつ繋がっていきました。
徳田さん:
やっぱり「自分がやりたいこと」を発信し続けることが大事なんですね。新規事業に人手や時間を割くのは大変だと思いますが、そこはどう工夫されたんでしょうか?
荒川氏:
「自分が手を動かさないと回せない」部分は多いですが、一方で仲間づくりも大切です。自分でできないことは外部の得意な人に協力してもらう。ですから普段から「こんなことをしたい」という構想を人に話しておく。するとパートナーが見つかる可能性が高まります。
徳田さん:
「KUROZOME REWEAR」の代理店制度や、オンラインで申し込みが完結するシステムはどのようなきっかけで思いつかれたのですか?
荒川氏:
全国規模で提携先が増えると、紙ベース(専用の申込用紙や送り状)でやり取りするのは手間が大きい。そこで「通販サイトのようにオンライン完結できないか?」と考えたんです。洋服には色柄や生地がまちまちですが、ある程度分析すると「Tシャツならこの範囲の重さなら○円」という形でアイテム別料金を決めていける。
そうやって集積したデータをシステムに反映して、今のようなネット完結型の黒染め受注サイトができあがりました。
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05.伝統産業を守るためにできること
徳田さん:
機械化や自動化が進むなかで「日本の文化や職人技を守る」ことについて、荒川さんはどうお考えですか?
荒川氏:
伝統を守るには資金と時間が必要です。黒紋付の市場が縮小しても、黒染めの技術と設備を維持することは私たちのアイデンティティです。そこは会社をやる以上絶対に守る。結果として和装の文化も継承されるわけです。
ただ、職人さんがずっと専業でやるだけでは立ち行かなくなる状況なので、当社がそこである程度仕事を創り、一緒に稼ぎながら継続できるようにする。そうしないと伝統産業は本当に廃れてしまうと思います。
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06.グループセッション/質疑応答
(会場からの質問)
「家業の後継ぎとして親との意見がぶつかることが多いのですが、どのようにコミュニケーションを取っていましたか?」
荒川氏:
父がかなりワンマンなタイプだったので、最初は社員さんの立場で父とやり合うことが多かったですね(笑)社員さんはなかなか言いにくいことを僕が代弁する。喧嘩というより、社内の声を父に伝えて互いに落としどころを探す感じでした。
あとは「背中を見せて学ばせる」という部分が大きかったかもしれません。父が一生懸命働いている姿を見ていたから、自然と覚悟ができた部分もあります。私自身、息子に細かく口を出すより、「やっている姿を見せる」ほうが大事かなと思っています。
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荒川さんのお話にあった、「自分たちの強みを見つけ、それを活かすこと」「やりたいことを周囲に発信し、協力者を得ること」、そして「伝統を守るために新しい形でビジネスとして成立させる」という姿勢が、これからの後継ぎや起業を考える皆さんにとって背中を後押ししてくれるメッセージになったのではないでしょうか。