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コワーキングフォーラム2023 in 京都〜コワーキングとは何なのか?コワーキングの在り方をアップデートする〜|10/15開催イベントレポート

2010年、兵庫県神戸市で日本最初のコワーキング「カフーツ」が誕生して以来、国内で加速度的に広がったコワーキングカルチャー。「仕事場を共有する」という機能的な側面のみならず、人々の働き方や仕事の在り方そのものを変え、オフィスというリアルな場に求められる価値にも大きな示唆を与え続けています。

近年では「コワーキング」の名が世に広く知られるようになり、場所や運営する人によって言葉の解釈も幅広くなってきました。そんな中、「そもそもコワーキングとは一体何なのか」という本質が見えづらくなっている問題も。

コワーキングフォーラムでは、コワーキングの“そもそも”の部分である本質と、広がりを見せるコワーキングの多様性に焦点を当て、これまでも多くの参加者とともに語り合い、学び合い、深め合ってきました。

 

コワーキングフォーラム関西2022 in京都 〜変化する働き方!コワーキングの本質とワーケーションのその先とは?〜|8/9開催イベントレポート

 

2023年も残すところあとわずかの10月。一般社団法人京都知恵産業創造の森主催で開かれた「コワーキングフォーラム2023年in京都」のテーマは、「コワーキングの在り方をアップデートする」。オープンイノベーションカフェ 「KOIN」に集まった全国のコワーキングの運営者や利用者とともに、根底にあるコワーキングの考え方を見つめ直しつつ、さらなる可能性を探りました。

はじまりとオープニングトーク

当日、円陣を組んだ運営スタッフたちの熱いかけ声とともにイベントはスタート。スタッフそれぞれがコワーキングの関係者であり、日々関わっている場で試行錯誤を繰り返している当事者です。この場に集い、良き場をつくりあげることはもちろん、互いに旧交を温める機会にもなっています。

フォーラムの全体司会、進行を務めたのは株式会社ツナグムのタナカユウヤさん。「今日はこれからメガネの登壇者が続々と出てきます」と、持ち前のユーモアでまだ硬さが残る会場を柔らかくほどきました。


タナカさん

「二人目のメガネです」「続いて三人目のメガネです」との挨拶とともに登壇したのは、コワーキングフォーラム2023in京都の主催である一般社団法人京都知恵産業創造の森の稲垣繁博さんと宮﨑光生さん。フォーラム開会にあたっての挨拶と、「KOIN」の紹介や、京都経済の発展と活性化に資する幅広い取り組みについて話されました。


稲垣さん


宮﨑さん

また、開催にあたってご協力いただいた株式会社Clewより、京都エリアをスムーズに移動できるシェアサイクルサービスPiPPA(ピッパ)をご紹介。参加者には、今回特別に無料回数券も配布していただきました。

続いてのアイスブレイクでは、座席が近い参加者同士で「この場に期待すること」や「あなたにとっての『コワーキング』とは?」といったテーマで交流。あたたまりつつある場で参加者同士の横糸が少しずつ紡がれていきます。

イベントの進行と並行し、会場後方ではリアルタイムで登壇者の話の内容を振り返ることができるグラフィックレコーディングも。参加者の学びの心強いサポートとなりました。

オープニングトークでは、日本で最初のコワーキング「カフーツ」を立ち上げた日本コワーキングの祖である伊藤富雄さんと、株式会社funky jump代表取締役で一般社団法人日本コワーキングスペース &コミュニティマネージャー協会代表理事の青木雄太さんが登壇。「コワーキングの現在地点とそれを支える者たち」と題し、日本全国だけではなく世界各地のコワーキングにも足を運び、視察を重ねてきたお二人から、コワーキングの”不易”と”流行”についてお話がありました。

「コワーキングというのは『ハコ』じゃないんです。一人でデスクに向かってPCと向き合い、ドリンクバーをゴクゴク飲んで帰る。それはただのワーキングスペースでしかない。コワーキングの本質とは『人と人をつなぐ仕組み』なんです」

冒頭、コワーキングの”不変”について熱く語ったのは伊藤さん。Accessibility(つながり)、Openness (シェア)、Collaboration (コラボ)、Community (コミュニティ)、Sustainability (継続性)といったコワーキングの5大価値について言及し、地域のあらゆる課題や個人の果たしたい目的を共有し、それらを解決・達成するためのコミュニティであることを改めて強く訴えました。


