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【寄稿記事】『◯◯さんをつくる出会い。』vol.01 菅本 香菜さん「旅するおむすび屋」

KOINは「時代をつくる出会いを。」をコンセプトに、事業を始めたい、広げたい、応援したいといった「○○をやってみたい。」と願う人の新しい一歩を応援しています。 

背景には人と人との出会いはそれ自体が大きな気づきであり、創造的なものだという想いがあります。また出会いには、人との出会いだけでなく、言葉やニュース、映画や本、誰かの実践など様々なものがあるとも思っており、それら様々なモノやコトとの出会いによって人はこれまではとは違う人生の扉が開き、世界をあらたな視点で眺め、歩みはじめることができると考えています。そこで、このシリーズでは「○○さんをつくった出会い」に焦点を当 て、様々なジャンルで活躍するビジネスプレイヤーに質問し、彼ら・彼女らの出会いのストーリーを 紹介していきます。 

第1回目の寄稿は、全国各地域の生産者とつながり、おむすびを通して地域の食材と人を結んでいる「旅するおむすび屋」の菅本香菜さんにご依頼しました。

➖まず、今の菅本さんの事業、取り組みを教えてください。

『旅するおむすび屋』として全国各地を巡りながら、その地域の食材を使ってその地域の方と一緒におむすびを結んでいます。具体的には、中学校や高校の家庭科の授業にお邪魔したり、自治体の方と一緒に地域の食材をPRするためのイベントを企画したり。おむすびを通して食の大切さや楽しさを皆さんと発見・共有する場づくりをしています。また、全国の海苔漁師と共に、食の裏側にある想いやこだわりを届けるため『CRAFT NORI』という団体を立ち上げました。全国の漁師を東京に呼んでイベントをしたり、漁の現場に足を運ぶツアーを開催したり、最近は海苔の新しい可能性を届けるために商品開発にも取り組んでいます。

➖菅本さんの現在の事業、取り組みにつながる出会い、はどのようなことですか?

私が食に関心を持つようになった原体験は、中学高校時代に6年間拒食症と闘病していたことです。当時、身長は160cm近くありながら最低体重は23kgまで落ちてしまいました。とても苦しい6年間でしたが、拒食症から立ち直るキッカケをくれた友人との出会いが、今の私をつくってくれたんです。拒食症になってからの私は、食べることが本当にこわくなっていました。母親が作ってくれたお弁当も、友達と遊びに行った先で出てきたご飯も、食べることができず、こっそり食べものを捨ててしまうこともありました。

食べない罪悪感、食べる罪悪感、その両方と常に闘う日々。

ガリガリなのに食べない私を見て「何で食べないの?」「食べんと死ぬよ」。そんな言葉を投げかけられることが増え、食卓にいることがとても苦痛になっていったんです。そんな状況から数年間抜けきれず、完治することも諦めていましたが、高校2年生になり、心を許せる友達ができました。彼女は、私が食べられなくても一緒に食卓にいることを楽しんでくれました。食べられない私のことを嫌な目で見ることもなく、自分が食べることを遠慮することもなく。久しぶりに「私も食卓にいても良いんだ」と思えた瞬間でした。そこから、「その子と一緒にいる食卓をもっと楽しみたい」という想いで、自然と少しずつ食べることができるようになっていったんです。

➖出会う前と出会ったあとで、菅本さんにはどのような変化がありましたか?

食卓を少しずつ楽しめるようになったことで、少しずつ食べられるようになり、無事に大学入学後に拒食症完治。衰えていた身体の機能が戻ってどんどん元気になり、家族とも友達とも笑ってご飯を食べられるようになって心までもが元気になりました。

“食べることは生きること。生きる喜び。”

改めてこのシンプルな気づきに出会い、身を以て実感しました。

病気が完治して更に食に関心を持つようになり、大学では民俗学を専攻、卒業論文では『食卓』をテーマに取り上げました。拒食症と闘っていたときは「何で私はこんな辛い思いをしないといけないんだろう」と思っていましたが、今は「あの頃があったからこそ気づけたことがある」という想いで、食の仕事に就いていられることが本当に幸せです。食卓をもう一度楽しむキッカケをくれた友人との出会いに心から感謝しています。

➖「〇〇をやってみたい。」と願う人の新しい一歩の背中を押すような、本や映画があればぜひ教えてください。また、それが菅本さんにとってはどのようなものであったかも教えてください。

