コミュニティマネージャーが目指す、場や地域の枠にとらわれずにつながる関係性づくり| 10/4開催イベントレポート
やっと解除された緊急事態宣言。少しづつ京都のまちにも賑わいが戻り始めた10月4日に、KOIN主催イベント「コロナ禍の今、“場”の役割を問い直す vol.1」を開催した。テーマは「コミュニティマネージャーが考える #仕事場のその先」。
vol.1のゲストは、尾道「ONOMICHI SHARE」の後藤 峻さん、神戸「ON PAPER」の岩田かなみさん。各スペースのコミュニティマネージャーであるお二人に、コロナ禍で変化したことや、今後の場の在り方についてどう考えているのかなどをお話いただいた。
今回はオンラインとKOINのスペースのどちらからでも参加可能にし、ハイブリッド形式でのイベントとなった。北陸や四国など、他のエリアからオンラインで参加してくださった方も。多くの方が、チャット上でコメントやいいねなどの反応をしてくれ、同じ場所に集えなくてもイベントの盛り上がりを感じることができた。
ファシリテーターは、昨年のイベント「多様な働く場と共に考える京都での働き方」に引き続き、株式会社ツナグムのタナカユウヤさん。「コワーキングの役割がコロナ禍となり、問い直されている。今、求められている場とはどのようなものなのか、ゲスト共に紐解いていきましょう!」と話し、イベントはスタートした。
尾道で過ごす人たちが、最高な時間を過ごせるように
最初にお話しいただいたのは、「ONOMICHI SHARE」でコンシェルジュ兼シェアオフィスの運営を行う後藤さん。生まれは京都だが、結婚を機に尾道へ移住。2016年からONOMICHI SHAREに勤めている。この仕事の醍醐味は「いろんな価値観の人と出会えること」。
▲「ONOMICHI SHARE」の後藤さん。参加者の中には「ONOMICHI SHARE」訪れたことがあるという人が何人もいた。
2015年1月にオープンしたONOMICHI SHARE。当初は尾道の近隣のエリアに住む人を想定していたが、時代の変化と共に利用する人の属性も変わってきている。
後藤「観光で尾道を訪れる方が増えてきて、最近ではワーケーションを目的に滞在される方もいます。そういった方と接する中で、尾道のおすすめスポットをおすすめするだけでなく、その人がどんなことを目的に訪れているかをお聞きすることも。関係人口のような形で、ゆるく尾道とつながる人が増えればいいなと」
▲ONOMICHI SHARE番猫?!ウエルカムキャッツの一匹。最近人に慣れすぎて、ウエルカムすらしてくれないそう。
▲最高なロケーションの中で仕事ができる。「これはずるい!」「おしゃれ!」という声も。photo-Tetsuya Ito/by courtesy of DISCOVERLINK Setouchi
コンシェルジュの仕事は、訪れる人が心地よく仕事できるような空間づくりだけでなく、会員さんの困りごとを聞いたり、場にいる人をつなぐ、ハブとしての役割を担っている。もちろん、「どこのラーメンがおすすめですか?」というようなフランクな質問にも快く答えてくれる。
「コッテリ? あっさりが好き?と好みをお聞きし、それぞれに合った尾道ラーメンのお店をお伝えしていますね(笑)。尾道に住む人も旅で訪れた人にも、尾道で過ごす時間をサポートするのがコンシェルジュである私の仕事だと思っているんです」
しかし、昨今はコロナの影響で「尾道に来てね」と言いづらくなってしまった。そこで何ができるのだろうかと考え、ONOMICHI SHAREではフェイスブックライブ配信「オノミチシェアチャンネル」をスタートさせた。テーマは「尾道で働く人をつなぐ」。まちの人をゲストに迎え、仕事や尾道の魅力を配信している。イベント時点で、なんと62回目の配信となるそうだ。
また、もっと外の人にも尾道の魅力を知ってもらいたいと、地域のお菓子の詰め合わせを販売。お土産を通じて尾道の魅力を発信する取り組みだ。
社内の自転車事業(BETTER BICYCLES)が施設に入っており、レンタサイクルをシェアオフィス内で展開。さらに最近は、尾道駅前のホテルやゲストハウスと協力し、宿泊施設で自転車を借りてから、仕事場(ONOMICHI SHARE)へ向かう導線をつくった。
▲ゲストの「ON PAPER」岩田さん(左)は、このサービスを実際に体験したそう。仕事しながら海も島も見えるなんて、最高!
