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働き方も、働く場所もアップデートしよう〜 仕事と家庭のバランスをとりながら仕事する〜 | 12/22 オンライン開催・イベントレポート

WRITER : 三上 由香利

 コロナウイルスの影響により、働く場所や時間、仕事のあり方などが問われつづけた2020年。子どもを持つ家庭では、通常時よりも一層、仕事と家庭のバランスのとり方に悩んだ方も多いのではないだろうか。

 2020年12月22日にオンラインで開催された「多様な働く場と共に考える京都での働き方 VOL.2「仕事と家庭のバランスをとりながら仕事する」では、子連れでも利用できるコワーキングの運営者2名をゲストに迎え、「仕事と家庭のバランスを取りながら仕事する」というテーマについて考えた。参加者の中には、親子連れでの参加もちらほら。時折、子どもの楽しそうな笑い声も聞こえ、温かな空気の中でイベントは進行した。子育て世代も、この先の未来に子どもをもつ方も、多くの学びを得られる回となった。

 前回と同様、ゲストと参加者をつなぐのは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさん。京都のコワーキングの情報を発信する「GoWorkin’ KYOTO」を運営し、京都のみならず、他府県のコワーキング事情にも精通している。タナカさんのつながりで、今回は広島や新潟のコワーキング運営者もイベントに参加してくれた。


(左:KOINの生田優里佳さん、右:タナカユウヤさん)

 ゲストは、「GROVING BASE」を運営する篠田拓也さんと、「オトナリラボ」を運営する芳野尚子さん。子育て中の親としての視点を活かしながら、働く場をつくる取り組みをされている。そこにはどんな思いがあるのだろうか。


ゲスト①「GROVING BASE」篠田拓也さん

 まず最初にお話いただいたのは、「GROVING BASE」の篠田拓也さん。1階は駐輪場、2階はカフェ、3階はコワーキング、4,5階は個室中心のフロアとなっており、5階建てのビルはまるまるシェアオフィスになっている。フォトスタジオや休憩できるベランダもあり、会員であればどの場所で仕事をしてもOK。また、授乳室が設けられているなど、子どもと一緒に利用しやすい工夫も随所にちりばめられている。


(右が篠田さん、左は2階のカフェ「GROVING KITCHEN」を運営する篠田さんの奥様)

 この施設を作るにあたり、篠田さんが掲げたのは「働く形を考える」というコンセプト。篠田さん自身の経験から、自分にとって働きやすく、好きなものに囲まれた空間をつくろうと考えたそうだ。

 もとは会社勤めをしていた篠田さん。一時は、電車に乗っていると涙が出て、途中下車してしまうほど辛い思いをしていたそう。そこで会社を辞め、フリーのコンサルとして独立。2018年2月には、「GROVINGBASE」を立ち上げた。シェアオフィスでありながらも、誰でも気軽に入れる場でありたいという思いから、カフェを併設。そのカフェは奥様が担当することになり、夫婦二人三脚でのスタートとなった。 

 2020年2月には、「colon coffee roasters」というコーヒーのブランドを立ち上げ、ロースターという新しい可能性を広げている。


(colon coffee roastersの商品)

 「僕はもともと家で過ごすことが好きだったので、家族がともに過ごせる場であることを大事にしたかったんです。でも働きやすい環境は人それぞれ。だから、いろんな価値観をもつ人が、いろんな働き方ができる場所を目指したくて、「働く形を考える」というコンセプトを掲げているんです」

 そのため、働き方も自分次第で変えられるように、空間の使い方は自らカスタマイズできる。会員であれば24時間いつ利用してもいいし、2階のカフェや3階のコワーキングなど、どこで働いても構わない。ロースターで使う焙煎機も、キッチンもレンタルできる。


(3階・ワークスペース)

 「仕事も家庭も趣味も、人それぞれ大切にしていることは違うはず。仕事の昼休憩に家族を招いてカフェでランチをする方もいれば、深夜にこもって仕事をする人もいます。GROVINGBASEは、それぞれを肯定できる場所でありたいんです」
 お話の後、篠田さんはオンラインでぐるりと館内の様子を見せてくれた。チャット欄には、「焙煎機のシェアしたいです!」、「また伺います!」などの参加者からのコメントも寄せられた。


(イベント中に館内を案内する篠田さん)

 コロナの影響を伺うと、会社員の利用も増えているそう。これまでの部屋の機能を見直し、オンラインの打ち合わせができるスペース、一人で集中できるスペースなど用途を分けるなどの対応も行っている。

 GROVING BASEは、篠田さんが利用者の声に耳を傾け、常に創意工夫を行っているからこそ、利用者から信頼されるスペースになっているのだろう。まだ公にはできないが、2021年の4月頃には、大きな変化があるそう。まだ訪れたことのない方は、ぜひ絶品のランチやおいしいコーヒーを飲みに、立ち寄ってみてほしい。

ゲスト②「オトナリラボ」芳野尚子さん

 続いては、「オトナリラボ」の芳野尚子さんのお話を伺った。始まる前には、みんなで拍手のアイコンをタップ。「Twitter、いつも拝見してます」などのコメントもチャットにあがっていた。


(芳野さん)

