「OPEN INOVATION FORUM 2022 ~京都で育むイノベーションと知恵の物語~」3/3 開催レポート
PHOTO : 澤村 花霞
創立3年の節目を迎えた「京都知恵産業創造の森」。これまでの事業報告に加え、これから未来に向かって、どんな知恵の物語を紡いでいけるのか? 京都経済を担う若い起業家やメンターたちが共に集い、語らい、探求していく「OPEN INNOVATION FORUM 2022」(以下、知恵森フォーラム)を開催した。
主催者を代表して、京都知恵産業創造の森(以下、知恵森)山下徹朗専務理事の挨拶があった後、知恵森フォーラムが始まった。
知恵森フォーラムは二部制で行われ、第一部はオンリーワンの技術を持った4つの会社が、「どんな知恵の物語を紡いできたのか?」をテーマに講演を行った。
『産学公連携支援によるプロダクト開発』
まず初めに登壇されたのは、カトーテック株式会社 執行役員営業部 部長の河内敬さん。計測機器、なかでも人がものに触れたときの触感を客観的なデータに変換する「風合い試験機」など、創業以来、他社では真似できない技術を培ってきた。
1964年に、京都大学工学部で曲げ試験機の開発に携わったという河内さん。1970年代には熟練職人たちの協力で500種類以上の布の手触りを測定し、それらをデータ化することで、誰もがその感覚を共有・評価できる「風合い試験機 KES(KAWABATA EVALUATION SYSTEM)」を開発した。
河内さん「マスクの肌触りや化粧品の肌感覚を計測するなど、幅広い場面でKESが活用されています。また、自動車業界では触れたときに冷たく感じる『接触冷感』を計測し、車内のシートやハンドル等が夏場でも暑くならないような技術開発が行われています」。
産学公の連携にも積極的に取り組んでいる。
河内さん「龍谷大学でVRを研究している先生と一緒に取り組んでいるのは、サーマルグリル錯覚を利用したウエアラブル温冷感刺激デバイスの開発で、カーボン・ニュートラルにつながる新たな市場展開を目指しています。また、京都工芸繊維大学の先生と共同で、お客様がどのようにKESを使うのかというところまでトータルで考えたデザインブランドを構築しようと考えています」。
『補助金支援~販路開拓までのトータルサポート』
次に登壇されたのは、製品開発から販路開拓まで知恵森でサポートを受けられた株式会社Anamorphosis Networks 小澤行央さん。今年で創業から4年を迎えるベンチャー企業で、ソフトウェア中心設計に基づくAI技術や画像処理を用いた技術の開発、それに伴うハードウェア使用設計などを行っている。
「誰もが使えるAIを実現し、人を支えるパートナーとなる」をミッションとし、高度な専門知識がなくとも、誰もが製品や部品の品質検査ができるOpen PoCというお試しサービスを展開。
小澤さん「創業当初は良い技術を作れば売れると考えていたのですが、会社があった京都大学や支援いただいていた知恵森など、第三者に依存する形でしか販路開拓の手段がありませんでした。そこで、Open PoCを使用し、お客様自身で実証実験をしてもらうことで、私たちの技術の魅力を多くのお客様に知ってもらおうと考えたんです」。
販路開拓のアクセラレーターとして、令和2年度「スマート社会実装化促進事業補助金」を活用し、千葉県で開催された「第1回 AI・人工知能 EXPO」に出展。これを機にOpen PoCのダウンロード数は飛躍的に伸びたという。
小澤さん「当社が選ばれる3つの理由として、①Open PoCで無駄な営業コストを削減しているため、システムを導入するための費用が低くてすむこと、②お客様のニーズにあったシステムをオーダーメイドで導入できること、③最先端技術のAIや画像処理に関する技術を蓄積していることが挙げられます。今後はOpen PoCに加え、弊社オリジナルの検査機器のレンタルや、実証実験のHow To動画など、ニッチ市場の連続開拓を目指すオープン&クローズモデルを展開していきたいと考えています」。
『事業開発支援~KOIN ACCELERATOR PROGRAM』