尾道の美しいロケーションに加え、名所やグルメなどまちの楽しさや、価値観の合う人と繋がれるONOMICHI SHARE。タナカさんも訪れた際に、その魅力にはまり、当初2泊だった予定を4泊に延長したそうだ。機会をみて、ぜひ尾道に訪れてみたいところだ。
コミュニティを通じて、一人ひとりが人生の主役になれる時間を
「私の仕事は、パラレルコミュニティコーディネーターです!」という自己紹介からスタートしてくれた岩田さん。この言葉は岩田さんが作った造語なんだそう。一体、どんな仕事なのだろうか。
▲岩田さんが着ているTシャツは、ON PAPERオリジナルTシャツ
岩田「神戸を中心に、フリーランスのコミュニティマネジャーをしています。一つの場にとらわれることなく並行(パラレル)して複数の拠点に関わったり、『旅するコミュニティマネージャー』として、日本各地のコワーキングを訪れる活動もしています」
会社員時代から英会話サークルを立ち上げや、オンラインサロンの活動などを行ううちに、それらが仕事になっていったそう。コミュニティに集う人や、場づくりの運営者をつなぐことを役割とし、「コミュニティを通じて、一人ひとりが人生の主役になれる社会をつくっていく」ことを目標にしている。現在、主に関わっているのは、「ON PAPER」「あすてっぷコワーキング」という2つのコワーキングスペース。
神戸市の旧居留地にある「ON PAPER」は、コミュニティに特化したコワーキングスペース。「一人よりも豊かに、会社よりも自由に」をビジョンに掲げ、会員同士の長期的な関係性づくりを目指している。そのため、ドロップインはなく会員のみが利用できるシステムだ。フリーランス、会社員など立場は違えど、コミュニティに所属したいというベクトルが同じであれば、コラボレーションも生まれやすくなる。
「HP制作や仕事のパートナーを紹介してほしいなどの実務的なことから、DIYワークショップやラジオ番組の配信まで、いろんなコラボが起きています。人とのつながりで人生を豊かにしていきたいという人たちの集まりなので、やりたいことを発言しやすい環境なんだと思います」
「あすてっぷコワーキング」は、神戸市男女共同参画センターが運営している市の施設。神戸市駅の近くに9月28日にオープンしたばかり。「女性の働くをもっと自由に」がテーマのスペースで、働くお母さんにも利用しやすいようにと、授乳室、託児所などを備え、子連れでの利用も可能。市が運営しているので利用料、登録料は無料だ。
「私を含めて4人の運営メンバーがいますが、私以外は働くお母さん。中にはキャリアコンサルの資格をもっているスタッフもいるので、親身になって相談を聞いてくれますよ。『働く女性=バリキャリ』というイメージが強いと思われますが、今は多様な働き方がある。そういった情報をお伝えして、いろんなロールモデルがあることを知ってほしいと思います」
また、岩田さんが個人のプロジェクトとして取り組んでいるのが、「旅するコワーケーション」。コミュニティマネージャーとしてもっと他の場について知りたいと、尾道、京都、鎌倉など全国のコワーキングを訪ねているそうだ。
「旅先のコワーキングでのコミュニケーションを大切にすることで、人とつながり、広がっていくのが楽しいんです。また行きたいと思う場所には、会いたい人がいる。それがこれから、場にとって大切なキーワードかなと思うんです」
コロナによって変化したコワーキングの在り方
ここからは後藤さん、岩田さん、タナカさんによるディスカッションタイム。コロナ禍において、どのような変化があったのか、その上でスペースをどのように運営していきたいのかなど、場づくりの未来について話し合われた。どんな話があったのか、一部を抜粋してお伝えする。
―コロナの影響によって、運営方法に変化はあった?
