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働き方も、働く場所もアップデートしよう〜フリーランスから学ぶ、場所の活用と仕事のつくり方〜 | 10/26 オンライン開催・イベントレポート

WRITER : 三上 由香利

 コロナウイルスの影響により、大きく変化した私たちの仕事のあり方。場所や時間、使用するツールなど働く環境がガラリと変わり、今後の働き方について悩む人も多くいるのではないだろうか。

 2020年10月26日にオンラインで開催された「多様な働く場と共に考える京都での働き方  VOL.1.フリーランスによる場所の活用と仕事のつくり方」では、コワーキングスペースの運営者であり、フリーランスでもある2人のゲストを迎え、オンラインでイベントを開催。京都ならではの働き方や共創が生まれる場の可能性について、参加者と共に考える場となった。

ファシリテーターを務めた、タナカユウヤさん

 この場でゲストと参加者をつなぐのは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさん。京都のコワーキングの情報を発信する「GoWorkin’ KYOTO」を運営し、京都のみならず、他地方のコワーキング事情にも精通している。今回のゲスト2名もタナカさん同様、京都で「コワーキング」という言葉が認知されていなかった頃から「Co−working(協働・協創する場)」を軸に場づくりを行ってきた
  
ゲスト(左:池田さん/右:白川さん)

ゲスト紹介〜小脇・池田大介さん〜


 まずはゲストの自己紹介からスタート。コワーキングスペース「小脇」の運営者であり、フリーランスのエンジニアでもある池田 大介さん。   
 池田さんはエンジニアとしてシステム開発会社に勤めていたが、2008年に独立。フリーランスの道を歩み始めた。これまでのつながりなどから仕事は安定していたが、たった1人で仕事をしつづける状況に、寂しさがぬぐえなかったという。ふとしたところから、海外には「コワーキング」という働き方があると知り、該当するような場所を探した。しかし、当時の京都にはそのような場所はなかった。

 そこで池田さんは、「ないのなら自分で作るしかない」と、2011年4月、四条烏丸にコワーキングスペース「小脇」を立ち上げたのだ。場を立ち上げたあとも、エンジニア勉強会や働き方イベントなどを積極的に開催し、人が集う仕掛けをつくった。その結果、小脇は専門性の高い人々が集う場となっていった。

 池田さんは小脇で出会った方々と共に、大手複合機メーカー社内システムや、IOS写真共有アプリの開発など様々なプロジェクトを共同で請け負った。それぞれが請け負った仕事を共に取り組むことで、場を提供するだけでなく、フリーランスエンジニアが「協業できる場」としての役割を持ちはじめた。さらには、共にボイスアプリの開発を行っていたメンバーと、2018年に「ボイスアップラボ(株)」を立ち上げ、小脇では文字通り「Co-working」の実例がどんどんとうまれていったのである。

ゲスト紹介 〜oinai karasuma・白川サトシさん〜


 続いてお話いただいたのは、こちらも四条烏丸に場を構えるコワーキングスペース「oinai karasuma」のディレクターである白川サトシさんだ。

 白川さんはフリーランスのデザイナーで、起業して今年で11年になる。独立して最初の4年ほどは、前職から付き合いのある関東の企業案件がほとんどを占めていた。 
 転機となったのは、京都の職人の集まり。知人に声をかけられて参加した場で、職人と知り合いになり、仕事につながった。狂言、着物、伝統工芸…チラシなどのデザインを担当すると、得意先は一気に広がり、クライアントは京都の企業ばかりになった。

 デザインの仕事のかたわら、2012年にコワーキングスペース「oinai karasuma」の立ち上げに協力。ディレクターとして場の活用方法、イベントの企画・運営などに尽力した。イベントを通じてまちづくりに関わる人と出会ううちに、デザインの仕事もまちづくりにまつわる仕事が増えていった。

 自らも主宰となってフリーランスを招いてトークを行う「フリーランスノ世界」や、イラストレーターと企業のマッチング交流会「イラストレーターサロン」などのイベントを開催。時代によって変わるフリーランスの仕事のあり方や、場の可能性を追求しつづけている。

京都のコワーキングの歴史 


 ここからは池田さん、白川さん、タナカさんによるクロストークが行われた。冒頭で、「この3名は京都にコワーキングを定着させた立役者だ」と紹介したが、コワーキングが根付くようにと様々なイベントを共に行ってきた歴史がある。

