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第6回KOIN塾 開催レポート

WRITER : 井上 良⼦

6KOIN塾のテーマは、新年のタイミングにもふさわしい「セルフイノベーション(新しい自分になる)」。講師のトミーさんこと福冨さん(my turn理事/ディレクター)による講義のあと、参加者同士でダイアログが行われました。

冒頭で早速トミーさんから紹介されたのは、元旦の日経新聞の記事。止まらないグローバル化社会の中で世界をつなぐ「フェアネス(公正さ)」が日本でも大事になってくること、大手日本企業によるジョブ型採用への移行や15%もの賃上げ発表などの働き方に関連する大きな変化の流れがきていることについて、これまでの講義とも関連づけた説明がありました。そのような中ますます大事になってくるのは自分のあり方。社会の変化を踏まえながらも、自分自身を見つめ直し、これからの生き方を考えるのが今回のテーマだと言います。

「話すことも行動です。人に伝えることで反応を得て、再度整理することができます。前回のダイアログでも、相手に伝える中で自分の大事にしている軸も見えてきたと思います。」そして、これまでの講義でも繰り返し伝えられてきた「社会や他人を知り、自分自身を大切にしていく」上で、陥りやすい注意ポイントが提示されました。

  • 社会に適応するが、流されない
  • 他人を受け入れるが、流されない
  • 自分を大切にするが、とらわれない

コロナ禍で変化の大きい社会の現状の中で、一見ネガティブに感じられる課題でもそれをどう捉えるのか。異なる価値観をもつ他人と対話しながらも、自分軸をもつことの大切さをあらためて認識。「自分にとらわれない」とは、未来に向けた不安や過去にとらわれないということ。新しい自分になっていくためには、素直な心で今の自分の気持ちに向き合っていくことが大事だと解説を挟んだ上で、今回のキーワードである「自己信頼」という言葉が示されました。セルフイノベーションにとって要になるという「自己信頼」とは、どういうことなのでしょうか?

トミーさんによると、シンプルに言えば「自覚してアイデンティティを形成すること」だそうで、アイデンティティは1回形成されたら終わりではなく、社会や時代に応じても変わってくると説明を続けます。「真(ありのままの自分を知る)、善(倫理や自分の中での基準)、美(センス、感性)という考え方がありますが、そこで問われているのは自分の人間らしい感情を育んでいくことです。人と比べるのではなく、“今日までの自分から成長する”ことが大事になってきます。」

自分がどんなことにワクワクするのか、他方でどんなときに落ち込むかなど、自身の感情を知り、良い面も悪い面も含めてありのままを受け入れる自己受容だけでなく、それらを踏まえて「それが今の自分だ」と自分を信頼すること。そのことがアイデンティティを形成し、「どう生きていきたいか」「どんな仲間とどんな未来を創りたいか」といった、新しい自分からの自己認識が深まるという循環が生まれるという説明に納得感が高まっていきます。

「今日の自分から緩やかに自分で高めていく」というトミーさんの言葉が心に響きます。

「価値創造とは、新しいものをつくるということだけでなく、新しい自分に向かって自分の潜在能力を活かせたときに価値をつくることができることを意味しています。」ビジネスのシーンでもよく使う「価値創造」。たしかに何か新しいものを生み出そうとする自分自身がアップデートできないままだと、本来は新しいアウトプットも難しいはずです。とくにビジネス上では成果物であるモノや効率を優先しがちですが、モノはあくまでも手段に過ぎず、それを生み出す自分自身にフォーカスした考え方は目から鱗が落ちる気づきでした。

ここでトミーさんと活動する、講師の杉原さん(my turn代表理事)から、事例の紹介がありました。過去の回でも紹介された、ふぞろい真珠を使ったエシカル商品の「京飴」です。今回は、my turnにとって新しい挑戦となるコラボがどのようなプロセスで実現したのか、に焦点を当てた説明でした。

京飴をつくっている株式会社ナナコプラスさんから、昨年6月に「次の10年に向けた変化を生み出したい」と打診があったのがきっかけだそう。企画力や販売力もあるナナコプラスさんが、食品を扱ったことがなかったmy turnさんに求めていたのは「新しい視点とその多様性だった」と杉原さんは続けます。「well-beingな社会の実現」を掲げて多様なメンバーがそれぞれの得意を活かしてプロジェクトや商品を生み出しているmy turnには、子育て中の母親を含む「生活者の目線」があります。つくりたい社会は個人の意識と行動が変わっていかないと実現しないという思いから、知識としてではなく、身近な範囲でエシカルを体現していくことを大事にしていたからこそ、自然な流れで企画が実現したのではないかと。

そのような実現までのプロセスを伺うと、個人の集合体であるmy turnさんが自分たちのアイデンティティを自己信頼していたこと、今のことだけでなく実現したいことを思いとともに伝え、共鳴されたナナコプラスさんと本音で対話を重ねられたことが、今回のコラボにつながったのだと感じました。

従来のマーケティング発想からすると、ナナコプラスさんも正直なところ半信半疑だったという1810円という価格にもかかわらず、容器・パッケージなどの細かい仕様や商品の背景にあるストーリーの伝え方にもこだわった結果、最終的には1年で予想を上回る3500個の販売を達成したそう。購入する側も値段に価値を置き、コストパフォーマンスを求めてしまう傾向にある中、my turnさんが最優先するのは「エシカルパフォーマンス」だと言います。自然環境や人にやさしい素材をつかっているか、ものの裏側まで感じとれるような商品になっているか、売れ残って廃棄することのない販売計画になっているかなど、仮に価格が高くなってもエシカルパフォーマンスの良い商品を届けていきたいという、社会全体のwell-beingを目指すからこその優先事項だと伝わってきました。

最後にトミーさんから共有されたのは、「いちばん大事なポイントは“一人でやろうとしなくていい。むしろ一人ではできない”」ということでした。30年前の社会では、たとえば実績もないような小さい組織と組むことや、他業種のコラボレーションは難しかったところ、人としての個人レベルで思いが伝われば、パートナーシップで共創していけるということ。

その言葉に励まされたかのように、会場に前向きな空気感が漂いながら早くも終盤を迎え、最後は参加者同士グループでのダイアログで締められました。

環境や時代の変化を受けて自分はこれからどんな自分で生きていくか、どんなチャレンジをしていきたいか、いつもながら対話が盛り上がった後、とくに印象的だったのは、終了後に京飴を手にした杉原さんを多くの参加者さんが囲んで、交流タイムの終了時間ぎりぎりまで歓談が尽きなかった場面でした。

そこには、my turnさんのセルフイノベーションに触発された参加者の方々の、自分もこういうことがやってみたかった、ずっと前から気になっていたことに思い切ってチャレンジしてみたい!といった「今日の自分から成長させていく」向上心が溢れていました。

次回はついに、ロールモデルゲストをお迎えして開催されるKOIN塾の最終回。最後まで、どうぞお楽しみに!

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