人の力を活かすプロに聞く「他力本願で夢を叶える方法」 | 3/9開催イベントレポート
PHOTO : 中田真衣
「1人で夢を叶えることは難しい」、だから「誰かの力を借りたい」。
でも、どう借りたらいいか分からない人が多いのではないか。
2020年度 U35起業家育成プログラムの最終回は、「他力本願で夢を叶える?自分らしく仕事するための巻き込む力を引き出す90分」をテーマに開催。
ゲストに、株式会社AFURIKA DOGS代表取締役社長・中須俊治さんをお迎えした。
中須さんのモットーはなんと「他力本願」。
株式会社AFURIKA DOGS HPより
そんな起業家が立ち上げたのが、京都と世界の工芸をつなぐ体験型のファッションブティックを運営する「AFRIKA DOGS」だ。創業者であり他力を活かし夢に向かって走り続けている中須俊治さんはどのように人の力を借りて、事業に活かしているのだろうか。中須さんのお話からそのヒントを探る。
他力本願の原点とは?
中須さんが大学を休学して渡ったアフリカのトーゴ共和国での経験の中に、他力本願のヒントとなるエピソードがあった。
「現地でラジオ DJ として番組を作る機会があったんですね。僕と同じように来ていた人はというと、国連に所属するマネージャーや優秀な大学から留学に来ている人など、いわゆるエリートばかりだったんです。 現地の言葉が分からない僕と周りを比べると、その差は明らかでしたね。
僕は、自分1人では何もできないと思い、仲間を増やすために現地の言葉を話せるようになることから始めました。トーゴ共和国の公用語はフランス語なんですが、エヴェ語、カビエ語などローカルで使われる言葉もあるんですね。なので、英語からフランス語、フランス語からローカルで話される言葉を勉強しました。
少しずつ話せる言葉が増えると、初めて見るアジア人が自分たちと同じ言葉を話すことをとても面白がってくれ、すぐに仲良くなれたんです。
一方で、周りのエリートの人たちは公用語のフランス語で指示を出すコミュニケーションだったんです。指示されて動くほど面白くないものは無いですよね。その結果と思うのですが、彼らの番組制作は進まなかったんです」
中須さんは現地でできた仲間と一緒に番組を4本制作。一緒に作る人との関係性の深さと楽しさが、結果としていいものをつくるということを体験する。
イベント当日の中須さん
他力本願で助けてもらった物々交換のお店「トシハルマルシェ」
アフリカから帰国した中須さんは、一年半かけて大学の卒業論文を執筆。タイトルは『アクションという贈り物』。 アフリカの人たちが物々交換で生活を送っていたことがきっかけだ。
お金以外のもので、生活を成り立たせていたのはなにか。そのメカニズムを知るために大学の中に物々交換の櫓(やぐら)を立てて、トシハルマルシェと名付ける。
周りの学生や大人からは「なにしてるねん」と反発が起きたが、応援する教授陣が中須さんの前に立って守ってくれた。
「以前から教授の皆さんに トシハルマシェの構想を相談し、活動の進捗を共有していました。気づけば教授の皆さんも色々助言をしてくれて、『ここは面白いことになるから』と守ってくれる応援団に変わっていましたね」
自分のやってみたいことを、色んな人に語り助言をもらうことで、相談相手も企画の当事者へと意識が変わっていく、まさに他力が自然と活かされていることを無意識にされていた中須さん。
事業計画は、出会いたい人数 で決まる
大学卒業後は京都信用金庫に就職。地域と密接につながれることが決め手だった。金融マンとして地域企業に寄り添いながら、必死に金融に関する知識を深め、取れる金融関係の資格を最速で取得した。そして、4 年間働いた後、はじまりの場所であるアフリカで起業。ファッションブティック「AFRIKA DOGS」が誕生するする。しかし、その一年後、新型コロナウィルスの影響で、インバウンドや流通網が影響を受け、0からのスタートに。
そんな厳しい時を振り返り中須さんはこう語る。
「すごく大変な状況でしたね。妻がご飯を炊く量を2合から1合に静かに減らしたり、会社の危機が家の中にもやってきて。そんな時でも、応援してくれる人が増えていき、諦め癖が悪くなったんですね。ここまで来たんだから絶対にやり遂げたいと。応援してくださる方の分も応えたいと前向きになれるんです。長く続けていくなら面白おかしく生きたいじゃないですか」。
どんな困難も諦めず、みんなの思いを胸に、粘り強く突き進む中須さん。そんな姿が見えるから力を貸したくなるのかもしれない。中須さんの他力本願は強くなる。
ーその粘り強さはお金以外の物差しがあるからではないのか?
