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時代をつくる出会いを、京都から。「KOIN OPEN INNOVATION FORUM 2019」9/21 開催レポート

WRITER : 北川由依
PHOTO : 北川由依

2019年4月のオープン以来、多様なセクターを繋ぐ場として認知を高めてきた「KOIN」。

その繋がりを活かして、9月21日、「OPEN INNOVATION FORUM 2019(以下、フォーラム)」を開催、約100名が集った。100年以上続く企業が最も多いまち、京都で求められる「これからの経済活動」とは?イノベーションに取り組む地域企業の講演とトークセッションから、京都経済の未来を探求した。

京都の未来をつくる9つのポイント

冒頭、京都知恵産業創造の森 立石義雄理事長、京都府 西脇隆俊知事、京都市 門川大作市長よりご挨拶があり、「KOIN」の取組み状況の報告に進んだ後、フォーラム本番に移った。

京都知恵産業創造の森 立石義雄理事長

フォーラムは二部制。第一部は「京都経済のこれからをつくる9つのポイント」をテーマに、3名のゲストによる連続講演。第二部は、トークセッションとして「今、そして未来へ向けて、京都だからできる事業創造の要諦」について議論を交わらせた。

トップバッターとして登壇したのは、株式会社美京都 代表取締役の中馬一登さん。インバウンド事業や中高生向けの人材・教育事業などを営む中馬さんからは、「若者が躍動する京都へ向けた3つのポイント」がシェアされた。

株式会社美京都 代表取締役 中馬一登さん

中馬 テーマにある「躍動」とは何かを、僕なりに考えました。「躍動」とは、生き生きしている状態のこと。つまり、何かに楽しく夢中になっていることだと思い至りました。

2014年に起業してから「躍動」するよりも、事業を成長させることに「必死」だったと振り返る中馬さん。「躍動」するために必要だと考えることを、自身の経験から3つのポイントとして挙げた。

<ポイント>
(1)色々な仕事・業種を知っておくこと
(2)事業を選定すること
(3)メンターを早く見つけること

中馬 僕はアルバイトも起業する業種も、日常で出会うものから選択しました。もっと広く世の中を知っていれば、起業初期の段階で、躍動する仕事に出会えていたかもしれません。そして、事業を選定すること。どのような事業であれ、成長させるには多くの時間を使います。だから、とことん自分の好きなことをやりましょう。最後に、メンターを早く見つけること。僕はメンターに出会ってから、事業の成長スピードが格段に上がりました。

また、京都には世界に誇る長寿企業や日本が誇るグローバル企業が多いこと、そして学生のまちと呼ばれるほど若者が多いことに触れ、若者にメッセージを贈った。

中馬 京都は多くのポテンシャルを秘めています。若者と大人の交流が増えれば、若者がチャンスに恵まれる機会が増え、若いうちから「躍動」する仕事に巡り会う人材が増えるはず。KOINには、かっこいい大人がたくさんいて、刺激しあえるコミュニティがあります。持ち上げるみたいになってしまいますが(笑)、ぜひみなさんKOINをうまく利用し、ゆくゆくは京都を牽引するリーダーになってください。

個人から始まる社会のダイバーシティ

続いて登壇したのは、株式会社ワコールホールディングス ダイバーシティ・グループ人事支援室 室長の鳥屋尾 優子さん。「多様な働き方が叶う京都へ向けた3つのポイント」について自身の経験を含めて語った。

株式会社ワコールホールディングス ダイバーシティ・グループ人事支援室 室長 鳥屋尾 優子さん

鳥屋尾さんは、「会社で自分の理想の働き方を叶えるためには、自分自身が多様になるのが一番の近道」と話した上で、自分が多様になるマインドセットとして、3つのポイントを紹介した。

