働き方も、働く場所もアップデートしよう〜 応援したくなる事業やプロジェクトの共通点とは?〜 | 2/22 オンライン開催・イベントレポート
インターネットやスマートフォンが世の中に広がったことで、誰でも気軽にモノを作り販売できる時代になり、自分のアイデアや思いを事業という形にしたいと考える人はどんどん増えている。しかし、「頭の中にアイデアはあるけどどうやって形にしたらいいんだろう」,「事業をスタートしてみたけどなかなかうまくいかない」と悩む人も多いのではないだろうか。
2021年2月22日にオンラインで開催したKOIN主催イベント「多様な働く場と共に考える京都での働き方」。KOINでは全3回に渡って、京都市内のコワーキングやシェアオフィスの関係者を招き、働く場所のあり方をお伝えしてきた。1回目は「フリーランスによる場所の活用と仕事のつくり方」、2回目は「仕事と家庭のバランスを取りながら仕事する」。
運営メンバーのKOINスタッフ生田優里佳(左)、㈱ツナグムのタナカユウヤさん(右)
最終回となる今回のテーマは「応援したくなる事業やプロジェクトの共通点とは?」。インキュベーションを軸に展開している「オギャーズ御池」から笠島陽子さん、「Impact Hub Kyoto」から原田岳さんを迎え、各施設の特色をふまえた起業支援の仕組みや、支援するうえでの思いなどをお話いただいた。
※インキュベーション=事業の創出や創業を支援するサービス・活動。
初参加の人も多かった今回。さらにゲストのお二人も初対面という状況で、スタート時には少しばかり緊張感も漂っていたが、時間が進むにつれコメント欄は大盛り上がり。オンラインにも関わらず楽しい空気が流れるイベントとなった。
ゲスト①「オギャーズ御池」笠島陽子さん
はじめにお話いただいたのは、株式会社ツクリエに所属し、オギャーズ御池のインキュベーターを務める笠島陽子さん。笠島さんの経歴はとっても、ユニーク。親戚の多くはうどん屋、お母さんはおばんざい屋を営むという、根っからのお商売家系。そのため、常に人に囲まれて育ったそうだ。
学生時代は、お母さんのお店を手伝いながら、大学の仲間と映画製作に勤しんだ。なんとその映画がバズって、映像制作会社を起業することに。その後は大学に勤務、二度目の会社立ち上げを経て、現職についた。相談者からすると、経験豊富な笠島さんからもらうアドバイスは、とても心強い。
「私自身も二度、起業経験があるんですが、起業するときはすごく孤独だったりするんです。だからうまくいった時は一緒に喜んで、うまくいかなかった時は一緒に悔しがる。そんな温かい気持ちで接しながらも、ビジネスに関してはクールにアドバイスするということを大事にしています」
株式会社ツクリエに所属してからは、京都府・京都市のビジネス支援拠点のコーディネーターを担当。2年前には「オギャーズ御池」を立ち上げ、インキュベーターに就任。現在は施設運営、協業から発展した新規事業のサポートなどを担当している。
オギャーズは、単なるコワーキングではなく、新しいビジネスを始める人のためのインキュベーションオフィスという位置づけだ。オギャーズ御池には笠島さんを含め、6〜7名の社員が所属している。他の社員も、映画やテレビ局プロデューサー、出版社、アニメの制作会社など笠島さん同様、ユニークな経歴の持ち主が多い。みんなそれぞれの経歴を生かして起業相談やサポートを担っている。今年度からは、受付コンシェルジュを設置。学生起業家の卵や、起業に関心がある京大、立命館大などの学生が受付を担当しているそうだ。
「密な写真です!」と笠島さんが見せてくれたのは、昨年まで行われていたピッチ会の様子。チャット欄には、「おいしそう!」「参加したい」などのコメントが次々に投稿される。運営母体の株式会社ツクリエは、もともとは投資会社。オギャーズ御池以外にも全国に拠点があり、年間5000件の起業相談に対応している。グループ会社のネットワークを活かして、医療、ロボット・IoT、ファッションなど幅広いビジネス支援に対応できる仕組みを持つのが特徴的だ。
さらにインキュベーション事業以外にも、クリエイターや起業家のプロデュース事業も行っている。現在笠島さんが担当しているのは、You Tubeドラマ「おやじキャンプ飯」。書籍化、商品化、海外展開などを進めているそうだ。私も拝見したが、見事にハマってしまった。キャンプ好きな人は必見だ。