伊藤さん

国内のみならず、自らの足で世界を回り現地のコワーキングを肌身で感じてきた青木さんからは、今注目しているコワーキングについてご紹介がありました。トレンドとして、既存ビジネスとコワーキングの融合が良い化学反応を起こしている事例が増えてきているとのこと。

「例えば輸送・運送業とコワーキング。利用者目線で見れば、有形商品を扱うビジネスの場合、その場で即発送ができる利点があります。一方で、事業者側にとっても新たな顧客獲得・開拓のチャネルになります」

また、これまでのフォーラムでも語ってきた自身のテーマである「コミュニティマネージャーの給料をどうやって上げていくか」についても必要条件を提示しました。

「日本のコワーキングは世界と比べてハコの敷地面積が狭いんです。コミュニティマネージャーが年収1,500万円を超えようと思うとそれでは足りない。海外では、利用している個人・法人のビジネスを支援し、スケールして人員が増えたタイミングでさらなる利用者を獲得する。そうして顧客を増やし、LTV(顧客生産価値)を上げていくケースが多いです。このモデルを実現するには、肌感ですが2,000平米以上のハコが必要最低条件になります。国内にこれだけの規模のコワーキングはなかなか無いのと、出資するデベロッパーやビルオーナーも少ないのが現状です」


青木さん

フォーラムでは壇上でよく見るお馴染みのお二人ですが、現在も最前線で活躍する方々ということもあり、お話の内容は年々進(深)化し続けています。ブレない本質である”不易”と最新トレンドの”流行”。コワーキングの現在地点を明らかにするための大事な要素が語られ、参加者は真剣な眼差しで話を聞き、手元のペンを走らせていました。



トークセッション①「京都内外におけるコワーキングの最新事情」

続いては「京都内外におけるコワーキングの最新事情」をテーマとしたセッション①。モデレーターはオープニングトークから引き続いての登壇となる伊藤さん。ゲストスピーカーは、SIGHTS KYOTO/株式会社ニシザワステイ代表取締役の西澤徹生さん、OFFICE CAMPUS/TSUGINI代表の古家良和さん、そして先ほどと肩書きを変えての登場となるBIRTH LABコミュニティディレクターの青木雄太さんの3名が登壇しました。


西澤さん

最初にマイクを握ったのは、地元京都の魅力を発信する観光複合施設「SIGHTS KYOTO」の西澤さん。「地元の人と旅行者をつなぎたい」と話し、当施設を「地元住民と観光客、京都の事業者をつなぐことで京都を持続可能な観光地にしていくための拠点」と位置付けます。オペレーションの省人化が進む業界内でありながら、「うちは人”推し”です」と強調するほど人にこだわっており、コワーキングだけでなくBARや観光案内所の機能を併せ持つ場で人を核とした運営スタイルを貫いています。


古家さん

続いてバトンが回ったのは、兵庫県三田市で古民家コワーキングスペース「OFFICE CAMPUS」を運営する古家さん。何より場の居心地の良さを重視し、毎日6~10名くらいの「ちょうど良い人数」でコワーキングをされているとのこと。街自体が強力なネットワークやコミュニティ機能を持っているため、OFFICE CAMPUSではあえて利用者と利害関係をつくらず、おばあちゃんの家のような癒しの場所としてのコワーキング運営を心がけていると話しました。

トリを務めたのはオープニングトークでもマイクを握った青木さん。株式会社funky jump 代表取締役や一般社団法人日本コワーキングスペース&コミュニティマネージャー協会代表理事の他にも、2019年に東京の麻布十番に誕生した「BIRTH LAB」のコミュニティディレクターとしての顔も持っています。

「BIRTHには世界各地を回って見つけてきた『これ良いな!』と思うものを詰め込みました」と話す青木さん。「コミュニティマネージャーに利用者からの相談がどれだけ寄せられたか、ディレクターはその相談をどれだけ解決できたかを定量化して測っています」と、可視化しにくいコミュニティの価値を定量的に測る仕組みについても紹介しました。

それぞれの発表後、モデレーターの伊藤さんより「みなさんは今何に困っていますか?」と質問がありました。西澤さんからはコミュニティマネージャーの育成についての課題があがり、「正規のコミュニティマネージャーとアルバイトスタッフの力量の差をどうするか」で悩んでいると答えました。青木さんは「コミュニティマネージャーの力量が上がっても、ハコのビジネスである以上給料の天井があり、そこをどう上げていくかを考えている」とコメント。

