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【寄稿記事】『◯◯さんをつくる出会い。』vol.02 山崎いずみさん「株式会社いと」

KOINは「時代をつくる出会いを。」をコンセプトに、事業を始めたい、広げたい、応援したいといった「○○をやってみたい。」と願う人の新しい一歩を応援しています。そこで、このシリーズでは「○○さんをつくった出会い」に焦点を当て、様々なジャンルで活躍するビジネスプレイヤーに質問し、彼らの出会いのストーリーを紹介していきます。

第2回目となる寄稿は、「株式会社いと」の山崎いずみさんにご依頼しました。

➖まず、今の山崎さんの事業、取り組みを教えてください。

コワーキング事業(2013年~)


 地方で起業をするにあたり、自身があればいいなと思った場所として、滋賀県初のコワーキングスペース「ROOT」を立ち上げました。ニーズがどこまであるか見えない中での出発でしたが、今では女性起業家に限らず様々な業種・業態の小規模事業者が互いに「緩い繋がり」を保ちながら事業運営を行える場所になっています。

 また、同事業の傍らで、自治体が主催する創業塾の講師や内閣府が共催する「J300」という女性起業家の登竜門イベントの滋賀アンバサダーとして、滋賀県の面白い女性起業家を全国の起業家に繋いだり、Facebook社のCSR活動の一つでもある「#起業女子プロジェクト」の地域担当トレーナーとしてSNSの活用のサポートなどをさせていただいています。

エディブルフラワー事業(2016年~)


 第二創業として農業分野に参入。世界の作物の3分の1を受粉するミツバチが激減の危機にある中で、持続的な食の生産・消費サイクルにおける課題解決の一つとして、「人と蜂が同じ花を分かち合う世界を」をコンセプトに、エディブルフラワー(食用花)の生産・加工・販売事業を開始しました。

 

➖現在の事業、取り組みにつながる出会い、はどのようなものですか?

 事業を思い立った原体験やきっかけは様々ありますが、起業に至ったきっかけは夫との出会いが一番大きいですね。

 私は大学在学中の19歳の時に妊娠・学生結婚をしています。親の大反対を押し切り駆け落ち未遂まで企てて(笑)。結局両家に納得してもらえたことと、勝手に退学しないという約束で1年休学し出産、翌年に復学、娘を保育園に預け学校に通いながらアルバイト。その後は夫より先に卒業したので世帯主も経験してきました。

 2008年からは夫の就職の勤務地が滋賀県だったことから縁も所縁もなかった滋賀県に引っ越します。その年から4年連続で夫の度重なる病気、手術、怪我を経験します。それがびっくりすることに第二子の産後すぐにとか、第三子の妊娠が分かった翌日とかに起こるんですよね。専業主婦になっていた私にとって「いま夫が死んだら私は乳幼児3人を育てていけるだけの経済力がない」「いつでも経済的弱者になれる自分」「子ども達をちゃんと育ててあげられるんだろうか」という現実や不安と対峙する時間が訪れます。キャリアがない上に子育てに拘束され、いつ子どもが熱を出したり体調を崩すかもわからないような乳幼児3人を抱えた私を今すぐ雇用してくれる企業はない。でも生きていくのにお金は必要。

 その時に、よく考えたら私はお金って何なのか知らないってことに気が付いたんですよね。あれ?私お金って何なのかわかってないぞ?みたいな。時間で働いても収入には限界があるし、子育ての時間だってちゃんと欲しいし、子どもにも時間をかけたい。そんなことをグルグル考えている中で、それならば夫が生きている間に私は雇われない働き方を模索してみよう、そう思ったのが起業のきっかけです。

 だから、この出会いはたぶん、夫とではなくリスクとの出会いなんですよね(笑)。

 

株式会社いと・代表取締役 山崎いずみさん

➖出会う前と出会ったあとで、どのような変化がありましたか?

 実際に借り入れをして法人を立ち上げた経験や、2013年の滋賀県で「コワーキングスペース」なんて言葉を知っている人がいない状態の中で、ROOTを立ち上げたこと。数少ない利用メンバーと共同で海外に着物を輸出も色々しましたし、インターンの学生とインドネシアまで飛んで行って実らなかった事業もあります。すべては経験として自分に蓄積される財産、お金よりまず先にそこの実体験を得ていると自分に言い聞かせて創業当時の数年を走り続けました。一緒に試行錯誤した人達との関係も今の私を作ってくれたかけがえのないものです。それぞれ別の事業を展開していますが、運営するコワーキングスペースが「背中を任せ合えるコミュニティ」として醸成されてきたのも感じています。

 このコロナ禍の今でも情報共有やお互いに出来ることはさっと手を貸し合えるような優しい暖かさをメンバーのおかげで作れています。

 「旦那さんが稼いでるのに何が不満なん?」「パートでいいやん」「コワーキングスペースなんて儲かるわけないやん」と周りからは総反対されましたが、周りがまだしていない事でも自分の中ではイメージが描けてしまっているので。