 2011年10月から始まった「Jelly!kyoto」では、京都市内のコワーキングスペースを訪れ、互いのスペースを体験するイベントを開催した。2013年11月には、他府県のコワーキング運営者とも連携し、「COWORKING FES!!」を開催。平日にも関わらず、100名以上の人が集まるビッグイベントとなった。

旧立誠小学校で行われた「COWORKING FES!!」の様子。

 こういったイベントを通じてコワーキングの啓蒙活動に取り組んできた方々だからこそ、昨今の「コワーキング」という言葉だけが先行するような場所には疑問を抱くこともあるという。また、利用者の意識も二極化しているそうだ。新たな出会いや、協業の可能性を求める人と、単に仕事場として場所だけを求めている人。そういった利用者との関係性も課題の一つだ。

withコロナにおける、コワーキングのあり方 


 その課題は、つづいてのテーマ「コワーキングにおけるコロナ後の変化」でも話し合われた。京都でも新型コロナウイルスにより、ほとんどのコワーキングスペースは休業を余儀なくされた。コロナ前と後で、各スペースではどのような変化があったのだろうか。

 池田さんが営む「小脇」は、現在も休止中だ。4月から休止し、一度は再開したものの、状況を鑑みて休止することになった。その理由は、「密になりやすい」からだ。それは単にスペースの広さが問題なのではなく、普段からコミュニケーションを密にとり、会話が多く発生するからだという。

 対して「oinai karasuma」の状況について白川さんにお聞きすると、「あまり変化していない」という意外な答えが返ってきた。もちろん政府のガイドラインに準じて休業していた期間もあったが、もともと個々で仕事をする利用者が多く、密にコミュニケーションをとる光景はあまり見られないそうだ。だからこそ、密にはならない。

 時世的には「密にならないこと」が求められている。しかし、このままでは「コワーキングではなく、場所貸しになってしまうのでは」と、白川さんは違和感を感じたそうだ。

コワーキングは、場所でななく「概念」である 

 この密になれない状況下の中で、どのように「コワーキング」は変化していくのか。その1つの道標になったのが、池田さん、白川さんのこんな言葉だ。

 「これからのコワーキングは、場所ではなく概念となっていくのではないか」。 

 池田さんが運営する小脇ではすでに、そうなりつつあるという。現在「場」としては休止中であるが、利用者同士のコミュニティは既に形成されているため、小脇で会わなくとも協業の話は進んでいる。

 今後はオンライン上で知り合った人たちとリアルで集まれる場としてコワーキングを利用するなど、すでにあるコミュニティが交わるハブとしてコワーキングがあってもいいのではないか。必要なのは「場所」ではなく、「人が交わる」こと。

各スペースで行われた「Jelly!kyoto」の様子。

 池田さんの言葉に白川さんも深くうなずく。今あるコワーキングの施設同士がもっと連携すれば、人と交わる場所はもっと広がりをもつ。各コワーキングの場としてのポテンシャルも、所属している人の属性も違うなら、その人たちが行き交うことのできる仕組みを作っていくこともできるかもしれない。

 そういった施設同士の連携ができるようになると、企業や行政の案件の窓口として、コワーキングが機能する可能性も出てくる。それこそが、これからのコワーキングの姿なのではないだろうかと。

 タナカさんは、「コロナ禍では、人で集まる意味が問われている」と前置きし、だからこそコワーキングがこの先どんな存在になっていくかが重要だ、と締めくくった。

コワーキングの可能性の広がり 

 最後に、参加者一人ひとりに今回のイベントについて、意見を述べてもらった。参加者は、コワーキングに行ったことがない人、コワーキングの運営者などさまざまな人がいたが、みんなゲストの「コワーキングは概念である」という言葉に非常に驚いていた。また、そういった視点を知ったことで、コワーキングの可能性の広さを感じたようだった。

 社会の変化によって、仕事・家庭以外の第三の場所としてコワーキングを選ぶ人もいる。しかし、そこをただ「場所」として捉えるのはもったいない。コワーキングは、これまで出会うことのなかった人と交わり、化学反応が起きる可能性がある場所なのだ。

 何はともあれ、まずは足を運ぶことから始めてみよう。このイベントがあなたの背中を押す機会になっていれば、大変嬉しく思う。

 

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