会場の参加者からの質問があがり、中須さんは答える
「お金の物差しは生活していく上で無くてはならないものだと思っています。ですが、人との関係性を大切にする物差しも持っていると思います。自分が明日働けなくな ったら、安心して妻や子どもが過ごせることは保証できませんよね。たとえ自分が病気になっても、 誰かが僕の家族を助けてくれたら安心ですよね。そうしたお互いを支え合える関係性をつくっていきたいと思っています」。
自分1人の限界がわかるからこそ、他者の力を借りる意味が生まれ、より大切にできる。自分の大切にしたいことのために、人との関係性を大切に育む。その姿勢が、結果として他力本願に応えたくなる秘訣なのかもしれない。
3 年ぶりに書いたAFRIKA DOGSの事業計画は、売り上げの目標よりも、これから会いたい人の数を大切にした。
事実、出会った人の数だけ事業の成長が比例していることを、中須さん自身が証明している。
自分のワクワクが相手の感情を豊かにする
人はなぜ中須さんに力を貸したくなるのだろうか。
中須さんはまず自分がワクワクするかを大切にしている
「正しいことより、楽しいことの方が人は動きます。だからこそ、自分と相手がワクワクす るものになっているかが重要です。楽しいことの先に社会課題の解決が出来ていることが理想形ですね」。
中須さんの他力本願の根底には、人が力を貸したくなる「楽しさ」があり、自然と色んな人が交わっていく。中須さんの他力はお願いをしてで借りる力ではなく、相手のしたいことと自分のしたいことを重ね、自然と自力になっているのだ。
コンゴのファッションデザイナー・メニさんとの出会いもとあるご縁から。
メニさんが京都の着物文化・染色文化に興味を持っていることを知り、2人で職人さんを訪ね学び、気づけば一緒に活動することに。
中須さんの白熱したお話のあと、他にも多くの質問が挙がった
ーどのように自分のやりたいことを見つけましたか?
「いろんな人にしゃべりまくることです。僕の場合、一人で考えるとどんどんネガティブになるんですね。なので起業した時は 100 人に話しに行きました。そこでの対話の中で響いた言葉はメモを取るようにしていましたね。あと、答えは全て自分の中にあるので、話している時の自分の温度感の違いに目を向けて、自分が本当にやりたいことに気づくことがありました」。
最後に中須さんに明日から皆さんと一緒にしていきたいことを聞いてみた。
「この一年新型コロナウィルスの影響でズタボロになった分、色んな変化を楽しむマインドセットが大事だなと思いました。しんどいことをどう捉えたら楽しくなるかですね。
なので、皆さんと一緒に一日一大喜利をしたいです。どんな大きな困難も、大喜利のお題として捉えて、どう答えたらネタ になるか考えていきましょう!」会場は温かな笑いに包まれ、終わりを迎えた。
「自分で決めたことは全て自分でする」「だれにも頼ってはいけない」そんな責任感の強さ から自分自身を苦しめている人はいないだろうか。そんな時は中須さんのように自分の困 りごとをオープンにして、助けを求めてみてもいい。その人自身がワクワクしていることな ら、どんな形でも周りは応援してくれる。
トーゴ共和国出身のデアバロさんは仕立て職人さん。
中須さんと一緒にお互いのやってみたいが重なり京都とアフリカをつなぐことに。
最後に中須さんが好きなアフリカのことわざを。
「早く行くならひとりで、遠くへ行くならみんなで」