【本】『みらいおにぎり』(著:桧山タミ)

93歳の料理研究家 桧山タミさんが小学校で行った授業をキッカケに制作された本。子どもにも読めるように振り仮名がついていて、大人は1時間ほどで読めます。料理に関心がある方はもちろん、好きなことを仕事にしたい方は、93歳になっても「楽しすぎて仕方ない」と仕事をしている桧山さんに元気をもらえるはずです。私もこの本を読んで「桧山さんのように幸せに歳を重ねていくために、日々のことに感謝・感動する気持ちを忘れないでおこう」と思えましたし、「桧山さんのように、子どもたちに大切なことを伝えられる人になりたい」という目標ができました。

【映画】『天皇の料理番』

映画ではなく連続ドラマなのですが、明治に生まれた秋山徳蔵さんが宮中の料理を任されるようになるまでを描いたものです。徳蔵さんがたくさんの方に出会い、成長しながら料理の腕を磨き天皇の料理番となっていくのですが、「大きな夢を追いかけるために必要なこと」を登場人物が各所で言葉にしてくれています。私は先のことばかりに目を向けてワクワクしてしまいがちなのですが、この番組に出会って、毎日積み重ねる地道な作業にも真心をこめて取り組む大切さなど、改めて気づかされました。

➖このパンデミックはみんなに等しく訪れた出会いである、と捉えたとき、あたらしく見えはじめた可能性や機会があれば教えてください。

私は「制限が生まれること」を悪だと思っていません。制限があるとその中でできることを考えるようになり、結果今まで取り組んでこなかった新しいものが生まれるからです。今回のコロナ期間は“旅するおむすび屋が旅できなくなる”という制限が生まれましたが、その中で改めて私たちが活動を通して届けたい想いを整理し、その想いを“旅せずに表現する方法”として絵本づくりに取り組みました。絵本ができたお陰で、保育サロンとコラボしてイベントをすることが決まったり、絵本を一緒につくりたいと言ってくださる方が出てきたり。新しい動きが生まれつつあります。

 

➖最後に。人生に素敵な出会いを招くために、大切にしたいことを教えてください。

私が今こうして楽しくやりがいを感じながら仕事をできているのは、本当に人との出会いのお陰様です。「こんなことできないかな?」と声をかけていただいたり「こんなことできたら楽しそうだね」という妄想を一緒に実現させてみたり・・。今いただいているお仕事は、振り返れば「旅するおむすび屋」を立ち上げた当初に「こんなことを事業にしていこう」と思っていたことはほぼ無く(むしろ旅するおむすび屋はライフワークのつもりで仕事になると思っていなかった)、人との出会いの中で気がついたら仕事になっていたというものばかりです。

素敵な出会いを招くために特別意識していることはないですが、“余白があること”が良かったのかな?と思います。つまり、活動への想いや軸はしっかり持ちつつも、活動内容は程よくゆるく決めすぎない。その方が関わりしろがたくさんあるように感じてもらえるのかもしれません。

あとは、自分の話をし過ぎず、相手の話をたくさん聞きます。元々人に関心があって話を聞くのが好きだからそうしているのですが、結果的に自分のことを話すよりも自分に関心を持ってもらえるように思います。あとは、出会いを心から楽しむことですね。損得感情で人と付き合わず、純粋に目の前にいらっしゃる方との出会いを楽しみたいと思っています。

挙げてみたら、大切にしたいこと、結構ありました(笑)

菅本香菜さん、ありがとうございました

 

【プロフィール】

菅本香菜-Kana Sugamoto-

旅するおむすび屋 / 株式会社CAMPFIRE キュレーター/ 総務省 地域力創造アドバイザー

1991年、福岡県北九州市出身。熊本大学卒業後、不動産会社での営業を経て、食べものつき情報誌『くまもと食べる通信』の副編集長として活動。熊本震災後に上京し株式会社CAMPFIREに転職、LOCAL・FOOD担当として全国各地のクラウドファンディングプロジェクトをサポートしながら日本の魅力発信に努める。本業の傍ら2017年5月に、『旅するおむすび屋』を立ち上げた。2019年3月に独立。フリーランスとして、食に関わるイベント企画・運営、食材のPR、ライター、クラウドファンディングサポート等を手がける。

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