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〜12/15開催 第4回KOIN塾 レポート〜

WRITER : 井上 良⼦

 初回のみオンライン、第2回からは対⾯で開催されているKOIN 塾。全7回のうち折り返し地点にあたる第4回は、前回のテーマ「在り⽅が問われる時代の到来」について、参加者間で対話を深めるダイアログが⾏われました。段々と顔馴染みの⽅も増えたためか開始前からテーブルで⾃⼰紹介や近況話で盛り上がる中、いつものように講師の福冨さん(⼀般社団法⼈my turn理事)の穏やかな進⾏のもと対話の時間がスタートしました。

 前回の内容のポイントを振り返りながら、1ヶ⽉経って変化したことなどを踏まえ参加者から共有された感想では、⼀⼈ひとりが新しい知識を得たことで⾏動が変わったり、⾃分の内側の声や周囲と対話したりする機会が増えている様⼦が伺えました。

 

  • サーキュラーエコノミーに関⼼をもって調べ始めている。⾃分が⾃然環境の中で気持ちよく暮らしたいと思っていることにも気づき、コンポストやゴミ問題に取り組んでいる⼈を調べたり会社も訪問したりしている。
  • 就職先で上司との価値観の違いに直⾯した娘に、(前回知った話として)10年後には現在の若い世代の価値観に世代交代する(ためもっと働きやすくなる)ことを伝えたが、まだ⽬の前のことに精⼀杯で、受け⽌められないようだった。2030年と⾔わずにもっと世の中が早く(福冨さんが⾔われるような新しい価値観の⽅に)変わったらいいのにと思う。
  • 普段から⽇常⽣活の中でも⾃分はどう感じているのか、正解ではなく「問い」を⼤事にするようになった。次の段階としては、⾃分が感じたことを⾔葉にして伝えていきたい。

 

 とくに印象的だったのは、⾃分の感情や価値観といった⾃分のあり⽅(パーパス)と向き合い始めた参加者が、⾃分の家族にその想いを共有したり、今回の講座にご夫婦で参加され対話を深めたり、まずは⼀番⾝近な他者とコミュニケーションを深め始めている点でした。経済成⻑や効率重視だった社会が変わろうとするとき、制度や社会的な仕組みまで変わるには時間がかかる中で、⽇々の暮らしを営む⽣活者である私たち⼀⼈ひとりが周囲の⼈と「あり⽅」について対話し、⾏動を変えていくことから、新しいパラダイムシフトの転換が少しずつ起こっていく。急速に⼀気に変わるのではなく、それぞれが⾃分のパーパスを軸に他者とコミュニケーションを取りながら、秋の樹々の葉が少しずつ⾊を変えていくような、そんなグラデーションをもった広がり⽅のイメージが浮かびます。

  

 その後、参加者から質問があった「共創社会」について、福冨さんから解説がありました。

共創社会とは、「共に新たな価値を創造すること」を意味し、とくに企業がさまざまなステイクホルダーと協働してともに新たな価値を創造することと定義されています*
* 筆者注釈:企業経営における新たな概念としてアメリカで2004年に提唱された“Co-creating unique value with customers”(消費者とのユニークな価値の共創)[Prahalad 2004]をベースにしたもの

 2004 年の上記論⽂では、タイトルにもあるように、企業が存続していくには、伝統的な企業中⼼の価値競争から脱却し、「さまざまなニーズをもった消費者との間で相互交流すること」が必要となっているとし,消費者と⼀緒に価値を創造するという意味での共創が考えられていたようなのですが、近年では消費者のみならず「さまざまなステイクホルダー」との共創にまで拡張してきたと考えられています。

