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第2回KOIN塾 開催レポート

WRITER : 井上良子

「セルフコーチングプログラム」として始まった本年度のKOIN塾。だいぶ暑さが和らぎ少しだけ秋の気配を感じながら、第2KOIN塾が開催されました。今回のテーマは、「セルフアウェアネス(自分を知る)」。自分のことは自分が一番分かっているはずですが、それがなかなか難しくもある、なんとも複雑なテーマです。

 

「自分らしさ」は、いらない。人間らしく、生きよう

冒頭から逆説的なフレーズで、ハッとさせられる講義が始まりました。講師の福冨さん(my turn理事/ディレクター)は、「自分らしさを追求しすぎて逆にそれに捉われることで、余計に苦しくなる場合がある」と続けます。確かに自分の中だけで“自分らしさ”を一生懸命探しても、過去の自分に引きずられたり、“らしさ”が見つからないと変に焦ったりすることはありそうです。

むしろ、自分と日頃からよく関わる相手から「あなたらしさ」を指摘してもらうことの方が“自分らしさ”を発見できるというのです。

「自分らしさ」は不要だとしたら、自分を知る上で大事になってくるのは何なのでしょうか?それは、人間らしい生き方を探究するプロセスで「自分の感情を取り戻すこと」だと、福冨さん(以下トミーさん)は説明を続けます。

私たちの祖先と言われるホモ・サピエンスは、地球上に登場した20万年前の当時、他にも生存していたネアンデルタール人などの4種類の亜種が絶滅した中、唯一生き残った現生人類です。他の人類に比べて体も小さかったホモ・サピエンスがなぜ生き残れたのか、諸説ある中で通説として指摘されているのは、コミュニケーション能力と想像力に長けていたこと。弱いからこそ助け合って結束し、自然界にも精神的な価値を見出すような見立てる力を持っていたこと。「その二つの掛け合わせで、人間は“希望に生きる”ことができた」とトミーさん。

長引くコロナ禍や不安定な社会情勢により落ち込むことも多い現代だからこそ、変化を受け止めつつも、人間らしさという原点に立ち返って「希望に生きる」というメッセージは響きます。

 

問いをもち、自分の可能性を信じる

続いて「思考➡言葉➡行動」がサイクルになっている図を示しながら「何か抜けているのを感じませんか?」と投げかけられ、違和感がなさそうな参加者たち。サイクルに欠けているのが「感情」だという解説に、またもやハッとさせられます。

経済成長を追い求めていた時代には、職場で上司から「仕事に感情を持ち込むな」と言われ、効率や生産性が優先されてきました。社会に出る前の学校でも、自分の想いや考えよりも、周りと同じ正解を導くことが求められてきた日本社会。

「生涯をかけて、あなたは、何がしたいのですか?」「今の仕事を、なぜやっているのですか?楽しんでいますか?」そう問いかけられて、とくに何も思い浮かばない人が少なくないのではないでしょうか。

 トミーさんは、日々社会がめまぐるしく変わっていく中で自分のことは後回しになりがちで、それが習慣になってしまうと自分のことを考えなくなってしまうと警鐘を鳴らします。

情報が多すぎても同じことが起きやすく、周りの期待に応えることで自分を生きていると混同したり、周囲の声をあたかも自分の声のように捉えたり。

そうすると、自ずと自分の中から感情がなくなり、世界が狭くなってしまうと言います。

「問いをもち、自分に問いかけながら自分の本質に触れることは、いつからでもリセットできます」。ご自身もこれまでの人生での大きな危機(上場した就職先が6年後に倒産したこと、大病を患って1年半にわたって入退院を繰り返したこと)を乗り越えてきた経験からの言葉に勇気づけられます。

自信はもてなくても、自分の感情と向き合い自分に問いかけること。そして、外部環境がどう変化しようと自分の可能性を信じること。もう一度感情を捉え直すことで心と体、社会がwell-beingになっていく。

会場からは、これまでの人生を振り返って「周りに合わせているうちに感情がなくなっていた時期があった」という気づきや、「感情を大事にできる自然体の自分を大事にしたい」という声が上がりました。

 

「見当識」を応用して自分を客観視する

講義の後半で紹介されたのは、「見当識」という医療業界で使われているケア用語。現在の日時や自分がいる場所など、基本的な状況把握のために、認知症のテストで指標となっているもの。トミーさん独自の解釈で、働き方や生き方、自己認識に応用して次のように置き換えられるとのこと。

  1. 時間:活きた時間を使えているか?いまの過ごし方で未来に幸せを描けるか?
  2. 場所:自分の居場所、今の環境はどうか?社会の中で、自分のお役目はどこか?
  3. 関係性:誰を信頼し、関係性を構築していけば、望む世界が創れるのか?

これまでの社会では、「何をするか」にフォーカスされてきたのに対して、これからは「誰とするか」で大きく変わると言います。一歩目を誰とどう踏み出すか。自分を知って、小さな失敗を繰り返しながら一番しっくりくる一歩目を探すこと。時間、場所、関係性の切り口で自分に問いかけ、セルフチェックすることで、少しずつ望む生き方に向けて自分を活かす方向へ、踏み出すことができそうです。

 

 「社会の中の自分の役目」と問われると、多くの人は「母親としての役割」や「営業部長としての立場」など、外側から与えられた社会での部分的な役割につい目が向きがちです。そうではなく、いったんそのような肩書きを取り払ったとき、あるいは親である自分も、趣味を楽しむ自分も、職場での自分もすべて含めて統合された1人の人間として社会の中でどういう働きをしたいか、という目線で捉えることが大切なのではないでしょうか。筆者がイノベーション分野で注目している「イントラパーソナル・ダイバーシティ(自己内多様性*)」の考え方とも似ているかもしれません。

*多様な役割や経験を内在化することで、個人の中に培われる多様性のこと。組織よりも個人の中の多様性を高めることがイノベーション創出につながるという考え方。

自分はどのようなときに心が動くのか、本当はどう生きていきたいのか。トミーさんから「自分を知るワークシート」が宿題として配布され、講義は締めくくられました。在宅する時間も増えている今、普段自分が身を置いている場所だけにとらわれず、視野を広げ、他者と対話しながらも1人の人間としての内側の感情にじっくり向き合う時間をとっていきたいものです。

次回のKOIN塾では、ロールモデルゲストをお迎えして、対話を深めるダイアログが予定されています。次回もどうぞお楽しみに!

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