誠実さ、スキルと効率、遊び心。絶妙なバランスが生むハッピーな人生|11/30 開催イベントレポート
PHOTO : 小坂綾子
電車や駅ビル、大学などのリアルな場で謎解きゲームを仕掛け、まったく新しい手法で人々を楽しませる。そんな斬新な事業を展開する「クロネコキューブ株式会社」の代表・岡田充弘さんをゲストに迎えたU35のイベントが、11月30日に開かれた。クリエイティブかつ合理的な岡田さんの働き方・生き方は、自分らしく豊かに生きるヒントの宝庫。学生や起業家らが、人生訓や思考法に耳を傾けた。
どんな山の登り方でもハッピーになれる
新卒でNTTに入社し、外資系の会社に転職して企業再生も手がけた末、謎解きゲームを企画する会社を起業した岡田さん。異例の経歴について語ってもらうところから、イベントはスタートした。進行役を務めたのは、株式会社美京都代表の中馬一登さん。2人の掛け合いで、テンポよくトークが展開されていく。
「学校では授業を聞かず、会社員時代もはみ出していたイロモノ。そんな私でも生き永らえているというところを、教育プログラムとして伝えていきたいと思ってます」
岡田さんはそう切り出した。
「キレイなステップアップでなくても、どんな山の登り方でもハッピーになれる。求められることを書いているうちに著書が13冊になりました。ニーズに合わせて人とのご縁を大切にしていると世の中が何を求めているのかわかってきた。そんな現在地です」
「謎解きイベントって知ってますか?」
興味津々の参加者たちに、手がけた企画を次々に紹介する岡田さん。
乗車券代わりに「謎解きキット」を買い、電車に乗降しながら謎を解く阪急電車での企画。大阪駅のファッションビル「ルクア」で大好評だった女性向けの「ときめき迷宮からの招待状」。そして、バイオハザードの世界観を演出した日本赤十字社の献血イベント。
「体験を通して社会課題などを認知してもらうのが狙いです。何かに興味を持って見てもらうきっかけに、このコンテンツを使っていただけたらいいなと」。もともとは「流行っている」という情報から人の縁がつながり、つくってみたら面白かった、という謎解き企画だが、事業は多くの副産物を生んでいる。
岡田さんの自己紹介が終わると、参加者たちは、グループに分かれてチェックイン。今の気持ち、イベントで学びたいことを順番に語った。
そもそも、みんな自分らしい
続くパネルディスカッションでは、提示された17個のテーマの中から、岡田さんに質問を投げかけていく。
中馬 「『我がままに生きる』からスタートしましょうか」
岡田 「多くの人が自分を知らないまま大人になるので、『自分らしく』『個性的に』ということが言われるけれど、本来はそもそもみんな自分らしい。自分のできること、好きなことを自問自答すれば我がままに生きることができ、普通に個性的でお金もそれなりに入ってくるのではないでしょうか」
中馬 「なるほど。今注目してる分野ってあります?」
岡田 「出版やコンテンツビジネスですね。中でも人にまつわるもの。作り続ける能力があれば食べていけます。逆に言うと、IT系のサービスは短命で終わってしまいがち。短命と分かってて売り抜くならいいですけどね」
中馬 「やることの優先順位はどうでしょうか?」
岡田 「緊急性が高く、すぐできるものからやる。僕はわりと全部やる派で、そのために動きを早くできるように、効率化の技術を磨いておく。あと、人で決めます。『この人とはやらない』とか。必要な事務処理はアナログ作業を減らし、時間をどう生み出すかを考えています」
中馬 「人の縁を大切にされていますよね。人と関わるときのこだわりはありますか?」
岡田 「基本一対一で、男性でもデートだと思って時間を取ります。熱量が高い人、自分を持ち、自分を知ってる人は魅力的ですね。お金で人を種別する人には魅力を感じない。教養がない人はすぐお金の話をするけれど、お金って、追いかけるものじゃなく、ついてこさせるもの」
中馬 「そこ聞きたいですよね。お金に走りすぎて失敗する人と、なぜかお金がついてくる人と、その差は何だと思いますか?」
岡田 「最初に『人』を順序としておくことじゃないですか。人との信頼関係を築いておけば、人から英知をいただけて、自分の中に入ったときに換金できる。お金を追いかけてしまうと、人から英知をいただく機会を失ってしまう」
参加者 「運がいい人、悪い人の違いもありますよね」
岡田 「習慣や振る舞いですね。運が悪い人は、気遣いが足りないとか、伝え方が甘いとか、要所要所で癖が出る。運のいい人は、感謝の心や誠実さがある。トイレ掃除を10年以上続けてますけど、自分を慢心させず、オフィス全体に気持ちを振り向けるためです」
大義の前に、圧倒的な商品を
ここで、グループごとに感想をシェアし、後半は参加者からの質問タイムに。
参加者 「誠実性って何でしょう?」
岡田 「まず、小さな約束でも必ず守ること。それによって自分の中の『誠実スイッチ』も入ります。学生のドタキャンは、経営者側は一生覚えてます。天に向かって吐いた唾は必ず自分にかかってきます」
参加者 「どうすれば人とのご縁が舞い込んできますか?」
岡田 「スキルを磨き、持ち味を掛け合わせてアウトプットしてみることは大事です。自分に何もないままイベントに行きまくっても、『今日も勉強になりました』で終わってしまう。自分の強みを見極める方が大事ですよね」
中馬 「この中で、起業したい人ってどれくらいいますか?」
パラパラと手があがる。
中馬 「世の中的には起業ムードですけど、そのレベルなら起業せんでも・・・と思ったりしますよね」
岡田 「僕は商品原理主義者で、『社長なりたい』ではなく、誰かを驚かせたり、喜ばせられたときに起業するのがいいと思っています。課題解決から逆算して、『誰を幸せにするか』とかもありがちだけど、思いつきでスタートしても結果的に誰かを幸せにしていればいい。僕もそうです。大義の前に、商品が圧倒的かどうかですね」
中馬 「ただ数を増やすというよりも、質のいい起業が増えてほしいですよね」
「すごい人」よりも「幸せな人」に
効率化についての質問もあり、岡田さんはタスク管理の方法などを伝授。そして最後にメッセージを送った。
「すごい人だけじゃなく、ハッピーに生きるという文脈でもアイコンとなる人がどんどん出てきてほしい。ここはあまり語られないけれど、すごい人になるのと幸せになるのって、思考も技術も全然違う。僕は、やっぱりハッピーに生きてほしい。でも精神論ではなく、技術でその確率を上げていきたいですね」
人との縁を軸にしつつも、思いだけでなく着実にスキルを磨く。遊び心を忘れず、地に足のついた日々を送る。絶妙なバランスで人生を楽しむ岡田さん。転職を繰り返してたどり着いた境地からの言葉は、決して奇をてらうものではない。そこには、周りに振り回されず自分を見つめ続けることや人への感謝、努力など、私たちが忘れかけている大切なメッセージが込められていた。