3番目に登壇されたのは、KOIN ACCELERATOR PROGRAM(以下、アクセラ)に参加した、株式会社ウエダ本社の林菜摘さん。どうすれば人がいきいきと働くことができるのか? 人が生かされ、場所が活性化するのか? を考え、ICTツールなどを使った働きやすいオフィス空間づくりを展開している。
林さんは、ウエダ本社のutenaworksで、女性の働き方を中心に事業を展開。アクセラに参加し、女性が子育てと仕事のどちらかを選ばなくてはいけない現状に疑問を感じ、自身の事業アイデアとして「育み社員からつくる新しい働き方講座」を磨き上げた。
働きづらさを解消するための様々な「学び」を提供するほか、参加企業同士がセッション等を通して互いに良き理解者・相談者となり、同じ思いを共有できる仲間を社外に作ることができるのが魅力だ。
林さん「この講座で実現したかったことは、子育て社員だけが有利になるのではなく、参加することで会社の働き方全体が変わっていくような多様性の学び、考え方の改善でした」。
『スタートアップ企業への連携支援とサポート体制』
最後に登壇されたのは、emol株式会社の武川大輝さん。独自開発のアプリ“emol”を開発。認知行動療法に基づいたチャットボットとの会話を通して、人間ではなく、AIによるメンタルセルフケアの実現を目指している。
今から1年半前、東京から京都に本社を移転。首都圏でのスタートアップ事情にも詳しい。
武川さん「京都での取組として、私たちのサービスが公民連携・課題解決推進事業(KYOTO CITY OPEN LABO)に採択されたほか、JETROや京都リサーチパークが主催するHVC KYOTO 2021(Healthcare Venture Conference KYOTO)のピッチイベントにも参加することができました。一般ユーザー向けにヘルスケアサービスを展開していた東京時代と比べ、京都では専門領域に特化したことで、ディープテック(研究開発型)ベンチャーとして認知度を高めることができたと考えています」。
『トークセッションA』
4社が紡いできた知恵の物語を聞いたのち、休憩を挟み、いよいよ第二部のトークセッションへ。セッションAでは、ゲストスピーカーにカトーテック株式会社の河内さん、株式会社Anamorphosis Networksの小澤さん、知恵森で伴走支援に取り組んできた恩地亨さん、佐竹慶政さん、モデレーターに一般社団法人リリースの桜井肖典さんをお迎えし、和やかな雰囲気で行われた。
桜井さん「まずはカトーテックさんにお話を伺います。どのようなきっかけで知恵森を知られたのですか?」。
河内さん「恩地さんからご連絡いただき、会ってお話をしていく中で、とても前向きに私たちの思いを聞いてくださったので、他の方とは少し違うという印象を受けました」。
恩地さん「カトーテックさんのホームページを拝見して、風合い試験機などユニークな製品開発に魅力を感じました。私の方からお伺いして、産学公のご提案をさせていただいたんです」。
桜井さん「恩地さんが他の方とは少し違う、とは具体的にはどういう点で?」。
河内さん「デザイン力を生かしたものづくりがしたい!という私たちの思いを共有していただき、リストやパソコンを確認しながら、長い時間をかけてコラボレーション先を探してくれました。しかも無償で(笑)。私も何とかその期待に応えたいと思ったんです」。
恩地さん「河内さんは営業部長という肩書ですが、同時に経験豊富な技術者でもあるので、常に課題が明確に示され、その解決に向けてスムーズな伴走支援ができました。今回、デザイン力を強みとする大学との連携で、新たなものづくりのモデルケースとなることを期待しています」。
桜井さん「Anamorphosis Networksさんにもお話をお伺いします。佐竹さんに伴走してもらいながら初めて展示会に出展されたということですが、そもそもなぜ展示会に行き着いたのですか?」
佐竹さん「創業したばかりで営業活動に予算を割けず、販路開拓に苦労されているとお聞きしたので、補助金などを利用して多くの人が集まる展示会に出展してもらい、より広いお客様にサービスを認知してもらえないかと思ったんです」。