<ポイント>
(1)石を遠くへ投げておくこと
(2)複数の立場を持つこと
(3)会社のビジョン・ミッションにコミットすること

鳥屋尾 (1)は、自分の未来像をある程度イメージしておくと、目の前の仕事の捉え方が変わる、という話です。会社では、自分のやりたい仕事が常に回ってくるとは限りません。ただ、自分が将来、65歳、70歳になった時になっていたい自分像に近づくために、今の仕事から学んでおくことがあるはず、と考えると、目の前の仕事の見え方が変わります。(2)は、横の広がりに視点を持つ話です。わざわざ副業をせずとも、会社員、学生、姉、妹、兄、弟、親、子どもなど、みなさん既に様々な立場をお持ちのはず。一つの物事を複数の立場で見ると、多角的に物事を見ることができ、事実を抽象化しやすくなります。前提が合っていない他者と話をする際、一旦、抽象化したものを共有した上で、具体化した話をすると、やりとりがしやくなります。

そして(3)については、「創業者の思いに触れることが大切」と伝えた。

鳥屋尾 会社のビジョン・ミッションに、自分の人生が紐づいていないといつかその会社で働くことが苦しくなるでしょう。だからビジョン・ミッションにコミットできていないと感じる方、一度それらを紐解いてみてください。必ず創業者の思いがあるはず。その思いに、あなたがコミットするかどうかを考えてみましょう。これこそが、会社で自分らしく働く上での大きなポイントです。

時代をつくるリーダーシップとは

連続講演のラストを飾ったのは、京都大学産官学連携本部 IMS寄附研究部門教授の木谷 哲夫さんです。 「革新を生み続ける京都へ向けた3つのポイント」として、挙げたのはこちら。

<ポイント>
(1)Question思考
(2)意味の書き換え
(3)ビジョン・ドリブン

京都大学産官学連携本部 IMS寄附研究部門教授 木谷 哲夫さん

木谷 3つのポイントからアイデアを考えてみてください。(1)は、自分が気になっている問いを突き詰める手法。Solutionを用いて短絡的に課題解決するよりも、Questionから考える方が、抜本的な発想が可能です。(2)は、昔からあるものに新しい意味を与えることで別のものにならないか検討すること。京都のように古いものがたくさんあるまちにこそ、ビジネスチャンスは広がっていると考えます。

また、木谷さんは(3)についてこのように続けた。

木谷 10年後、15年後、社会はどうなっているのか様々な未来予測が出ています。その一方で、自分自身が将来どうなりたいか考えてみましょう。社会と自分の交点を見つけることが、起業する上で核となります。

人に話すのが恥ずかしいものや、一見悪く見えるものが生まれるかもしれませんが、僕はそれこそ良いアイデアだと考えます。一見バカバカしいけれど、将来のポテンシャルが高いものを起業アイデアに選び、次の時代をつくっていきましょう。

「起承転結」で考える、京都らしいビジネス

御三方の熱量たっぷりの講演から、これからの京都を考えるヒントをもらった後は、休憩を挟み、第二部のトークセッションへ移った。テーマは、「今、そして未来へ向けて、京都だからできる事業創造の要諦」。ゲストにオムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長の竹林 一さんと、株式会社ウエダ本社 代表取締役社長の岡村 充泰さんをお迎えした。

モデレーターを務めた、一般社団法人RELEASE;の桜井 肖典さん

桜井 第一部の講演を踏まえて、「ここを大切にしたら、京都でもっと面白いことが生まれるのではないか」というポイントを一つずつ挙げてもらえますか?

竹林 「起承転結モデル」の「承」人材がポイントになります。

<竹林さんが提唱する、起承転結人材育成モデル>
起:0から1を仕掛ける人
承:0から1をN倍化する構造をデザインする人
転:N倍化する過程で効率化・リスクを最小限に抑える人
結:オペレーションする人

竹林 大学も大企業も、社会の様々な仕組みが賞味期限を迎えようとしています。次の時代をつくるためには、新しい軸をつくらなければなりません。特に今、重要なのが「承」人材です。「起」が得意なおもしろい人と、「転」「結」の人材が集まる大企業を繋いだり、先代から次世代へ事業承継を橋渡ししたりする役割が求められています。

オムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長 竹林 一さん

岡村 僕は、先代からウエダ本社を引き継ぎました。その中で、京都で面白いことが生まれるポイントとして気づいたのは、規模や利益よりも、長く続くことに存在意義を見出す価値観です。