岩田「ON PAPERでは、オンラインで集まる機会を設けてみましたが、あまり参加されなかったんです。コワーキングに対し、その場でおこる偶発的におこるコミュニケーションに価値を見出していただいていたんだなと改めて気づく機会になりましたね」
後藤「僕自身に『オノミチシェアチャンネルのDJ』という役割ができたことが、大きな変化かも。この状況下で周囲の人を巻き込んで、いかに面白く、楽しめることを作るかということを考える期間でした。場の変化でいうと、ワーケーションの受け皿としての需要が増えてきていることですね」
タナカ「遠方に移動できない状況下で、地域をあらためて見つめ直す流れができてきたので、自分たちの場をどうするのかを問い直された時期だったように思います。京都もたくさんのコワーキングが増え、選択肢が増えた分、利用する側も『自分がどんな場所を必要としているか?』ということを考える機会になったのではないでしょうか」
▲会場の様子
――どのように利用者をサポートしてるのか?
岩田「入会時に『なぜコワーキングを探しているのか?』『どんな人と出会いたいか?』を聞くようにしています。せっかく訪れてくれても、その方が求めている環境と合わないかもしれない。そういったことをきちんと見極めて伝えられるのもコミュニティマネージャーの役割だと思うんです」
タナカ「コワーキング探しも家探しと同じで、合う、合わないがあるはず。利用者の方にも、各スペースにどんな特徴があるのか、しっかりとリサーチした上で決めてほしいですね」
後藤「多様な人が利用するようになって、観光したい、移住したい、協働する人を見つけたいなど、コワーキングに求められることの幅も広がってきました。応えられることに限りはありますが、困っている方の力になりたいという気持ちが根底にあるんだと思います」
岩田「1つのコワーキングのポテンシャルではカバーしきれない部分もあるので、コワーキング同士、まちやNPOなど、様々なつながりがあるといいな。そのつながりがあれば、多様なニーズに応えられると思うんです」
――これからのワーケーションについて
後藤「尾道はワーケーションで滞在する方も増えているので、ただ作業をする場を求めている人にも、一歩先の情報提供を心掛けています。それが関係人口、移住、仕事、今後も何かしらで尾道と関わるフックになればうれしいなと。一回きりじゃない厚い関係づくりを目指しています」
岩田「ワーケーションで各地を訪れていますが、訪問先の地域の環境、文化、人の営みに触れることで、自分の中の思いや考えに気づきを得られることが、大きな魅力だと思います」
その後は、各地域性を活かしたワーケーションにはどんなものがあるか?という話でひとしきり、話がもりあがった。神戸は夜景を見ながら、京都は縁側でワーケーションもいいんじゃない?とアイデア豊富な3人からは、ユニークな意見がとびだした。
――「運営者として、この先をどう考えているか?」
後藤「尾道の施設周辺ではネクタイをしめて働いている人は少ない。つまり、都市で必要とされるコワーキングの在り方ではフィットしないかもしれない。一方で、尾道の外から来た人には必要となることもある。それぞれが望むサービスをいかにうまく掛け合わせていくかが今後の課題となるのかなと思っています。一番は、目の前にいる人の機微な変化や要望に気づけること。そこには変わらず、取り組んでいきたいですね」
岩田「私自身もみなさんも、自分の弱みや自分の足りない部分を受け入れて自分らしさを活かして生きていくためにも、人とのつながりや協力が大切だと思っています。だからこそ、身近な人と助け合えるコミュニティ作りをしていきたい。私が考えるコワーキングは、人と<場と情報とチャンス>が有機的に結びつくところ。そのためにも場を超えたおせっかいをつづけていきたいですね」
▲オンラインの参加者に手を振る3人
今回のイベントは会場とオンラインのハイブリッド形式で行われたが、チャット上のコメントなどでとても盛り上がった。これらも、「この先は場や地域という枠にとらわれずにつながっていける」というゲストからの言葉を体現しているような時間になっていたのではないだろうか。
コロナウイルスによって変化したコワーキングスペースの在り方。けれど、この逆境をチャンスと捉え、これまでの固定概念にとらわれずに、視野を広げることで、コワーキングスペースの新たな可能性が開かれていくのかもしれない。