【寄稿記事】『◯◯さんをつくる出会い。』vol.04 福吉 貴英さん
KOINは「時代をつくる出会いを。」をコンセプトに、事業を始めたい、広げたい、応援したいといった「○○をやってみたい。」と願う人の新しい一歩を応援しています。そこで、このシリーズでは「○○さんをつくった出会い」に焦点を当て、様々なジャンルで活躍するビジネスプレイヤーに質問し、彼らの出会いのストーリーを紹介していきます。
第4回目となる寄稿は、「株式会社エヌ·アイ·プランニング」部長、「株式会社Q’s」取締役、「hAB」代表と多彩なキャリア人生を歩む福吉貴英さんにご依頼しました。
➖まず、今の福吉さんの事業、取り組みを教えてください。
経営コンサル→焼き鳥屋店長→編集長を経て、「変わった経歴ですね」と言われることがほとんどですが、私にとっては必然であり、全てのキャリアが繋がっています。常に「食」を中心に「職」を選び、一つずつキャリアを積み重ねてきました。
現在は、奈良と京都、2つの会社に籍を置き、「食」に関するイベントプロデュース、メディア運営、飲食店のプロデュースやシェフとの商品開発などを行っています。また個人では、企業や行政向けの研修や複数の大学で講師をし、経営コンサルティングもしています。
具体的には、奈良のローカルメディア企業である「株式会社エヌ·アイ·プランニング」で、奈良フードフェスティバル「シェフェスタ」の事務局長として、イベント企画やプロモーション、ブランディングを担当しています。また『奈良食べる通信』という作り手(生産者)と食べ手(生活者)を繋ぐソーシャルメディアを2015年に創刊しました。このコロナ禍では、10名ほどのシェフと一緒に奈良県産食材を使ったカレーを開発し、「カレーキャラバン」というプロジェクトを興し、百貨店での企画店舗やインターネット通販での販売をスタートしました。
もう一つ、京都信用金庫と株式会社ツナグム(京都移住計画など運営)の合弁会社である「株式会社Q‘s」では取締役として、仲間と共に「DAIDOKORO(台所)@QUESTION」というコミュニティーキッチンをつくりました。ここは、誰もが使える公民館のような場所を目指していて、「食」を起点に“つながり”を作る、交差点となるようなプロジェクトを進めています。2020年11月2日のOPENに合わせて、キッチンの備品や食材の選定·調達。はたまたキッチンを使ったチームビルディング研修プラン作成や講師もしています。最近は、「食」を学ぶ大学生や、「映像」や「ライティング·情報発信」に興味があるメンバーを募り、京都府内の生産者を巡って、動画コンテンツも制作中です。
➖福吉さんの現在の仕事につながる出会いや経験はどのようなことですか。
「このチャーハン、おかんが作ったやつより美味いわ!」。小学3年生の夏、友人が発したこの一言から、私の「食」への道が開きました。勉強もスポーツも人並み、やや肥満ぎみだった私は「僕、コックさんになる」と心の中で宣言するわけです(笑)。共働きの両親だったこともあり、「ミスター味っ子」(講談社『週刊少年マガジン』連載)を熟読し、率先して夕食を作るように。子供が作った料理だから褒めてくれているとはつゆ知らず、嬉しかったことを覚えています。
高校進学後は、遊んでばかり。勉強も嫌いなので、料理専門学校に行く気でいたのですが、父から「高校までは面倒見てやるけど、それ以降はお前の人生。選択に口は出さんが、お金も出さん!」と衝撃の一言。今思えば、当時、父は起業したばかりでリアルにお金がなかったんだと思います(笑)。専門学校のパンフレットを取り寄せたのですが、授業料に加えて、高額な実習費と包丁など、2年間で300万円とか400万円必要だったはず(後々、専門学校に行かなくても料理人になれることも知るのですが)。商売人であった父からは「投資対効果が合わない、飽き性のお前が料理人として続くはずがない」と言われ、悔しくも、その通りだとも思い、ビジネスとして「食」に向き合おうと考えました。(というのは嘘で、周りに合わせて、とりあえず大学受験をし、浪人して、さらに東京の大学を落ちまくって、さらに家計を圧迫したのですが。。。)
つまりは、小学校の頃の料理に対する探究心や誰かに料理を提供する喜びを感じた何気ない経験と、大学受験の苦い思い出が「食」への想いを加速させたんだと思います。
➖出会う前と出会ったあとで、福吉さんにはどのような変化がありましたか?
