〜2/16開催 第6回KOIN塾 開催レポート〜
いよいよ残すところあと2回となったKOIN塾は、前回から引き続く「自分と人と地域の未来」のテーマのもと、オンラインで開催されました。毎回新しい参加者の方が数名加わり、今回もフレッシュな気分で参加者同士のチェックインからスタート。前回までのKOIN塾での学びを受けて、実際に行動してみたことや気づきなどのシェアが始まります。
- 自分自身の税理士事務所を開設するところ。この業界に違和感やわだかまりも感じてきた中、夢を応援する形で必要な人に新しいサービスを届けたいと模索中。
- 前回のKOIN塾から1ヶ月の間、この春から開設予定の町家を改装したシェアハウス・スタジオの準備をしている。特に芸術関係の若い人が集まる場にできればと2月の初めから芸大の卒展巡りをしている最中。これまでの有意義な学びを実践に移していきたい。
- 建築設計の仕事をする中で、設計事務所が都市部に固まっていることや地域で求められることを事業として成り立たせる難しさを実感してきたが、KOIN塾でこれだけ多くの人が雛形のないことにチャレンジしようとしていることに勇気づけられた。
参加者の皆さんの実践も塾での学びを活かしながら着実に前進しています。一つ一つにコメントを返しながら、講師の福冨さん(一般社団法人my turn理事)が新しいキーワードを紹介していきます。まずは、「ローカルエンゲージメント」について。
前回の塾で、企業に対する従業員の思いや態度を表す「従業員エンゲージメント」のお話がありましたが、これからより大事になってくるのは、地域や地域に関わる人の課題を解決するために、企業やさまざまなステイクホルダーと対話・協働して、新たなビジネスを共創する「ローカルエンゲージメント」だと言います。
福冨さんは、そのポイントを3つに整理します。
- 地域での人と人との結びつき
- 地域の愛着(自然・文化・歴史など)
- 生活地での充足感
「生活地」とは、働く場所、遊ぶ場所、暮らす場所が重なっている地域を指し、住宅地、商業地、ビジネス地、業務地区などを包括する概念で、それらを分けることに反対する意味で表現された言葉とのこと。新型コロナウィルスの感染拡大を受け、都市への一極集中からローカルにシフトしていることもあり、福冨さんは「あらためてクローズアップされるはず」と説明します。
人とも地域ともつながりながら、その中で自分はどのような役割ができるのかを小さな単位でイメージし始めることがコツだそう。そして前回のキーワード「プロセスシェア」を活かし、どういうことをやってきたのかという過去のシェアだけでなく、これからどんな未来をつくりたいか、今どういう思いをもって活動しているか、その3つをシェアすることでエンゲージメントが変わってくるというのがポイントのようです。
たしかに、過去・現在・未来のセットで思いを伝えることで、話し手と聞き手の間で思いや願いの重なり合いが生まれ、共感が駆動力となり、ともに実現する一歩を踏み出すことにつながりそうです。
新しいキーワードの理解も深まったところで、参加者の皆さんはどのように受け止めたのか、これからまさに地域で自分を活かしていきたいと模索しているからこその対話が重ねられていきます。
- 前の仕事で10年前に「グローカル」という言葉に出会ったが、現在も同じような概念があると知り驚いている。自分の経験上、社会に目が向き始めたのは自分自身が安定したから。安定した基盤や時間的な余裕がないと、自由に動くためのクリエイティビティが高まらないのではないかと考えている。そのような余白を生み出すための変化を起こしていきたい。
- (その話を受けて)私自身、自分の基盤が何かわかるまで時間がかかった。自分を活かす軸は何か考え続け、少しずつ周りにプロセスシェアしながら行動したことで気づけた経験がある。ローカルエンゲージメントも今すぐできることではなく長いスパンでやっていく必要があると思う。構想中の「左京リビングラボ(暮らしの研究所)」をまずは身近な近所から始めていきたい。
- コミュニティという概念には、人とのつながりだけでなく、本来的には動物や自然も含まれていたはず。琵琶湖とその周辺の地域のサステナブルな暮らしや景観に関して学術的に研究したこともあるが、目に映る情報だけではない、人びとの暮らしが「営まれる状態」のことを指すのではないか。
参加者の皆さんそれぞれが、ご自分の活動や関わってきた地域に引きつけながら学びを受け止めて、今後の実践に活かしていこうとされていることが伝わってきます。
続いて、組織にいながら自分を活かすことの難しさについて、「自分のやりたいことができないまま定年を迎える人がほとんど。サラリーマンを辞めた人がいきなり地域で自分を活かしていくのは難しいのではないか」と疑問が投げかけられます。一方、実際に会社組織に所属しながらも、自分自身が将来やりたいことに向けた準備段階として自分で会社の外にコミュニティをつくって活動しているという方から、「社内でも個人の思いを解き放ち、形にしていくことを実験中」という興味深いお話がありました。
この方の場合、雇用されていながら「会社のアセットも使い(社外でのコミュニティ活動ができ)、なおかつ会社に拘束されることもない」恵まれた環境にいらっしゃるようでしたが、そのお話を伺って、一人の「自己の中の多様性”イントラダイバーシティ”」の考え方を筆者からもシェアさせてもらいました。会社で働く自分も、将来実現したいことを描きながら社外コミュニティで活動する自分も、本来は同じ一人の自分自身。会社とプライベートで自分を使い分けて生きるのではなく、自己の中の多様性を丸ごと活かす生き方・働き方が、イノベーションを生み出すためにも大事なのです。会社にとっても、会社の中にとどまらず外に出て活動するメンバーが外部での気づきやアイデアの種を会社の事業やプロジェクトにも活かす場合、これまでにない新しい価値を生み出すきっかけにもなります。
ここで最後に筆者が研究している「オープンイノベーション」について最近の新しい概念も含めて、ミニレクチャーを行いました。
これまでの社会では企業間の連携によるイノベーション創出に力点が置かれていたのに対し、企業も経済価値の追求だけでなく社会価値も同時に創出していく時代になり、社会的な共通課題も複雑化する中で多様なステークホルダーとの共創が求められるようになったこと、さらにはネットワーク型社会の中で個人/市民が主役となってイノベーションを生み出していく時代だとお伝えしました。「モノ中心」のビジネスから「コト中心」のビジネスへシフトしていると言われているように、リビングラボに代表される「コトの設計」を市民/生活者とともにつくっていく動きも増えてきています。
また、最近では、デジタル化の加速に伴い、ばらばらのサービスを効率化するのではなく、全体最適の視点でよいものをつくり上げていく必要性から、大企業がインテグレーター的存在としてオーガナイザーを務めながら1対多数でイノベーションを創出する「オープンイノベーション3.0」の出現も指摘されています。
時代とともに移り変わるオープンイノベーション。KOIN塾で起きつつあるように、筆者としては自分の身近な地域でそれぞれの市民/生活者が願う暮らしや生き方を軸に、多様な他者とつながり合って生み出す「オープンイノベーション2.0」の実践をまだまだ探究していきたいと感じています。
ついに次回、最終回を迎えるKOIN塾。最後までどうぞお楽しみに!