 オトナリラボは、芳野さんを含む5名が運営メンバー。芳野さんはお父様が経営するデザイン会社「株式会社オーバルブラン」の経営にも携わりながら、その一事業として、オトナリラボの運営を担っている。また、高校生・中学生の姉妹のお母さんでもある。

 オトナリラボは、通常のコワーキングスペースとは違い、「子供の見守り付き」のコワーキングスペースだ。保育スタッフが常駐しているため、子どもはしっかり遊び、親は仕事に集中することができる。今はコロナ対策のため、1対1での保育で、受入人数は2組まで。予約制なので、子どもも親も安心して過ごすことができるようだ。


(キッズスペース)※2018年撮影

 建物は、町家を改装して落ち着いた雰囲気。1階はイベントなどのフリースペース、2階はキッズスペースとワークスペースとなっている。(※現在は、コロナによりレイアウト変更中)キッズスペースは静かでとても日当たりがいい。1階はフローリングになっているので、ヨガやベビーマッサージ、親と子が一緒に参加できる工作イベントなども開催している。

 最初は不慣れなお子さんもいるため、子どもを見ながら仕事をすることもできる。保育スタッフと相談しながら、親子の距離を少しずつ離し、お互いがこの場所に慣れていけるようにサポートも行う。


(ワークスペース)※2018年撮影

 利用者の仕事は様々で、育児休業中の人の利用が多いとのことだが、資格取りたい、本が読みたいなど、どんな理由でも利用可能。ワーケーション中や、帰省してきた方が利用することもあれば、ご夫婦で来館される方もいるそうだ。

 「お母さんが不在の際に、お父さんと子どもさんで来館されることもありますよ。子育ては家族だけで行いがちですが、オトナリラボの様な施設を利用したり、知人に預かってもらうなど、子育てに他者をいれることも必要だと思うんです」

 オトナリラボでは、その他にも子育てしながらのキャリアアップや、社会復帰の支援にも力を入れている。キャリアカウンセラーによるカウンセリングや、先輩ママからのアドバイスなどをセットにしたプログラムを組み、伴走型支援を行う。


(施設入口)

 「オトナリラボのコミュニティに、子育て世代の悩みを解決するヒントがあるんじゃないかと頼ってくれる方がいらっしゃいます。子育てと働くことの両立で、他にも力になれることはないかと模索中です。利用者の方から『オトナリラボのようなサービスが身近になくて困っている』という声をよく聞くので、移動式のオトナリラボや、企業と手を組んでサービスを展開できないかと考えています」

 そんな芳野さんの声に「ぜひ、利用したいです」、「身近にオトナリラボがあったらいいのに」など参加者からのコメントも。オトナリラボのような動きが広がれば、もっと子育て世代にとって働きやすく、住みやすい社会になりそうだ。

 トークセッション「仕事と家庭のバランスのとり方」

 最後は、イベントのテーマにもなっている「仕事と家庭のバランスを取りながら仕事する」ということについて篠田さん、芳野さんそれぞれから、考え方や思いを伺った。

 篠田さんは、一日、一週間単位でバランスをとろうとせず、一ヶ月単位でバランスをとる独自の時間軸で仕事することがポイントだと教えてくれた。カフェがあるため、日中の仕事が中心の奥様に合わせて夜仕事をすることもあったり、お子さんの冬休みなどで、変則的に時間を組み立てることもあるそうだ。

 「僕は同時並行で進めるのが難しいタイプなので、仕事する時は仕事、子育ては子育てとメリハリをつけた方がうまくいくことが多いんです。仕事の内容も一ヶ月は事務仕事、次の一ヶ月はスペース運営の仕事に集中するなど、時間軸を自分なりに捉え直して仕事をしています」


(オンラインイベント参加者に話しかけるタナカさん)

 芳野さんも、メリハリはとても大事だという。同じ空間にいながらも、子育てと仕事のメリハリをつけることは、子どもの成長にもつながるのだそう。  
 「利用者の中には、子供と離れることに罪悪感を感じる人もいます。ですが、子どもにとっては、親以外にも信頼の置ける人が居るんだと知ることも大切です。他人と接する機会=子供の成長につながると捉えてほしいですね」

 コメント欄には「メリハリがつけられていないので、耳が痛い」なんてコメントも。なんでも一人で抱えがちな時こそ、第三者やオトナリラボのような場所の力を借りるのもいいのかもしれない。


(イベント中は、チャットでもおおいに盛り上がった)

 最後にタナカさんから、「コワーキングは仕事をするだけでなく、居場所や相談所的な意味もあります。各スペースの特性が違うので、それを理解して、働きたいと思える場所を選べるといいですね」という言葉も。 
 約20名の方が参加してくださった、今回のイベント。コロナ禍で、自分なりの仕事と家庭のバランスを見つけるのはなかなか難しいかもしれない。しかし、子育て世代も、そうでない方も、ゲストの言葉から多くの学びを得られたのではないだろうか。

 次回、「働き方も、働く場所もアップデートしよう」のシリーズ最終回を迎える。どんなゲストが、何を話してくれるだろうか。ぜひ、楽しみにしていてほしい。


(最後に参加者の皆さんと記念撮影)

 

 

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