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KOIN塾 自分を成長させるコーチングパートナーの作り方 開催レポート(第7回)

WRITER : 井上 良⼦

ついに最終回を迎えたKOIN塾。第3回にもゲストとしてお越しいただいたmy turn代表理事の杉原惠さんより、2020年に設立したmy turnがどのように生態系を広げてきたか、さらに今後に向けて実践していくことを含めて「プロセスシェア」していただきました。
my turnが活動の軸にしている3つの切り口のうち、各地での創発的なリビングラボに発展している②まちづくりを中心に、どのようなプロセスで仲間やプロジェクトが生まれていったのか、具体的なエピソードを交えたお話がありました。

 

①人材育成|伴走しながらともに成長する仲間づくり

②まちづくり|心地よい暮らしを表現するリビングラボ

③ものづくり|商品開発やブランディング

 

まちづくりと聞くと、何か行政の決めた計画や施策に基づいて市民が活動するイメージをもつ方も多いと思いますが、my turnでは、①の人材育成の過程とも重ねながら、メンバーである仲間が描く未来を落とし込む場として始まります。
たとえば、西京区を舞台に2年間実施した「西京みらまち塾」では、行政の専門職であるまちづくりアドバイザーとも協働しながら、参加者一人ひとりがどのような暮らしを大事にしたいかを共有し合った上で、地域での活動プロジェクトを生み出していきました。実は著者も「みらまち塾」に何度かオブザーバー参加したことがあるのですが、行政側から何か課題が提示されるわけでもなく、達成すべき目標の縛りもなく、区民である参加者の想いを起点に自分を活かして地域も元気になるプロジェクトが実践されていました。

*「みらまちスタートアップ塾」は、行政と市民が協働しながら市民がやりたい活動を支援する「未来の西京まち結び~みらまち結び~」事業の一環として、「西京区で自分を活かして生きる」ことをテーマに開催された全5回の塾です。https://www.city.kyoto.lg.jp/nisikyo/page/0000281322.html

これまでのKOIN塾で学んできた「セルフリライアンス(自分を知り、自分の可能性を信じる自己信頼)」をベースに参加者同士で対話(自分の気持ちを語り合うこと)を積み重ねた上で、自分が本当に望んでいることを深掘り「プロセスシェア」することで、関係性から共創が生まれる様子を目の当たりにしました。「みらまち塾」が2年目に入った2021年に始まったKOIN塾でも、境目のない関係性づくりと同じように、仲間づくりとまちづくりの境目もないやり方で、参加者の想いと実践を後押ししてきたと言います。

さらに、my turnの活動が広がっていく中で地域を越えて次々と創発されたのが、各地での「リビングラボ」です。リビングラボ(Living Lab)とは、まちの主役である住民が主体となって、暮らしを豊かにするためのサービスなどを共創的に生み出す活動のことを指しますが、my turnメンバーが拠点にしている北区や南区、移住先の愛知県安城市の各地で、そこに実際に住んでいるからこその視点と役割を増やしながら「自分を活かした生態系」を創り出していっているとのこと。第5回のKOIN塾で紹介されたKita Living Labのケースでいうと、立ち上げた大塚さんが長年思い描いていた理想の暮らしや生き方を模索する中で、だんだん仲間やパートナーも増え、活動の幅と同時に地域全体でのまちづくりが広がっているように、メンバーの生活者としての視点と思いから地域単位で場が立ち上がり、関わる人たちの関わりしろが広がることで、my turnが掲げる大きなvision「エシカルタウン京都」の実現にも近づいていることが感じられます。

杉原さんの「大事なのは“正解がない”こと」という言葉が印象的でした。自分の想いやvisionを起点に仲間と共創していく過程では、やり方や活動に同じ型があるわけでもなく、「こうしなければ」といった制限もありません。その分もちろん“生みの苦しみ”が伴うこともあると思います。けれど、正解がないということは、新しい可能性しかないということでもあります。自分と仲間、そして新しい可能性を信じて地域の未来をともに切り開いていくリビングラボは、それぞれの人が思い描いた分だけ豊かさのカタチが生み出されます。

そして、その過程で関わる人同士には、所属や立場などの垣根はなく、人として「共感し合って進める」からこそ、多くの人が関わっていてもスピード感があるという話も示唆的でした。リビングラボメンバーの独りよがりな想いではなく、他者にとっても地域にとっても喜ばれるカタチを「住民同士」として共感し合って進める。所属や立場は、それぞれの人を彩る強みや個性に過ぎなくて、その「横並びの個性」が活かされ合うことが一番のポイントではないか、と感じました。

そんなリビングラボの今後についても、ワクワクする共有がありました。

2025年に「エシカルタウン京都」の実現を目指すmy turn は、来年に向けて4月には各地のリビングラボチームが主体となってイベントを開催しながら、多様な人が混じり合う場をつくり、リビングラボとは何かを言語化していくプロセスシェアしていくそうです。また、京都市内に加えて、地域を越えてコミュニティ同士がつながる「越境コミュニティ」も動き始めています。地域を越えたイベントなどはこれまでも単発ではつくってきたそうですが、今後は活動の「幅を広げて見える化」していくとのこと。そして、コミュニティ同士の単位だけではなく、違うコミュニティのメンバー同士で組んで共創することで、「応援し合える関係づくり」にも取り組むことを考えているそう。単発でのつながりや、背景や想いを共有し合わない単なるマッチングではなく、それぞれのコミュニティがもつ価値を交換し合う関係性が長続きする鍵だという、トミーさんこと福冨さん(my turn理事、株式会社ホモ・サピエンス取締役)からの補足によって、越境コミュニティの理解が深まっていきました。