他にも、居心地の良い場を目指している古家さんからは「場にそぐわない変な人がきた時にどう対応するかに困っている」との話があり、BARの運営も行っている西澤さんから「コミュニティのブランドを守るためにもある程度の排他性は必要」との意見が挙げられました。

場によって課題は異なれど、お互いの知見を交換し合いながら解決策を模索する様子はまさにコワーキング。最前線で活躍する3人ならではのトークセッションとなりました。

トークセッション②「新しい時代の仕事のつくり方」

登壇者がコワーキング運営者だけにとどまらないのがこのフォーラムの醍醐味。トークセッション②では、「新しい時代の仕事のつくり方」と題し、普段コワーキングを利用しているフリーランスの方々が登壇されました。


花田さん

進行を務めたのは、合同会社アットワールド代表でフォトグラファー、ディレクターとして活躍されている花田和奈さん。「どうやって仕事を得ているの?」「お仕事環境はどんな感じ?」のように、フリーランスならではの疑問やお悩みについて、登壇したフリーランスのお二方とともにトークセッションを盛り上げました。


yuukaさん

最初にお話しされたのは、コンテンツディレクター/取材・SEOライターのyuukaさん。韓国グルメの紹介やトラベルライティングが強みで、ご自身の興味関心のあるお仕事や、移動の多いお仕事に対応できる働き方としてフリーランスを選択したそうです。

独立当初は仕事の当ても人脈もなく、大変な状況だったと話すyuukaさん。ポートフォリオを持ってひたすら飛び込み営業をし、少しずつお仕事を開拓してきたそうで、花田さんはyuukaさんのことを「ド根性フリーランス」と紹介しました。


FUKUDAさん

続いてお話しされたのは、雑誌や冊子の紙面デザインを行うエディトリアルデザイナーでありイラストレーターでもあるFUKUDA AOIさん。「フリーランスになりたい!」と独立したわけではなく、自身の働き方や体調を見つめ直した結果として独立の選択をしたと話します。アドレスホッパーとして全国各地を移動し、お仕事の環境を変えながら働かれています。

トークセッションでは、それぞれが働くにあたって重視する環境について話されました。取材で飛び回る以外の時間をコワーキングで過ごしているyuukaさんは、「長時間作業しても疲れない環境が大事。肩が凝りにくかったり腰が痛くならなかったりする快適な椅子があると嬉しいです」と話しました。

AOIさんは主にカフェでお仕事をされており、コワーキング利用については「友達や知り合いがいるから会いにいくという感じ」とのこと。花田さんは「仕事柄オンラインでのミーティングが多く、Wi-Fiが強いかどうかはとても大事」と語ります。

冒頭で伊藤さんが話されていたコワーキングの本質についても触れ、「集中して作業するために利用することが多く、交流についてはあまり考えていなかった。今後はそうした使い方もしてみたい」と、コワーキングの可能性が広がった様子でした。

コワーキング運営者にとって、フリーランスの方々は大事なユーザーであるとともに、場のカルチャーを形作っていく仲間でもあります。自分たちのブランドは大切にしつつも、こうしたユーザーニーズに丁寧に耳を傾けていく必要があると再認識した時間になりました。

トークセッション③「集まる!ことの価値とその場の活用の仕方」

トークセッション最後のテーマは「集まる!ことの価値とその場の活用の仕方」。モデレーターは一般社団法人日本ワーケーション協会代表理事の入江真太郎さんが務め、武庫川女子大学経営学部・実践学習センターまなびコーディネーターの時任啓佑さんと、家を持たずに様々な場所で様々な仕事をする「移働家」でありライター山﨑謙さんの2名が登壇しました。


入江さん

冒頭、テーマ設定の意図について入江さんからご説明がありました。コロナ禍を経て、オンライン空間でコミュニケーションを取ることが当たり前のように受け入れられつつある昨今、「集まる」の形も大きく変わってきています。その価値をどのように捉えているのかと、登壇者の2人に問いかけました。


時任さん

「コロナ禍で心が折れそうになった」と、最初に口火を切ったのは時任さん。これまで人を集め、コトを起こすといったお仕事をしてきた時任さんは、誰よりも「集まる」ことの価値を感じていました。だからこそ、コロナ禍で半年間も大学に学生が集まれなかった日々はとても辛かったと話します。

「当時は学生たちの集まる場が無かった。同級生同士の横のつながりが全くできなかったんです。オンラインで代替しようとさまざまな取り組みもしましたが、設定された場ではリアルと違って『偶然の出会い』が生まれない。化学反応を起こしづらいんです」と、集まれなかった過去の経験から集まる価値について話しました。