 そんな中で、起業に理解を示しやってみたらいいやんと背中を押してくれたのは夫でした。借り入れの時も人生で初めてお金を借りることにびびる私に「例えば車買ったとして10年経ったら車の価値ってほぼなくなってるけど、会社まわすのに借りたお金は経験という資産になっていくやん」と。

 リスクもくれるけど背中も押してくれるこの人じゃなかったら私は起業をしていなかったと思います。

考えをぶつけ合いながら、互いの成長を楽しみ合う関係に。

➖「〇〇をやってみたい。」と願う人の新しい一歩の背中を押すような、本があればぜひ教えてください。また、それが山崎さんにとってはどのようなものであったかも教えてください。

【本】『2000社の赤字会社を黒字にした 社長のノート』(長谷川和廣/著)

 創業する前から多くの本を買い読み漁りましたが、カバーを外して持ち歩き定期的に見直し続けている本が長谷川和廣さんの「社長のノート」です。筆者が283冊にも及ぶ日々の気づきを書き留めたノート、その中から抜粋してまとめてくれている本です。読むときはもくじを開き、その時自分が引っかかるキーワードのページを開くことで今自分が何に引っかかっているのか、ここからどうしていこうと考えるパートナーとして大好きな1冊です。情報化社会の中で日々情報に振り回されがちな私たちの呼吸を楽にしてくれるような静かで大きな温かさを感じます。

 

【本】『女性30代からの「複業」生活のすすめ―週23時間働き、男性平均年収を超える生き方―』(山下弓/著)

 著書の山下さんは創業時知り合った人生の先輩の一人。何もない中で株式会社を立ちあげ起業した私の選択を「その生き方はこれから必ず必要になってくるから」「あなたの生き方はそれでいいのよ」と言い続けてくれた数少ない知り合いです。キャリアカウンセラーとして、自身のキャリアに悩む多くの女性やそのパートナーである男性に伝え続けてきた内容が出版社の目に留まり、コロナ禍で大きく変わりつつある社会の中で子育てに仕事に悩む若い世代に必要な視点として1冊の本としてまとめられたのがこの本です。

 私と夫が「子育て」と「仕事」をパートナーとしてどう役割を担いどのような選択をしてきたか、事例として挙げてもらってもいます。人と違うキャリアを選択し歩んできたことが、子どもたちや夫に負荷をかけていないかとどこかで後ろめたさも感じていた私にとってまた背中を押してもらえた気持ちになりました。子育てという、お金がかかる時期に自分たちのキャリアをどう重ねていこうか悩む世代の背中を押してくれる1冊です。

 

➖このパンデミックはみんなに等しく訪れた出会いである、と捉えたとき、あたらしく見えはじめた可能性や機会があれば教えてください。

 新型コロナウィルス感染症による社会の変化は、日々忙殺されてしまい止まれない私たちひとりひとりが、一度立ち止まって本当に大切にしたいもの・ことは何かを考える機会になったと思っています。「このままじゃいけない」と漠然とした不安を抱えた人たちも、その不安を、今後の生き方・キャリアとして転換できる可能性を模索することで、新しい価値観、新しい商品、サービスに繋がっていくと考えています。

 運営するROOTコワーキングスペースでも既存利用者のニーズが変わったことで、安心・安全を最重要視しながらもコミュニケーションが希薄にならないよう、また困ったことは困ったと言い合える場づくりを意識しています。エディブルフラワーの生産事業の方でも、購入してくださる方たちと私たちは一緒に何ができるだろうと考え新しいチャレンジにも積極的に取り組み始めました。

 私たちはひとりで生きていけるわけはなく、色々な人に支えられ、また支え合い生きている。この事実が何よりも貴重で尊いことなんだと実感をし、背中を任せ合える人達を少しずつ作っていける人が可能性を秘めていると感じています。

 

➖最後に。人生に素敵な出会いを招くために、大切にしたいことを教えてください。

 事業内容や数字より「その奥にあるその人の背景・自身を突き動かす思いは何か」の部分に触れさせてもらえる機会を大切にしています。社会で何者であるかの前に、その人が死ぬまでの時間何を大切にしてどう生きていきたいのか、そこに自分はどう関わりしろを作っていけるのか。きっと多くの人とそういう繋がりを作ることは難しいでしょうが、私自身が生きていく中で出会い関わりが深くなる人達とは良い繋がりを作って行きたいですね。皆がプライベートも含め幸せであってほしいと思います。

 あとは自分に余白を持っておくことも意識しています。コロナで今はなかなか難しい状況ですが、旅行に行ったり良い景色を眺めたり。そういう時間を持っておくことが自分に余裕が生まれるのかなと。日々の忙しさに忙殺されず、人の話を楽しく聞ける時間を持ち合わせておけるような自分でいたいと思っています。

2018年に撮影されたROOTの入居者同士新年の顔合わせの様子

山崎いずみさん、ありがとうございました。

※本記事の掲載写真は新型コロナウィルス感染症が拡大する前に撮影されたデータになります。

 

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