小澤さん「当社の顧問会計士からの紹介で、補助金活用の相談をさせていただいたのが出会いのきっかけでした。私たちのビジネスの特徴は、無償でオンラインサービスを提供しているということ。一方で、無償にはリスクもあります。認知度を高めて早くリターンにつなげていくために、佐竹さんと相談して展示会という手段に行き着きました」。
桜井さん「今、Anamorphosis Networksさんでは新たなチャレンジとして、オープン&クローズ戦略をされておられます。これについて、今後の展望をお聞かせください」。
小澤さん「私たちにとって、クローズの部分が新たなチャレンジとなります。本当はオリジナルで検査装置を開発し、それらを製品化していきたいのですが、当然ながら多大なコストと時間がかかります。そこで、既存の装置に当社の技術を加えることで、新たな付加価値を創出できないでしょうか。今後は、知恵森さんのサポートで、検査装置などを作っている会社とマッチングしていきたいと考えています」。
桜井さん「最後に、これから知恵森を訪ねてみたいと考えている皆さんにメッセージをお願いします」。
小澤さん「最初、知恵森さんは敷居が高いイメージだったのですが、実際に足を運んでみると、とてもフランクなスタッフばかりで、補助金以外のことも親身になって相談に乗ってもらいました。自身の弱みなども含めて、こんなことを考えている、こんなことで悩んでいると、気軽に相談してみることが大切だと思います」。
『トークセッションB』
続いて行われたセッションBでは、ゲストに株式会社ウエダ本社の林さん、emol株式会社の武川さん、知恵森の川口高司さん、宮﨑光生さん、モデレーターに一般社団法人リリースの風間美穂さんをお迎えした。
風間さん「まず林さんは、アクセラではどのような時間を過ごされましたか?」。
林さん「プログラムを通して、自分がなぜこの事業を成し遂げたいのか?ということを明確にした後、多彩なメンターや多種多様な経歴を持った仲間と一緒に、4か月間、アイデア実現に向けて切磋琢磨しました。第一線で活躍する経営者からアドバイスをいただく機会も多く、一社員の私からは見えない経営課題を知るきっかけとなりました」。
宮﨑さん「プログラムの参加者からは、働きづらさといったような働き方の『ペイン』を解決したい、という熱量をすごく感じました。アイデアの種を実現していくプロセスに立ち会えたのが、私にとってとても新鮮な経験でしたね」。
風間さん「林さん、アクセラへの参加をきっかけに見えてきた課題、また新たなチャレンジはありますか?」。
林さん「プログラムに取り組む中で、参加者同士が互いに交流できる場、企業の枠組みを超えた横のつながりが求められていると強く感じました。働き方は一人ひとりの問題ではありません。次のチャレンジとして、新しい働き方のモデルとなるような企業を京都から生み出していければと思います」。
宮﨑さん「社外で同じ『ペイン』を抱える人たちが繋がれる環境づくり。まさに、オープンイノベーションのネットワークを担うKOINがその役割を果たせればいいですね」。
風間さん「川口さんとemolさんの出会いのきっかけはSNSグループだったとのことですが?」。
川口さん「京都というのは、支援する側の横のつながりがとても強いという特徴があります。その方たちからSNSグループに誘われ、そこで武川さんを紹介していただいたんです」。
武川さん「京都に来て知恵森さんと出会い、様々な活動に取り組む中で、研究開発企業としての認知度を高めることができました。世の中を変える技術や商品をしっかりと育てていくことが大切です。当社においても、メンタルセルフケアを実施するアプリのクオリティを高めていくとともに、大学などの知恵を活用しながら、臨床研究など京都ならではのサービス提供につなげていきたいと考えています」。
川口さん「私が多くの人と繋がりを持たせていただいているのは、知恵森という看板の信頼力が大きいからだと思います。そのレバレッジをうまく効かせることで、私たちの強みを生かした支援が提供できればと思います。」。
風間さん「私も京都の外から来ているのですが、人との繋がりのもとで仕事をしています。信用経済といわれますが、経済が信用によって動いているということを日々感じますね。最後に武川さん、何か一言お願いします」。
武川さん「起業するなら知恵森へ!」。