山﨑さん

時任さんの話を受け、「私もオンラインは苦手です」と山﨑さんも同意を示します。移働家としてさまざまな場所を転々とし、多数のイベントを仕掛けてきた山﨑さんは、オンラインではなかなか熱量が伝わりにくいと話しました。

「オンラインだとタイムラグが生じるので、コミュニケーションにおいて大事なリズム感や間といったものがどうしてもズレちゃうんですよね。これではそれぞれの熱量がうまく伝わらない」と、オンラインコミュニケーションの難しさについて言及。加えて、集まることの価値についてはあえて考えないとの独自の見解を紹介しました。

「僕が場をつくる際は、あまり価値を考えていません。この人からチャンスをもらおうとか、人脈をつくってやろうとか、打算的な考えで場をつくりたくないんです」。

一方で、コワーキングの場が持つ魅力について時任さんは「世界が広がる場だ」と話します。

「女子大って話題が硬直化しやすいんです。学内で同世代だけで話すと、推しや美容・コスメがどうという話題が中心になる。インターンシップで複数のコワーキングに学生がお世話になっていますが、他者や社会との接点が増え、彼女たちの視野が広がっているのを感じます。実際に学生から『めっちゃ世界が広がった』との声を聞く機会も多いです。人生って誰と出会って、どんな刺激を受けて、自分のアクションに落とし込むか次第だと思ってるので、そういう意味でコワーキングを教育のフィールドにもさせてもらうことは理想的だなと感じます」

お二人の答えを聞いた入江さんは満足そうにうなずきながら、「ここは答えを出すパートではなくて、会場のみなさんと一緒に考えるきっかけをつくりたかった。それぞれが集まる価値について考え、ディスカッションしていってほしい」と締めくくりました。

関西から全国へ、ローカルはよりローカルへ。アップデートするコワーキング。

3部にわたるトークセッションを終え、プログラムはダイアログタイムへ。トークセッションで与えられたたくさんの情報と視点をもとに、会場に集まった参加者それぞれでアップデートしたいことについて意見交流が行われました。

あるグループでは、「コワーキングでどのようなイベントをするべきか」とのテーマについて議論が交わされ、「運営者側のエゴではなく、利用者が本当に求めているものを一緒につくりあげていくのが良いんじゃないか」と答えを出していました。

また、他のグループでは「どうやってつながりをつくれば良いのか」との悩み相談に対し、グループメンバーから「自分の仕事を黙々とやっているだけではつながりは生まれない。交流の場が無ければ自身でつくっていけばいいのでは」とアドバイスが。一人ひとりが課題について真剣に考え、真摯に向き合って答える姿に、相談者も熱心にメモを取っていました。

交流の場は盛り上がり、熱量冷めやらぬままあっという間に閉会の時間に。毎年参加している登壇者たちは、会を振り返って「フォーラムの笑いあり、学びありの硬すぎない感じが大好き。ずっとこの雰囲気を大事にしていきたい」、「みんながコワーキングで実践してきたことや学んできたこと、気づきなどが年を重ねるごとにどんどん磨かれてきていると感じている」と述べました。

イベント後のアンケートでは、「たくさんのコワーキング関係者と交流できた」とのコメントが多く寄せられた交流の機会が好評だったことに加え、「コミュニティマネージャーの育成や給料の上げ方についてとても勉強になった」との声が多く聞かれました。

ビジネスとして多様なプレイヤーが参入し、市場としても拡大しつつあるコワーキング業界。今後はソフト面の中核を担う人材の育成や、ビジネスとしての継続・成長・拡大がテーマになってきそうです。

今回集まったコワーキングは三者三様で、規模拡大を目指すコワーキングもあれば、地域連携やローカルコミュニティに特化するコワーキングも。それぞれがサービス・カルチャーといった個性を磨き上げながら、唯一無二のブランドを持ったコワーキングを目指して歩み始めています。

来年また一年の年を重ね、それぞれがコワーキングの本質に立脚しながらも、新たな個性を持ったコワーキングとしてこの場で再会できることを、心から楽しみにしています。

ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました!

 

執筆・撮影:中野広夢
編集:北川由依

 

11月30日追記
ゲストの山﨑さんが、「コワーキングフォーラム2023から3日間の京都」と題して、noteを公開されました。併せてご覧いただければ幸いです。

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