笠島さんはツクリエの理念である「起業家に寄り添う」ということを、とても大切にしているそう。ツクリエでは、起業家との対話を「コンサル」ではなく、「メンタリング」と言う。それは一方的なアドバイスやサポートではなく、起業家が「どうしたいのか」という意思を尊重し、共に考え、寄り添うということを大切にしているからだ。自身も起業家としての経験がある笠島さんだからこその目線だと感じた。
受付コンシェルジュの竹田さんが、スペース内を案内してくれた
最後にオギャーズ御池のオフィス内を、オンラインで案内してくれた。仕事がはかどりそうな広々とした空間。新町通りに面した二階の窓からは、祇園祭の時期は山鉾巡業が見えるそうだ。コワーキング会員は365日24時間いつでも利用できるのもうれしいところ。ピンときた人はぜひ訪れてみてほしい。
ゲスト②「Impact Hub Kyoto」原田岳さん
続いては、Impact Hub Kyotoのマネージャーである原田岳さん。わかりやすくマネージャーと名乗っているが、本来は「Maker」というImpact Hub独特の呼び名があるそうだ。笠島さん同様に、原田さんの経歴もとてもユニーク。学生時代からメキシコで雑誌を作ったり、グアテマラでヒッピー3000人が集まるフェスの日本運営の一人として関わったこともあるという。このあたりから原田さんの行動力、スケールの大きさが伺える。
日本に戻ってからは大学を辞め、友人とシェアハウス事業を展開する「株式会社アオイエ」を創業した。「アオイエ」は、ただのシェアハウスではなく、各界のプロフェッショナルによる講義や、ワークショップなどのサービスが受けられる、住む人達の夢の実現をサポートするシェアハウス。もともと拠点は東京だったが、さらなる事業拡大を行うべく、原田さんは京都に移り住んだ。京都にもシェアハウスをオープンし、運営を行う傍ら、京都で多くの人や企業と関わりをもち、活躍するフィールドを広げていった。
その後は、Impact Hubのマネージャーの他にも社会起業家支援を行う「株式会社taliki(タリキ)」のCCO、35歳以下の多様なプレイヤーが対話し、U35の視点で京都の未来を描く「U-35-KYOTO 」京都のプロダクトマネージャーとして、活躍の幅を広げている。「U-35-KYOTO 」で原田さんは、広報の一環として制作したタブロイド紙のプロジェクトマネージャーも担当している。4月から配布予定なので、見かけた際はぜひ手にとってほしい。
ここからは、現在原田さんがマネージャーをつとめる「Impact Hub」についてご紹介しよう。
「Impact Hub」は2005年にロンドンで創業し、現在は50カ国・100都市以上の国で展開している。ノーベル平和賞を授与されたムハマド・ユヌス博士など、政治・経済・アートなど各分野で権威のある人物や、世界的に注目を集めている企業や団体も関わっているているそうだ。
ユヌス博士が京都の高校生たちと対話する教育プログラムをImpact Hub kyotoにて開催
Impact Hubが掲げるミッションは、「Art of Living」。正確な日本語訳はないそうだが、原田さんは「華道や茶道などの『道』に近いのではないか」と教えてくれた。「社会の変革」「人と自然との関係の変革」ともに「自分自身の変革」を促せるような事業を行うことで、「Art of Living」が成される。Impact Hubは、社会や世界を変えるために、新しい「道」を生み出す可能性を秘めていそうだ。
Impact Hub Kyotoがあるのは、西陣産業創造會舘 。昨年で100周年を迎えたこの建物は、建築家・岩元祿が手がけたものだ。岩本の手がけた現存する唯一の建物であり、文化的・建築的にとても希少な建物。国の重要文化財に指定されており、訪れるだけでも充分価値ある場所である。そんなImpact Hub Kyotoには、まちづくり、昆虫食など多様な分野で活躍する企業が入居している。
会員による朝ヨガ、お茶のスクールなども開催している。
「僕たちも起業支援やサポートを行っていますが、すでにImpact Hub Kyoto内のコミュニティで、エコシステムが成り立っているんです。多様な企業が入居していることで、ここでは資金調達や販路拡大など、会員同士の情報やネットワークを活用することもできます」
個性的な空間もImpact Hub Kyotoの魅力のひとつ