 福冨さんも「ホモサピエンスが⽣き残ってきたのも、⾒⽴てる⼒・例える⼒を含めた⼈とのコミュニケーションに基づく“共創”のおかげと⾔われています。これまでは国や企業が主語で社会を主導してきましたが、これからは社会を主語にして”私たち”で語り、私たちが”ありたい未来”をともに創っていく時代」と続けます。筆者が研究するオープン・イノベーションの分野でも、企業間の閉じたイノベーションから、⽣活者である市⺠も含む多様な主体が共創/協奏(オーケストレーション)するイノベーションが主流になりつつあることともリンクしています。

【参考】my turnのことも事例として取り上げた研究コラム
https://social-innovation.kyoto.jp/spread/4506

 講座の後半では、さらに参加者の多様な感想の共有が続きます。

 

  • ⼀⼈ひとりの認識の違い/差もきちんと捉えることが⼤事では。とくに⽇本では曖昧に終わらせることも多いので違いの中⾝も含めて認め合っていくことがコミュニケーションの⼒だと思う。
  • (my turn塾に参加してきた経験談として)「⾃分を知る」ために、何のしがらみもない⾃然の中に⼊ると、何が⾃然で何が不⾃然か、⾃分にとっては何が⼼地いいのかが分かってくる。時間はかかってもそうやって⾃分と向き合い、共感し合う仲間と⾏動を変え⼤きなムーブメントにしていきたい。
  • これから⾃分の事務所を⽴ち上げるタイミングで参加して、⾃分のやりたいことや想いを発信することの⼤切さを実感できて良かった。進んでいくと⽅向も変わっていくかもしれないが、変化も取り⼊れながら進んでいきたい。
  • 過去に個性や感情を押し殺して働いた経験があり、8年前ぐらいから「あり⽅」を学ぶ場に参加してきた。会社を優先して数字だけを追い求めるのではなく、⽬の前のお客様が潜在的にネックになっていることを取り外すような営業スタイルに変えたら、結果がついてきたことも。

 

 

 効率や経済的利益ばかりを優先させるあまり個⼈の感情を持ち込む余地のない組織社会では、たしかに⼈間としての善悪の判断が薄れ、⼈としては不⾃然な形で会社の不祥事が起きてしまったり、⼈の気持ちよりも会社の業績を優先させたり。予測が難しく、正解のないVUCAと呼ばれる時代、⼈としての感覚や⼈間だけではない⾃然も含めた、「⾃然かどうか」という基準は⼤事な価値基準になってきそうです。

 講座の最後に、今回初参加の学⽣さん(教育学を学ぶ院⽣。探求型の学習塾を運営)から「突き詰めて考えて初めて⾒えてくる景⾊があると実感している中で、⾃発的に学ぶ場に参加すること⾃体”意識⾼い“と⾔われてしまう⾵潮があります。どうやったらそのような層とも分断を⽣まずに巻き込んでいけるでしょうか」という質問が投げかけられました。

 それに対して福冨さんから共有されたのは、仲間とともに未来から逆算(バックキャスト)して楽しみながら在りたい姿を描くことの⼤切さ。聞けば、福冨さんや杉原さんとともに学んできたmy turnメンバーも初めから意識が⾼かったわけではなく(エシカルといった⾔葉も知らなかった⼦育て中のお⺟さんたち)、⾃分が楽しい、ワクワクすることを起点に想像/創造⼒を引き出すことで、その内発的なワクワクがドライブになって外にも意識が向き、新しいことを学んでいったと⾔います。

 次の社会を担う若い世代の問題意識とKOIN塾への参加という⾏動、そして幅広い年代の多様な参加者どうしでフラットに語り合う場であることに希望を感じながら、気つけばあっという間に終了の時刻。

 丁寧に対話を重ね合った、じんわりと内側から温まるような今回の講座。途中から参加者と講師という垣根がなくなり、混ざり合いながら感情や想いを共有していたこの時間も、この場にいた⼀⼈ひとりと⼀緒につくった共創の時間だと感じました。

 次回は年明けに「⾃分と⼈と地域の未来」を探求するKOIN塾。次回もどうぞお楽しみに!

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