このようなプロセスで自然に活動の範囲や幅、関わる人たちとの共感でつながる生態系を広げてきた杉原さんから最後に共有されたのは、大阪の企業の中に定期的に常駐する形で「コミュニティマネージャー」を育成するプロジェクトについて。地域ではなく、組織の中で担う新しい役割は、杉原さんに大きなチャレンジをもたらしたと言います。オフィスの環境面だけでなく働く人の変革も目指したい経営層と、組織をコミュニティと捉えること自体にハードルがある現場とのギャップは簡単には埋められず、視座の違い等からも信頼関係や心理的安全性を築くのは容易ではなく、「言語や大事にするものが一緒じゃないと、コミュニティ形成は難しい」と感じたそう。

自分の思いや実現したいことベースで活動しやすい地域というフィールドに比べると、組織としての目標が優先される企業では従来から管理型のマネジメントが主流になってきました。そのため、自分の役割や業務内容が決まっている企業の中で、経営層が目指したい変革に向けたvisionも十分に共有されていない場合、「コミュニティマネージャー」という新しい制度だけ作っても社員のマインドが主体的になれないのは当然かもしれません。

組織の規模が大きくなるほど薄れてしまうコミュニティ意識や社員の内発性を引き出し、共創的なプロセスにしていくには、制度より先にマインドセットの変容が不可欠だということ。その上で同じ方向を見て制度や仕組みを活用しながら新しい企業文化を耕していく必要があるという、近年の様々な働き方改革の問題にも通じる示唆的なお話でした。

 杉原さんが「自分を変えたい」とコーチングパートナーのトミーさんに相談したところから立ち上がったmy turnが、集まったメンバーの想いの数だけプロジェクトやリビングラボとなり、今では地域を越えた越境コミュニティが生まれるまでの広がりをもつに至った3年間の軌跡は、これからも出会い続ける多くの人との共創によって続いていく。

そんな可能性に溢れたストーリーに背中を押されたKOIN塾の参加メンバーから、最後はコメントや質問が飛び交い、最終回は締め括られました。

Aさん(質問)

・行政の方と一緒に仕事をしていくまでの経緯はどのような流れなのでしょうか?

→(杉原さん)自分たちのスタンスを活動当初から対外的に発信していたのと、日常的にも「誰に伝えるか」や「伝えるタイミング」を意識していました。その方が必要な人に伝えてくれて仕事につながっていくこともありました。また、こちらから動くだけでなく、自分の立ち位置やvisionを発信し、相手から見つけてもらえるようなブランディングが大事です。

 

Bさん(質問)

・以前KOIN塾の中で、営業活動はしないというお話がありましたが、相手から見つけてもらう場合と比べて行き着く先として何か違いがあるのでしょうか?

→(トミーさん)営業で行った場合、相手が関心もなく本気じゃないと疲弊していくことになりますが、見つけてもらう場合は相手側の関心や本気度がある前提なのでその点が違います。ただ待っているだけではなく、いつ来てもいいように、準備と努力は常にしています。

 

Cさん(質問)

・越境して誰かと関わることの大切さを感じる一方で、価値観のずれがある場合もある。自分の意思よりも相手が求めることを優先しまう傾向にあるので、自分の思いを大事にするにはどうしたらいいでしょうか?

→(トミーさん)自分の感情に気づくことと、そのための時間を大切にしていくのが大事。振り返る余白をつくって、自分の癖も含めてオープンにしながら周りにも聞いてみてください。

Dさん(コメント)

・ある意味「委ねる」ことが大切だと感じました。何もせずに単に委ねるのではなく、自分は何者なのかという情報を発信した上で委ねる。緊張がほどけている状態だとさらに人も集まるんだろうなと感じました。地域でも組織でも同じ方向を向いていないと成長しないことも気づきでした。

 

Eさん(コメント)

・コーチングパートナーを見つけたいという思いでKOIN塾に参加し、共鳴する内容が多かった。最近別のところでも呼吸の大切さを実感しているのですが、息を吸うより吐く方が大事なのは共通していると感じました。インプットばかりで苦しくなるのではなく、アウトプットをすると自然と入ってくると思っています。

 

Fさん(コメント)

・時代が変わっていることは体感しながら、どういう風に実践していくか模索しています。最初は何から始めていいか分からなかったのですが、塾に参加して小さくても行動を起こしてみたら少しずつ共感し合える仲間が見つかり、実際にカタチにし始めています。

 

今年度も多様な参加メンバーと「自分を成長させるコーチングパートナーの作り方」を探究してきたKOIN塾。毎回の塾が終わるたび自然に会場に残って相談し合っている様子から、共感できる関係性から共創が生まれ始めていることを感じていました。ここでつながった皆さんが、自分の可能性を信じながら、地域・社会と対話を重ねて豊かな生態系が広がっていくことを願っています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

 

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