IDEA

森につながる暮らしとモノづくりのトータル・プロデュース

一般社団法人パースペクティブ
松山 幸子
2014年より、monomoとして日本の職人たちと海外のクリエイターとの間のコラボレーションをサポートする一方で、工芸は日本の社会、価値観、意識を映し出す鏡であると位置づけ、教育プログラムやツアーを企画。「漆」に関係する複数のプロジェクトへの参加ののち、1万年前から日本の風土で使われてきたこの天然素材を次の時代に継承するべきものとして、2019年6月、一般社団法人パースペクティブを設立。共同代表であり、明治期から続く漆精製業堤淺吉漆店の堤卓也と共に、「伝統」の枠に囚われない漆の可能性と、植栽の輪を広げる活動を開始する。

──現在考えられているビジネスとその目的はどのようなものでしょうか?

ビジネスのタイトルは「森につながる暮らしとモノづくりのトータル・プロデュース」。キャッチフレーズは「漆でサステイナブルな未来を描く」です。

一般社団法人パースペクティブは、日本古来の工芸素材である漆を、今の時代に応じた”当たり前な素材”とするための活動体です。活動への多様な関わり方を通して、資本主義が置き換えてしまった価値観や感性、地球と寄り添う循環的な暮らしのあり方を再発見する機会を提供します。

 

──具体的な事業としてはどのようなことを計画されているのでしょうか?

地球環境に危機感を募らせる人たちと、工業製品に囲まれ経済効率性で全てを評価する社会への閉塞感を感じる人たちが、伝統的な暮らしにヒントを求めつつあります。一方で伝統的な産業に関心を寄せる人たちは、単に伝統だから守らなければならないと考えがちです。似ているようで隔たりのあるこれらのコミュニティの相互の視点を楽しくつなぐことで、社会への関わり方、自分の生活の中での小さな選択肢が変わっていく、そんな体験を漆にフォーカスしてプロデュースします。

パースペクティブでは、漆を通してサステナブルな未来を描くモノづくりを、メーカー企業とともに形にする一方で、人と自然との親密な関係性や、心と感覚を開いて自然とともに暮らすこと、またそうした暮らしの中でモノづくりのことを、教育的プログラムとして展開していきます。またその事業収益は全て、漆のサステナビリティを実現するべく、「漆を植え、育てること」に還元される仕組みを準備しています。

 

──ビジネスアイデアの特徴を3つ上げるとしたら、どんなところでしょうか?

1つ目は、漆と森、里山にぐっと近づくプログラム。森や里山における生態系の古今や、人が木や森とどう関わってきたのか。そして、それが手仕事にどのように息づき、現代の私たちに何を教えてくれるのか。漆を接点としながらも、人と社会の営みを立体的に捉え、一人一人がサステイナブルな社会に向かって主体的に関わっていく、社会の見方のヒントを提供します。

2つ目は、古くて新しい素材「漆」で製品を作るメーカー・コンサルティング。日本で1万年前から使用されてきた漆は、安価で生産性の高い人工樹脂などに置き換わられてきました。しかし漆には、驚くほどの強度や色艶、しっとりとした質感など、豊かな機能美が宿っています。私たちは創業110年の漆精製業社としての知見とネットワークを活用し、人と地球に優しいサステイナブルな塗料で、メーカーのモノづくりを伴走します。

3つ目は、田舎暮らしと漆をつなぐ、里山づくりコンサルティング。漆を植え育てるなど、多様な人々が関わり合いながら、漆を地域の文化形成のために活用するお手伝いをします。地域のプレイヤーと協業し、漆精製業社として各地に持つ漆の専門家や工芸家、地域活性の専門家ネットワークをつなぎ、漆を一つの切り口としながら、サステイナブルで豊かな里山の暮らしを提案します。


──なぜこのビジネスアイデアを実現したいと思うようになったのでしょうか?

2014年より工芸を伝えることを仕事にしてきた私は、工芸を文化の「鏡」として、経済や消費のあり方や自然との関わり方など、工芸に受け継がれた人の知恵などを伝えようと考えてきました。その中で、時代の変化のあおりを強く受け、工芸の基礎である素材における知恵の継承が危機的状況にあることを実感しました。いくつかの漆関係のプロジェクトの中で、人の感性に働きかける艶や潤い、人工塗料に勝る強度、自然素材としての循環性など、漆の魅力も実感しました。漆に専門性を持つ共同代表の堤と出会い、伝えることから現状を変えることまでに渡り、コミットしたいと考えるようになりました。

 

──なぜこのビジネスが今必要だと考えているのですか?

都市型生活が進み環境問題が表面化してきたこの40年間で、漆の国内流通量は十分の一にまで落ち込んでいます。樹液がかぶれを起こす漆の木は、必要以上に邪魔扱いされるようになり、人々の生活から隔たりが生まれました。安易で安価な製品が暮らしに溢れるようになれば、人々は自然素材の素晴らしさを感受できなくなってしまいます。私たちの事業は、近代の価値基準に疑問を持ち始めた人たちに、これからの時代のヒントを提示しながら、同時に漆という日本の大切な伝統を次の時代に受け継ぐことに貢献していきます。

 

──アクセラレータープログラムに参加した時点での課題意識と、参加した上での成果はどのようなものだったでしょうか?

プログラム開始時点では、自分たちのできることに対して解決すべき課題が大きすぎて、具体的な計画に落とし込もうとするとフリーズしていたと思います。毎回いただく大量の宿題に取り組みながら、何を考えなければならないかが見えてきました。「行政・企業・個人に対して提供できること」「そのためにどんなチームが必要なのか」「協力者の関わり方をデザインすること」「一年を通じたマンパワーと経済の予測」など、思考すべきテーマが明確になり、事業を精査する上での方向性が見えてきました。

 

──ビジネスアイデアの実現に向けて、これからの展望をお聞かせください。

ありがたいことに、私たちの事業に非常に多くの人が興味を示してくれます。そんな人たちが集まる旗となりながら、これまでになかった生態系を作り、十年先、二十年先にも人が漆と共生する営みを続けていけるよう、多種多様な人々の多種多様な関わり方を生み出し、それらの方が横につながる仕組みを作っていきたいと思っています。それにはまず、旗から近い関わり方をしてくれる仲間づくりが必要です。教育的プログラムやワークショップの企画、デザイン、ファイナンスといった経営的な視点で取り組む仲間。森や畑など地域づくりの現場において、漆の植栽を一緒に取り組む仲間。私たちはそんな仲間とともに、同じ未来を見る人々で経済が回るしくみを確立しつつ、生態系をつくっていきたいと考えています。

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