READING

企業に所属しながら、自分らしく働き、豊かな人生を送る「働き方」

WRITER : 柴田 明
PHOTO : 柴田 明

長かった残暑もようやく影をひそめ、秋らしい夜風が吹き始めた10月の京都。「自分を生かして働くための全4回」イベントの始まりに向けて、共創の場「KOIN」にはいつもよりも女性の姿が多く見られ、華やかな雰囲気に。中には、ベビーカーを押してお子さんと一緒に来てくれた方もいた。オープンから約6ヶ月。同じ週に「京都に選ばれ続ける企業経営を学ぶ全4回」シリーズも開幕し、さらに多様性に富んだ人々が集まる場になってきた。

「自分を生かして働くための全4回」シリーズのガイド役は、株式会社ワコールホールディングス ダイバーシティ・グループ人事支援室 室長 鳥屋尾 優子(とやお ゆうこ)さん。企業に所属しながらも個々が自分らしく働き、創造性を高め、豊かな人生を送る「働き方」について、参加者との対話をまじえてお話ししてくださる。

会のはじめに、KOINのディレクターを務める一般社団法人リリース 共同代表 桜井 肖典さんから、鳥屋尾さんの紹介があった。

「今回このシリーズをお願いしたのは、鳥屋尾さんが会社を深く愛しているから。いつも明るく働いているけど自分のしたいことを曲げているようにも見えない、稀有な人です。」

期待していなかった仕事が、予想を超えた景色を見せてくれることもある

第1回のテーマは「チューニングしよう〜納得できない仕事が予想を超えた景色に連れて行ってくれる〜」。チューニングには「調律」「同調」という意味があるが、自分をチューニングするとはいったいどういうことなのだろうか。

「会社員として仕事をしていると、自分で仕事を選ぶというより、仕事の方からやってくることが多いと思います。その場合、自分のやりたいこととドンピシャな業務が来てくれるわけではないですよね。でも、自分が期待していなかった仕事でも、流れに乗ってしまえば予想を超えた景色を見せてくれることもある、ということを今日はお話ししたいと思います。

私は国際事業部に入れると思ってワコールに入社したのですが、配属されたのは全然興味のなかった財務部でした。6年間がんばったんですけど、どうしても海外に行きたかったので、やっぱり会社を辞めようと一度は心を決めました。でも、上司から『広報の仕事をやってみぃひんか』と言われまして。あんまりおもしろくなさそうやなぁと思いつつ、3年だけやってみようと広報部へ行きました。そしたら、すっかりはまってしまって、そこから20年くらい広報の仕事をしました。」

鳥屋尾さんの優しい話し方と笑顔に、参加者の方々の表情も次第にやわらかくなっていった。財務部にいた6年間も日々の仕事を楽しんでいたという鳥屋尾さん。自分らしく仕事をするコツを、3つ紹介してくれた。

1. 石を遠くに投げておく

「自分の未来像をイメージすると、目の前の仕事の捉え方が変わります。私は財務部にいた時は、『海外で働く』という石を投げておきました。そのために今の仕事があると考えると、経理・財務のような管理部はどこの国にも必ずある仕事だなと思えるようになったんです。そのおかげで、誰もやりたがらない現金精算の仕事も、ゲーム感覚を取り入れて楽しくこなせるようになりました。

その後、広報部に異動して、今度は『かわいいおばあちゃんになる』っていう石を投げました。広報部は常に締め切りに追われていて、かなりハードな現場でした。でも、かわいいおばあちゃんはにこにこ笑ったはるよなぁ、いつも仲間が周りにいて楽しそうやなぁ、私も笑っとこ!と意識を変えてみたんですね。すると色んな人が助けてくれるようになり、情報も集まって、仕事がスムーズに進むようになりました。」

おだやかな京都弁でご自身の経験を語ってくれる鳥屋尾さん。同じ場にいるだけで、彼女が醸し出す朗らかな空気に癒されるような存在だ。「鳥屋尾さんのファンだから来ました。」という参加者が多いのも頷ける。「数年前に投げた石は、『空手の師範になる』こと。今、黒帯2段なんです。」と、意外な一面も見せてくれた。