京都のまちは、スケールは大きくないものの、経済・文化・芸術・大学などさまざまなリソースが揃っています。だから、ビジネスのプロトタイプを作りやすい。また、社会性を帯びていないと京都では生き残っていきづらいです。それらが、個性を生かした事業に腰を据えて取り組みやすい環境をつくり、長く続くことを良しとする京都の風土に繋がっていると思います。

株式会社ウエダ本社 代表取締役社長 岡村 充泰さん

鍵は、共創を生み出すエコシステムをつくること

トークセッションではモデレーターの桜井さんも交え、京都だからできる事業創造について議論を深めていった。

桜井 長く続くことを存在意義だと考える文化と新しいことが始まるイノベーションは、一見相反するように見えますが、いかがでしょうか?

竹林 京都で生態系をどう作っていくのかが、一つのキーワードになるのではないでしょうか。例えば、JR東日本が販売している「おやつTIMES」。これは0→1でJR東日本が作ったものではなく、各地域のお菓子を集めてパッケージし直し、ヒットしています。「おやつTIMES」のように、今あるものをネットワーク化し新しい時代を作ることこそ、京都のエコシステムのモデルになると思います。

岡村 東京では大企業がベンチャーをM&Aして、パクッと飲み込んでしまう話もよく聞きます。しかし、京都の大企業が望むのは、お金を出すことだけではなく、本業とうまく連動し、共に事業を広げていけるベンチャーです。それこそ京都の生き方だと思いますし、エコシステムが育まれていることを、日々実感しています。

桜井 ベンチャーをパクッと飲み込むことなく価値共創するために、竹林さんはオムロンの中で「起」にあたるベンチャーをどう取り入れているのでしょうか?

竹林 「起承転結」は良い悪いではなく分類の話です。ベンチャーには「起」「承」の資質をもつ人が多く、大企業には「転」「結」の人材が多い。だから「承」が、ベンチャー(「起」)と、大企業が持つ「転」「結」のリソースをデザイニングする必要があります。

桜井 なるほど。京都には多くのリソースがあり生かしやすいという話もありました。岡村さんは、「京都流議定書(京都から数値化されない価値の重要性を考えるイベント)」をはじめ、外の人と関わる機会がたくさんあると思いますが、「承」の役割を担う会社として意識されていることはありますか?

岡村 僕らは、弱者の理論でたたかっています。お金もない、力も弱い。そのような状況で外の力を借りるため、どうしたら外部の人にとって居心地が良いかを考え抜いていますね。力がないからこそ、フラットでオープンな場をつくり、多様な人に入ってきてもらうことで、必要とされる情報や人などを紹介できる環境をつくるよう意識しています。

出会いから生まれる、次の時代

桜井 まだまだお二人にお話をお伺いしたいところではありますが、残念ながらお時間になりました。最後、KOINから生まれたら良いなと思うことを、一言ずついただけますか?

竹林 自分自身のアイデンティティ、何を軸にしているのかを明確に持っていると、連携がしやすくなるはず。「三人寄れば文殊の知恵」なんて言いますが、同じ知恵が集まっても、1×1×1=1にしかならない。しかし、オープンな場であるKOINを生かし、×2、×3ができれば、非常に大きなものが京都から生まれるのではないかと思います。

岡村 僕は京都の中小企業のモデルを、日本全国に広めたいと考えています。しかし、規模を追いかけず、実を取る中小企業が多いため、見事だと思う経営をされていてもなかなか表に出てきません。京都の中小企業をもっとアピールし、京都モデルを広めていける機会がKOINから生まれることを期待しています。

トークセッション終了後は、美味しい食事とドリンクを片手に交流会を開催。大企業、中小企業、フリーランス、学生など様々な立場の人が集い、交わり、京都のこれからについて語りながら親睦を深めた。

京都で働くこと、起業すること、生きることのおもしろさをたっぷり味わった一日。この日の出会いが、京都の次の時代をつくるものになる。そんな明るい兆しを感じられる時間となった。

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