「食」に出会ったのち、一度は脱線して、ビジネスマンとしての成功を目指しました。というのも、大学入学と同時に500万円以上の借金。高校の内申点が2点台というお粗末な結果だったゆえ、有利子奨学金しか申し込めず、月額10万円の満額借りて、大学の授業料を払いました。やりたいことがあって大学進学したわけではないので、とにかく沢山の仕事を経験して、稼ぐ能力を身に付けるため、多い時には4つのバイトを掛け持ちする勤労学生。(今思えば、借金して授業料払っているのに、学校に行かないという意味不明な行動)。
その時、唯一、お金じゃなく、モテたいという理由だけでやっていたバーテンダー。結構、真面目に働いていたので、オーナーから「定休日の水曜日はお前が好きにやれ!歩合で!」と鍵を預かって週1店長。料理も出し、チラシも作って、とにかく必死。ちょうど、マーケティングを専攻していたので、リアルに商売をしながら本で得た知識を即実践。歩合なので頑張れば手取りが増えるし、お客さんが増えれば、女の子と出会うチャンスも増える!と。そんな打算と下心を胸に、商売を学びました。その後、経営コンサルタントとして、他人のふんどしで経営を学び、紆余曲折はあったのですが、念願叶って神戸と大阪で飲食事業の立ち上げを経験。さらに、奈良のローカルメディアの企業で「シェフェスタ」や『奈良食べる通信』の仕事に繋がっていきました。
➖「〇〇をやってみたい。」と願う人の新しい一歩の背中を押すような、本や映画があればぜひ教えてください。また、それが福吉さんにとってはどのようなものであったかも教えてください。
本:「夢をかなえるゾウ」水野敬也(著)
背景(どのような出会いと気づきがあったか):「ミスター味っ子」が僕の愛読書でしたが、ここは真面目に。大学受験に失敗し、就職活動もなかなか内定をもらえない。何とか、経営コンサルティングファームに潜り込んだものの、頭キレっキレのかしこ集団の猛者の中で活躍できるはずもなく…。自己啓発本を読んでは、努力不足やモチベーションの低さが露呈し、むしろ凹むばかり。小説タッチで物語を読み進めて行く中で「行動すること」「感謝すること」など自分でも今日から出来そうなことばかり。勉強が苦手な僕でも少し変わることができた本です。
映画:「リトル・フォレスト」
背景(どのような出会いと気づきがあったか):奈良というローカルで働き始めた2013年。それまで「都会のほうがイケてる」とか、「お金がたくさんあった方が幸せ」と思っていました。2014年に「夏·秋編」、2015年に「冬·春編」が上映され、その後、レンタルビデオに並んだ時に観ました。ちょうど、『奈良食べる通信』を創刊する準備をしていて、経済至上主義というか資本主義に対して自分自身もどのように向き合うべきかを捉え直していたタイミングだったので、「農業とかスローライフっていいなぁ」だけじゃなく、しがらみとか閉塞感も含めて主人公のリアルな心境がすっと心に染み込む作品です。映像のギミック、料理のシーンも動画制作の参考にしました。
➖このパンデミックはみんなに等しく訪れた出会いである、と捉えたとき、あたらしく見えはじめた可能性や機会があれば教えてください。
商売人の息子でお金儲けが好き。20代の頃は仕事というより、お金を稼ぐ過程や高価なものを消費することで達成感や物欲を満たしてきました。
30代でローカルやソーシャルに関わることで、少し価値観が変わり、お金というよりも仕事で得られる関係性。沢山の人に出会い、感謝や必要とされることが喜びに。自分自身と社会(=自分以外の他者)との接点がほとんど仕事中心で回っていました。
新型コロナウィルスの蔓延で、イベントはことごとく中止、コミュニケーション形成の大きな要素であった会食や飲みの場もなくなり、人と会うことすら難しい。2020年3月、自分にとって絶望的ともいえる軟禁状態かつ引き篭もり生活に向き合うことになりました。
都会のコンクリートの塊の中で、保育園に預けられない当時3歳半の娘と四六時中一緒。唯一の人との接点、つまり社会性や自分を生き物として捉えられるのは、娘と向き合っている時だけになりました。彼女にとっても同じで、二人きりの時は、世界で一番私を必要とし、頼りにしている。だって、親である私がご飯を作らなかったり、ほったらかしたりしたら彼女は生きていけないわけですから。今まで家庭を顧みずに働いてばかりの仕事人間だった私が、少しだけ父親らしくなったような気がします。
コロナ前までは、ハードな仕事を猛スピードでこなす目まぐるしい人生だったんです。例えるなら高速道路を走っているような感じ。それが、コロナによって一時経済がストップし、高速道路を降りることを余儀なくされました。でも、高速道路を降りるとそこには豊かな景観が広がっていて、日々当たり前にある身近な幸せに気づけたんですよね。
➖最後に。人生に素敵な出会いを招くために、大切にしたいことを教えてください。
恥ずかしながら、今はできていません。仕事ばかりしてきた人間なので、家庭と仕事の両立のさじ加減に苦心しています。
“時間”という人間平等に与えられたものをどのように采配して行くか。改めて考えさせられます。裏を返せば、「素敵な出会いを招くために大切にしたいこと」というお題目の答えは、“時間”なんだと思ったり。
「出会いのための時間」を勝手に因数分解すると、「コミュニケーションの量と質の掛け算」ではないかと。だから、これからは限られた時間の中で、お付き合いする人や機会をある意味、限定しようと思っています。これまではfacebookのフォロワーの数や会食に呼ばれる回数(わかりやすく言えば忘年会に参加する回数)とか、数=成果や評価だと思っていました。
SNSで会ったことも、話をしたこともない人と繋がれる世の中だから、敢えてリアル。家族はもちろん、これまでにお世話になった方々や一緒に仕事をしてきた仲間や友達、そしてその時々、本当に必要だと言ってくれる人、思ってくれる人に真摯に向き合って、小さいコミュニティの中で背伸びせず、無理もせず、自分の得意な部分で最大限お役に立てるように生きていこうと思っています。
➖福吉 貴英 さん、ありがとうございました。