グローバルに。ローカルに。ゲームから生み出された京都版SDGs | 9/29 開催イベントレポート
PHOTO : 小坂綾子
2030年、世界はどうあるべきか。
そんな視点でつくられた国際的な指標SDGsをゲームで考える「SDGsカードゲーム×ハッカソン」が、9月29日に開かれた。35歳以下対象イベントの第4回で、大学生ら14人が、課題を解決するイノベーションのアイデアを次々に生み出した。
この日講師を務めたのは、NPO法人グローカル人材開発センター事務局長代理の仲田匡志さん。新卒でNPO法人に就職という少々変わった経歴の持ち主だ。
「普通は、大学を卒業したらまず会社とかに入ると思うんですけどね。NPOの理念に共感したんですよ」
仲田さんが今の仕事を始めた思いを紹介するところから、イベントはスタートした。
社会の課題を、僕らの代で解決したい
2013年、「就職活動を苦に自殺した人が100人超え」という新聞の見出しに衝撃を受けた仲田さん。自分が本当にやるべきことは、次世代の後輩がそんなことにならない社会を作ることではないかと思い至る。
「グローカルっていう言葉は、シンクグローバル・アクトローカルを意味する造語。グローバルに物事を考えながらローカルに行動する。そうやって社会の課題を僕らの世代で解決していかなくちゃならないんじゃないかな、と」
そこで鍵を握るのが、SDGsだ。
「SDGs、よく知ってるっていう人、いますか?」
仲田さんの問いに、ほとんど手が上がらない。
「言葉は知っているという人は?」
パラパラと手があがる。
国連加盟国193カ国が同意した国際的な17の持続可能な開発目標SDGs。仲田さんは、その理念や成り立ちを解説しながら、この日のキーワードを紹介する。
誰一人取り残さない
「世界的に見ても、SDGsに取り組まない企業には投資されなかったり、日本でも金融機関がSDGs関連事業に積極的に融資したりする。そういう背景があって、持続可能な仕組みでビジネスしなければ応援されにくい社会になっていくでしょう。その中で今日は一つ、『トレードオフ』という言葉を覚えてもらいたいと思っています。『誰一人取り残さない』という、SDGsの大切な理念を実現するための大切なワードです」
Aという問題を解決するためにBという解決策を講じたら、Cという新たな問題が生じる。この矛盾を表す「トレードオフ」。何かをプラスしたときに何かがマイナスになることなく、プラスの状態であり続けるための仕組みが必要なのだ。
「SDGsは、前身のMDGs(ミレニアム開発目標)を引き継ぐ形で採択され、『誰一人取り残さない』は新しく加わった理念です。これまでは、トレードオフという考え方がない状態でビジネスが進んできたので、新しいイノベーションを生み出さなければならないと言われています」
既存のリソースでイノベーション
「トレードオフ」と「イノベーション」。いよいよ、この二つのキーワードを念頭に、参加者がカードゲームに挑む時間がやってきた。
今回のゲームで使うのは、金沢工業大学の研究室と社会課題解決に取り組むクリエイティブカンパニー「リバースプロジェクト」の有志チームが作ったカード。SDGsの17の目標に対して各2種類・全34種類の「トレードオフ」カードと、課題解決に使える資源が記された全34種類の「リソースカード」がセットになっている。トレードオフのカードをチームで1枚引き、その課題の解決方法について、1人3枚のリソースカードを組み合わせてアイデアを創出していく方法だ。
本番の前に、まずは頭の体操。「リソース」カードを3枚ずつ引き、それらを組み合わせてイノベーションを起こす練習だ。参加者から次々アイデアが生まれる。
「では、今からイノベーターとなっていただきます」
仲田さんの合図で、いよいよ本番。
テーブルごとに「トレードオフ」カードを1枚引き、その課題の解決方法を、テーブル内の2〜4人が1組になって、1人3枚ずつ持っている「リソース」カードを組み合わせてイノベーションで生み出していく。
最後にはプレゼンし、どのアイデアがよかったか意見を出し競い合うとあって、参加者は笑顔を見せつつも、真剣に知恵を絞る。熱気あふれる時間だ。
さて。トレードオフの課題に対して生まれたアイデアは、どのようなものだろう。
──課題「AI技術を向上させたら、これまで人間がしていた仕事が奪われ、働きたくても働く場がなくなった」
これに対するイノベーションとして出てきたのは。
「結婚、温泉、農家などのリソースを使って、新たなサービスを作り、人間にしかできない仕事を生み出す」
「いっそAIを増やして、人間が仕事をすることをなくす」
──課題「作る責任、使う責任。ものを大切にしようと心がけていたら、家がゴミ屋敷になった」
「ゴミって一体何だろう。ゴミと呼ばず資源と呼んでお金に変えることで解決しよう」と考えたチーム。
隣のチームは、「ものが作られるからゴミ屋敷になる。何にでも変化するおもちゃを開発する」
京都にあるもので、京都をよくしたい
席替えを挟んでゲームを2回楽しんだ後は、仕上げとなる京都版SDGsづくり。まずは京都の課題を考え、その後、オリジナルの「トレード・オフ」カードと「リソース」カードを作り、イノベーションを仕掛けていく。
──課題「夜遊ぶところが少ない。寺クラブを始めたら、治安の悪化と騒音が問題になった」
「『古着屋』を会場に使い『音楽』フェス。『外国人』がDJ。AIに治安の取り締まりをさせ、骨伝導で音を聞く。音が流れないカオスな空間をも楽しんでもらう」
──課題「ポイ捨てが多いからゴミ箱を設置したら、景観が悪くなった」
「『スマホ』で呼び出せる動くゴミ箱を『ベンチャー企業』に作ってもらう。ゴミ箱を利用して集めたポイントを、『スポーツ』や『ファッション』に使う。『メディア』で『舞妓さん』がPR。使用料は取らず、『ドローン』に広告をつけて広告料で運営する」
──課題「他言語対応できるまちにしようとしたら、人件費が増えた」
「『おじいちゃん』に。シニアスクールで『観光』に使う他言語を習ってもらう。『有名人』を使って集客し、『スポーツ』施設や『温泉』を割引。人件費も減り、おじいちゃんの人生も豊かになる」
SDGs的視点で共感者を増やす
「新しいことやビジネスを始めるとき、それが持続可能で、みんなにとってハッピーなもの、というのはスタンダードになっていきます。今後は、『SDGsのどれに当てはまりそうかな』と考えることで、仲間や共感者が増えていくのかなと思います」
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グローバルとローカルのバランス感覚で、難しい課題を楽しみに変えながら既成概念を塗り替えていく若きイノベーターたち。「誰一人取り残さない」という新たな視点を手に入れ、30年後のあるべき世界へ向けて、京都から新風を吹かせる日は近い。