Impact Hub独自のアプリを活用すれば、世界各所で行われている、オンラインイベントに参加することもできるそうだ。日本だけでなくグローバルな舞台を視野に入れている人には、もってこいの場ではないだろうか。コロナ化でなかなか国外へ動けない今、貴重な情報が手に入るかも知れない。社会や世界を変えるために、新しい「道」を見つけたい。そんな方は、ぜひImpact Hub Kyotoを訪れてほしい。
トークセッション「応援したくなる事業やプロジェクトの共通点とは?」
ゲストトークのあとは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさんとゲストによる、トークセッションがスタート。最初のトークテーマは、「応援したくなる事業やプロジェクトの共通点とは?」。
笠島さんは、このテーマについて前日から考えていただいたようだが、「共通点はない」という答えに至ったという。
「年間5000件ほど起業相談に対応していますが、アイデアが浮かんでいる状態の方から、事業計画書を作っている最中の方まで、相談に来る方のフェーズはばらばらです。まだまだアイデアが煮詰められていない人も、何回か壁打ちしたら磨かれていきますし…。『こうだからだめ』というのはないと、改めて思いました」
原田さんは「ユーザーに寄り添っているかどうか」ということが、応援したくなるプロジェクトの共通点だと教えてくれた。
「今は特に社会課題を解決しつつ、マネタイズしていくような社会起業家を支援したいと考えています。その場合、『ユーザーの痛みや課題に寄り添っているのか?』『社会課題を本質的に捉えているか?』ということに着目していますね」
お二人ともに起業経験があるからこそ、出てきた言葉なのだろう。笠島さんは起業家の不安や孤独に寄り添い、原田さんは「何が事業にとって必要なのか」をはっきりと問う。どちらも起業家にとっては必要なサポートだ。
原田さんはImpact Hubを運営するうえで、こんなことに気をつけているという。
「先ほど、Impact Hub内でエコシステムが成り立っていると話しましたが、そんな充実したコミュニティをどう生み出すかということを常に念頭においています。会員同士の関係性をつくり、関係性を増幅させるためにどうするか。そこで『脳に緊張と緩和を与える』ということに注目して場づくりをしています」
例えば、張り詰めた時間とのびのびリラックスできる時間。そういうギャップがストレスを緩和させたり、脳に余白を生むことでアイデアが浮かぶ。そういったことを加味して、場所やコミュニティづくりに関わっているのだそう。
常にコメント欄は大賑わい。
一方、笠島さんはオギャーズでは、定期的にピッチ会を行い、内部の連携を強めているのだと教えてくれた。
「料理を食べながら、お互いの自己紹介をすることで、皆さんぐっと仲良くなるんです。オギャーズ内での受発注はしょっちゅう。拠点が全国にあるので、拠点をまたいだマッチングもあります。こういった私たちのネットワークを活かしたマッチング、起業に対するテクニック的な部分でのアドバイスもオギャーズの強みだと思います。ただ情報を活かしきれてない人も多いので、そういったところもしっかり手助けしたいですね」
タナカさんは、「お二人のように起業家に寄り添う人が増えれば、もっと色んな人が挑戦しやすい世の中になると感じました。実践されている取り組みや経験を、もっとこういう場でシェアしていきたいですね」と締めくくった。
参加者からは、「同じように起業家の支援を行っているが、どのように支援すればいいか悩むこともあり、とても参考になった」「起業するには、ユーザー目線が大切だという意見に背中を押された」などの声が聞かれた。参加者にとって実りある時間になったようだ。
今回で最終回を迎えた「多様な働く場と共に考える京都での働き方」。コロナウイルスの影響により、働く場所や時間、仕事のあり方などが多様化した。しかし、それをネガティブに捉えるのではなく、自由な選択肢が増えたと考えてみてはどうだろうか。
例えば、これまで迎えたユニークなゲストたちがいるコワーキングスペースに足を運んだら、これまで知らなかった情報がもたらされたり、新しいコミュニティに参加することができるかも知れない。大切なのは、そこでどんな人と出会い、あなたがどんなことを感じるか。あなたが変わる可能性が、京都にはたくさんある。ぜひ、その一歩を踏み出してみてほしい。