2. 重なりを見つける

続いて、鳥屋尾さんはホワイトボードに [やりたい・できる・やるべき] という3つの円を描き始める。

「この3つが重なると一番いいんですけど、会社での仕事は、ほぼほぼ [やるべき] から入っていきます」

「中には、そんなこと自分にはできないと思う仕事もあります。でも、そういう時も会社を信頼して、『できると思ったから任せてくれたはずや』と自信を持とうと思いました。そうやって挑戦してできることを増やしていったら、やりたい仕事が入って来やすくなります。[できる]の円を大きくしていくことが、社会と自分のチューニングに繋がるんです。それを続けていると、とても高い確率で、3つの円が重なる仕事を見つけられますよ」

3.選べる状態に自分を置く

「できることを増やして、やるべき仕事にきちんと応えていくと、周りからの信頼が得られます。信頼を増やすと、だんだん仕事を選べるようになっていきます。

広報部に異動になった時の私は、編集なんて全くできませんでした。それまでほとんど読まなかった本をたくさん読んで、色んな人の文章に触れて、自分の感情を言葉で表現する訓練をどんどんしました」

「ある時、グループの海外現地法人ではワコールの経営理念をどういう風に伝えているのか、日本のワコールは海外のメンバーからどう見えているのかを取材してまとめる企画を会社に提案しました。その企画が実現して、色んな国に行かせてもらいました。海外に行きたいという目標と編集の仕事が繋がったんです。しかも、その企画が好評だったおかげで、のちにアメリカや中国の現地法人から周年記念誌の制作を手伝ってほしいと声をかけてもらいました。それが、すごく嬉しくて。自分の部署の仕事以外に自分で選べる仕事ができた、自由を得られた、と思いました」

話の途中、にこやかな表情でさらりと告げられる「めちゃくちゃ勉強しました」、「上司から『おまえは勉強しすぎや』と怒られたこともあります」という言葉が耳に残った。

「勉強という言葉を使いましたが、言い方を変えると、めちゃくちゃ失敗してきたということです。できないことに挑戦する過程で、何度も地雷を踏んできました。その度に心ある上司から叱ってもらい、アドバイスや協力をしてもらって、多くのことを学びました。新しいことを知るのは楽しいですし、そこから何度も繰り返し訓練して [できる] を増やしていく。その連続でここまで来ました」

絶え間ない努力とチャーミングな人柄、その絶妙なバランスが鳥屋尾さんの魅力を形作っているように感じた。

後半は、テーブルごとに書いた鳥屋尾さんへの質問に答えていただく時間に。

 


Q. 信頼される仕事の仕方とは?

「挨拶です。朝の挨拶が絶対大事やと思います。こっちから声をかけると、向こうからも声をかけてもらいやすくなって、仕事が入ってきやすくなると思います。あとは、相談を受けたら断らない。自分では対応できないことは、ちゃんと他の人や部署につなぐ。締め切りを守る。知らないことは知らないってちゃんと言って、教えてもらうか、自分でも学ぶ。当たり前のことばっかりですけど、大事だと思います」


Q. 今の仕事と自分をチューニングしきれず、退職する人もいますよね。どういう場合はチューニングをあきらめていいと思いますか?

「私自身は、自分が選んだ会社に入っているという前提があるので、ここまでがんばってきました。会社を良くしたいとか、がんばりたいという気持ちがなくなって、もう感情として嫌になってしまった時は、リセットしていいと思います。自分で選んだ会社を否定し続けると、常に自己否定をしていることになってしまいます。それはやっぱり体に良くないので。私も99.9%嫌だなぁって思ったこともありますよ。でも、残っていた0.1%の可能性に賭けました。その時は、結果としてわずかな可能性を掴み取れました」


 

しなやかな生き方・働き方に惚れ惚れする参加者たちに、はにかんだような笑顔で「ある意味、石を投げるというのは現実逃避なんです」と言う鳥屋尾さん。「よくばりなので、やりたいと思ったら全部始めて、やめたこともたくさんありますよ。去年買ったギターがあるんですけど、全然練習してなくて……この前『あれ、ずっと飾ってるな。もはやインテリアやな』って相方に言われました」と、場を和ませてくれた。

第2回「リフレーミングしよう」は、11月7日(木)開催。「自分の中に多様な視点を育むことで [できる・やりたい・やるべき] 仕事の見え方が広がり、より自由な動きができるようになる、というお話をしようと思います」という言葉に、次はどんなエピソードを聞くことができるのかと期待が高まる。

オープンイノベーションカフェとして作られた「KOIN(Kyoto Open Innovation Network)」は、事業を始めたい、広げたい、応援したいなど、さまざまな人の新しい一歩を後押しするための場所。毎日7:30から21:00まで誰でも利用できる場所なので、ぜひ足を運んでみてください。

メンバーページ