アイデアの生み出し方を考える~イノベーションのアイデア教室~|6/28開催イベントレポート
梅雨真っ只中の6月下旬、KOINでは「起業に関心がある人のための起業準備セミナー」を開催。
「アイデアの生み出し方を考える~イノベーションのアイデア教室」をテーマに、講師の立命館大学大学院MOT研究科 教授 品川啓介氏をお話を聞いた。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、イベントはオンラインでの実施となった。京都市内はもちろん大阪や東京からの参加者も見られ、居住地を超えた繋がりが生まれるきっかけにもなる時間となった。
イノベーションは既存知+既存知から生まれる
世の中にまだないものを生み出す、イノベーション。「特別なアイデア発想法が必要そう」、「天才肌の人が考えること」と少し距離を置いてしまうかもしれない。しかし、経営学を研究している品川さんは、「イノベーションに繋がるアイデアを生む力はだれもが持っていて、理にかなった方法が確立できればだれもが発想できるもの」と考えている。
「イノベーションは、自分の言葉で説明できる知識+知識、つまり既存知+既存知の組み合わせから生まれます。1+1が、3,4,5になる飛躍があった時、イノベーションの種となります。」
私たちの身近にあるイノベーション事例として、品川さんはこんな話をしてくれた。
「ネスカフェアンバサダーをご存知ですか?マーケティングのイノベーションから生まれたものです。昔、会社では無料のコーヒーがあって仕事の合間に仲間と飲めるものでしたが、経費削減もあり、いつの頃からか社員それぞれが外でコーヒーを買ってきて自席で飲むようになりました。そこで、ネスカフェさんは職場の仲間との雰囲気づくりを助けるようなコーヒーサービスを作ろうと考え、生まれたのがアンバサダーです。」
インスタントコーヒーの味や品質は1980年代にすでに完成していると言われている。その中で、どうイノベーションを起こすか考えた時に着目したのが、コーヒーを飲む時の気持ちや場所に生まれる雰囲気だった。
「イノベーションとは、良く耳にするスマートフォンの発明のような技術開発だけではありません。ネスカフェさんの例にみるように、ビジネスモデルやサービスなど身近なところにもあります。」
「以上が学術研究における基本的なイノベーションの捉え方です。このように既存知+既存知による捉え方はイノベーションの分析方法としては優れているのですが、これをアイデア発想に応用するのはなかなか難しそうに思えますよね。そこで、人間本来の特性にあったアイデア発想法をお話ししましょう。」
ブレインストーミングを加速させる6つの性格
イノベーションの基本を押さえたところで、話はイノベーションが生まれやすい環境に進んだ。
「ストレスを無くし、リラックスした気持ちで、遊びながらといった感じがいいですね。通常仕事をするときは、生産性を高めるために全てをマニュアル化して、みんなが同じ方向を向いてひたすら働くことを目指していますが、イノベーティブなアイデアを生むには対極の環境がいいと思いますよ。」
大人になると、創造性は失われやすくなる。それが問題ということだ。
続いて、品川さんはこんなブレインストーミング法を紹介してくれた。
「新しい仕事をしたい時、異なる6人のタイプの人が必要です(図1.参照)。冷静な人・創造的な人・楽観的な人・ダメ出しする人・情熱的な人・段取り上手な人の6つの異なる性格を持つ人です。まず仕事にしたい事象を冷静に観察し、そこに創造的なアイデアを加えてから、楽観的にみてポジティブなアイデアを出し切ります。これが終わってからダメ出しをするのがポイントです(ダメ出しはストレスを誘引するので)。つまり、様々なアイデアが出そろったあとプロジェクトに本当に大切なものだけに絞ります。そうしてから、情熱的な人がビジネスになるようモチベーションを上げて、段取り上手な人がビジネス化をする流れです。」
図1.イノベーティブなビジネスを生むのに必要な人(品川さんのプレゼンテーション資料から)
新しいことを始めるのに、いつも6人のチームメイトが必要なわけではない。これら6つの役割は、「時間を区切りそれぞれの役に成り切ることで一人でできる」と品川さんは続けた。
常識に捉われないアイデアを出すための、強調と反転
今回のセミナーでは、6つの役割のうち、冷静な人・創造的な人・楽観的な人の役割を通じて話が進められた。
「まずは冷静な人になってください。アイデア出しには観察が必要です。既存知を組み合わせるにしても、知らないと始まらない。例えば、新しいレストランをつくりたいなら、既存のレストランに何時間も座って観察が必要です。観察して得た構成要素は、箇条書きにしましょう。」
今回は、もう少し簡単なお題の「新しいアイスクリーム体験」を用いて、アイデアを生み出す方法の例を見せてもらった。
まず観察ができたら、箇条書きした構成要素を、マインドマップにしてみる(図2.参照)。
図2.アイデア出しの練習資料(1)(品川さんのプレゼンテーション資料から)
「では、次は創造的な人になりましょう。仕事で慣れているロジカルな考え方は横に置いておき(ロジカルもストレスを誘因してしまう)、遊び感覚で構成要素を強調したり、反転したりしましょう。」
