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KOIN塾 自分を成長させるコーチングパートナーの作り方 開催レポート(第4回)

WRITER : 井上 良⼦

4KOIN塾のテーマは「プロセスシェア(良好関係の作り方)」。今回はじっくり講師の福冨さん(my turn理事、以下トミーさん)による講義を聴くことから始まりました。

8年前ぐらいにトミーさんが生み出した造語だというこの言葉は、ビジネス上のシーンにおけるプレゼンテーションだけでなく、日常的に自己紹介するときにも当てはまる考え方だと言います。プロセスを共有(シェア)することで良好な関係を作るとは、どういうことでしょうか?

一般的にプロセスというと、通常は過去から現在に至るまでの過程をイメージしますが、ここでのポイントは「未来のプロセス=共創のプロセス」まで含む概念だという点です。

誰かと一緒に仕事をしたいとき、関係性を作っていく第一歩として普段私たちは無意識に共通項を探っています。名刺を交換しながら自己紹介する場合、よくあるのは過去に自分が何をしてきたか、という実績を一方的に語ること。残念ながら「自分のやってきたこと、今やっていることを伝えるだけでは一緒に先に進みにくい。」とトミーさんは言います。未来に向けた自分の思いも伝えられるかが鍵になるようです。どんな未来を描いていて今どう行動しているのか、こんなことを思っているからこういうことをしてきた、というように「過去と未来をセットで伝えること」が相手との間で共感を生み、距離が縮まる方法だと。

たしかに実績や今取り組んでいることなど行動(doing)だけ聞くよりも、その背景にどんな想いがあり、どんな未来に向けて取り組んでいるのかまで聞けた方がその人の人間性や価値観(being)が分かり、自分自身の思いとの重なり合いが生まれやすいと言えます。

仕事やプライベートのシーンで、この人と同じ未来をつくりたい、一緒に過ごしたいと想像できるかどうかは関係性を作っていく上で一番重要で、そのためには過去だけでなく未来に向けた思いも含めて「プロセスシェア」すること。

思い返せば私自身がトミーさんとmy turnの代表でコミュニティデザイナーの杉原さんと2年前に出会ったときも、well-beingな社会の実現に向けて活動していること、多様な視点を融合させ、ライフとワークを分けずに新しい希望を創っていくことなど、活動の先の未来像に共感し、well-beingを軸にコミュニティやプロジェクトに伴走しながらその意味を発信していくリサーチャーになりたいと思っていた私の願いと掛け合わせることに新しい可能性を感じたことを思い出しました。

トミーさんはこれまで企業向けコンサルティングにおいても「プロセスシェア」の重要性を実感してきたそうです。生産性や効率ばかりを優先し、メンバー間や上司と部下との間でも余計なことを話さなくなってしまうのが組織での日常です。トミーさんが企業から相談を受ける場合の8割は人間関係が課題になっているそうで、長年一緒にいる者同士であってもお互いのことをよく知らなかったり、本音で話せていなかったりすることに問題の本質があるとのこと。さらに、会社等の組織では働いている人の気持ちよりも会社の論理や上司の判断基準に従うことが一般的です。「組織でも大事なのは自分の感情。雑談も含めて自分のことを言いやすい雰囲気や風土をつくっていくこと」だとトミーさんは続けます。

実は私自身が研究と実践で関わる組織におけるイノベーションの文脈でも、メンバー同士が安心して気持ちを伝え、心を開いて感情を出せることで社内の人間関係がよくなり、よいチームからはよい成果が生まれることも研究によって明らかにされています。

そのような「プロセスシェア」においては、上司と部下など世代間での認識ギャップがある場合も、お互いの考え方や思いを否定せずに受け止め、尊重し合えるかどうかが大事です。トミーさんはさらに、それぞれのプロセスが共有されることで思いをすり合わせ、同じ道を歩んでいけるだけでなく、お互いにとって第三の答えが出ることもあると強調します。共通点だけをベースにせず、違いを踏まえて相互の経験や未来に向けた思いを掛け合わせると、思ってもいなかった新しい可能性が生まれることはイノベーション創出にとっても重要だと感じました。

そしてそのことは、モノやコト、サービスなどを生み出す際に社内だけを気にして上司からOKをもらうためだけに仕事をするのか、外部とも接点をもちながらお客さんの声も伝えて共創できるかの違いにも表れるという説明に納得感が高まりました。社内での評価や成果だけを気にしているときは、どんな社会を創っていきたいのか、どんな未来にしていきたいのか、という視点が抜けがちです。お客さんも共創のパートナーとして捉え、未来に向けたプロセスもシェアをしながら一緒に新しい価値をつくっていく。そんなオープンな関係性で共創する「一方通行ではないオープンイノベーション」がこれからの社会では求められていることが伝わってきました。

ここで会場では、二人一組でペアになり、プロセスシェアを実践してみるダイアログの時間が設けられました。過去(これまで)のプロセスと未来(これから)のプロセスを共有し、やりたいことや自分の思いが明確な人も、そうでない人も、相手と対話を重ねることで初めて見えてくる可能性や新たな気づき。

現在はSNSや動画などの手段で個人が気軽に発信できる時代です。未来の社会を描き実現する上で仲間との共創が大事になってきますが、トミーさんからそのアプローチとして4つ紹介されました。

〈これからの働き方の選択肢〉
 ① 声をかけてもらえるか
 ② 自ら仕掛けていくか
 ③ 行動を起こさないのか(①・②どちらでもない)
 ④ 自ら仕掛けて、声をかけてもらい、巻き込んでいく

 

どのアプローチが正解ということではなく、いまどの状態なのか本当はどうしていきたいのか自問しながら自分のやり方を探していくことが大事だと言います。トミーさんの場合は、仕事の枠を超えた活動としてワクワクしながら、暮らしの文化をつくるために④の姿勢で多様な関係性を生み出してやりたいことを実現させているそう。

実際にトミーさんは今年の8月に大津という地域の生態系を創る「ローカルキュレーション」を掲げて新会社を設立されていますが、価値観が近いmy turnとは異なり、違う価値観をもったメンバーとともに、コミュニティデザインを通して様々な事業を社会に実装していくことに挑戦しています。価値観が違ったとしても、未来のビジョンが同じであれば多様なメンバーの総和によって実現していけるという、まさにこのこともプロセスシェアです。

会社の中でも外でもプロセスシェアにより自ら発信することで潜在していた能力を発揮し、思いが共振し合った仲間と共創しながら今日明日を変えていく。講義とダイアログの時間が終わってもワイワイと参加者の交流が盛り上がっている様子を見ながら、特別な機会がなくても今日この場からすでに共創が始まっていることを実感した第4KOIN塾でした。

今回のテーマである「プロセスシェア」やトミーさんの新しい取り組みは、こちらの記事でもご覧いただけます。

 

関係性から生み出す共創の在り方 “プロセスシェア”
https://social-innovation.kyoto.jp/spread/4802

越境コミュニティが生み出す新たな可能性
https://social-innovation.kyoto.jp/spread/5788

 

次回もどうぞお楽しみに!

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