規則や科学、技術の常識に囚われず(ここがポイント)、今までにないアイスクリームのアイデアの種を見つけていく(図3.参照)
図3.アイデア出しの練習資料(2)(品川さんのプレゼンテーション資料から)
「次は、楽観的な人になりましょう。強調・反転されたものから一つ選んで理想のアイスクリームを思い浮かべてください。理想といえば、楽しいアイスクリーム体験、つまりワクワク、ドキドキですよね。」
強調・反転されたものから、一つ選んで理想のアイスクリームにする作業だ。ワクワク、ドキドキは大きな武器になる。ここでは、固体が気体に反転されて、それがワクワク、ドキドキとあわさることで、「食べたときだけアヒルの声になるアイスクリーム」というアイデアが飛び出した。
アイデアの出し方を習ったところで、早速実践!「新しい動物園体験」「新しいホラー映画体験」というお題のもと、グループでアイデア出しに挑んだ。各グループから出たアイデアは次の通り。
新しい動物園体験:「構成要素としては歩いて観覧、昼間、檻、入場料が安い、珍しさなどが上がりました。そこから早朝に開園する動物園(ワクワク:開演前の動物たちはどんなことしてるのかな?)、人間が檻に入っている動物園(ドキドキ:動物たちはどう思うだろう?)などのアイデアが生まれました。」
新しいホラー映画体験:「映画と言えば、暗闇、映像、家で一人で見ます。そこから、仲間と一晩とまりがけ、エアーや水が出てくる五感で楽しめる映画館というアイデアが出ました。上映中は不自由な状況が作られていて、見終わった後はデトックス感を得られる映画体験があったらいいですね。」
検証しよう
次はアイデアを実際ビジネスにできるのか検証する方法を学ぶ。
「基本的な検証方法は、デザイン思考(ユーザーとともに、これまでになかった潜在ニーズを考える)、データベースによる解析(インターネット検索でも可)、専門家へのインタビュー(もっともオーソドックス)の3つです。近年では、デザイン思考でユーザーの潜在ニーズを調べる、もしくはインターネットを使った調査が増えてきました。しかし昔から使われ今もオーソドックスなやり方とされているのが、専門家へのインタビューです。」
図4.デザイン思考(品川さんのプレゼンテーション資料から)
「最初にデザイン思考を説明します。デザイン思考では、対象とするものの使い方、状況をユーザーとともに体験し、それを構成するものを全て書き出します。その中から解決したい課題を一つ選び、先ほど紹介したようなブレインストーミングでアイデアを出し試作します。ここでは、コンセプトを伝える程度の試作で構いません(10分程度の紙工作でも可)。そして、ユーザーが気に入ったかどうか確認します。OKなら採用、だめなら何度もこのサイクルを回します。ポイントは、目の前のユーザーの喜ぶ姿を意識することです(図4参照)。」
図5.インターネット検索の例(品川さんのプレゼンテーション資料から)
「次にデータベースでの解析です。今回は、簡単なインターネット検索で例を見てみましょう。これはAKB48の検索数をGoogle trendでみたものです。AKB48は2000年代に生まれた新しいタイプのタレントグループです。もしも、皆さんがこのようなタレントグループを世の中で初めて思いついたのなら、似たグループがすでにいないかつきとめてください。あったらそのグループが世の中に認識されていく過程を調べることになると思います。Google trendでみるとこんな姿がわかります。ここで勉強になるのは、初期の緩やかな検索数の増加の部分では似たグループはかなり少ない状態です。まだアイデアがあればチャンスは残されています。一方、急増以降は、競合がたくさん現れているはずです。一筋縄ではいきませんね。このようなデータベース解析は、皆さんがどの領域で、ビジネスをしたいのか考えるのに役立ちます(図5.参照)。」
図6.専門家へのインタビュー(品川さんのプレゼンテーション資料から)
「最後に一番オーソドックスな、専門家へのインタビューの流れを示します。科学・技術の例でお見せしますが、どのような分野でも当てはまります。複数の専門家に何度も尋ね、サイクルを回すことで、意見が集約されポイントが見えてきます(図6.参照)。」
イノベーションなビジネスを生み出す一番の鍵とは
アイデアの生み出し方、検証方法のレクチャーが終わった後、品川さんはこのように語った。
「アイデアの発想方法をお話したのですが、実現の鍵となるのは人柄ではないかと思っています。気付かれたと思うのですがイノベーションを実現するにはこれまでの考え方と正反対の取り組みが必要になってきます。常識に囚われない強い意志も欠かせないのですが、それとともに周りの人を大切にする暖かい気持ちを持ち合わせていないと常識とは正反対となるアイデアを理解してもらうことは難しくなると思います。このことを意識して挑戦していってほしいと思います。」
良く耳にする機会はあるのだが、なんとなく身近に感じにくいイノベーション。品川さんの軽快なトークと、熊さんのイラストが使われたほっこりするスライドで、あっという間に時間は過ぎ去った。ワークショップや質疑応答では参加者からも積極的に手が上がり、オンライン上でも一体感が生まれたイベントとなった。参加された方々がこの日習った手法を生かして、どんなイノベーションを生み出していくのか楽しみだ。