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スキルを高め、自分を自由にするための「立ち止まり方」|12/18 開催イベントレポート

WRITER : 北川由依
PHOTO : 北川由依

年の瀬に向けて慌ただしさが増す12月。共創の場「KOIN」では、「自分を生かして働くための全4回」の第3回が始まろうとしていた。

講師は、株式会社ワコールホールディングス ダイバーシティ・グループ人事支援室 室長 鳥屋尾 優子(とやお ゆうこ)さん。企業に所属しながらも個々が自分らしく働き、創造性を高め、豊かな人生を送れるような「働き方」を考える時間だ。

まずは前回までの振り返りから始まった。

第1回 企業に所属しながら、自分らしく働き、豊かな人生を送る「働き方」

第2回 過去の経験や異なる立場から、仕事に活きる「自分の中の多様性」が生まれる。

第3回のテーマは、「スキルを高めよう〜自分を自由にする『立ち止まり方』を持って歩もう」。立ち止まるとはどういうことだろう?そんな疑問を抱く参加者に、まず鳥屋尾さんは、「今の仕事を自分流に編み直してみるのが、立ち止まるイメージ」と伝え、本題に入った。

「以前、私は広報室に所属し、社内報の担当していました。上司が私を紹介する時に、『社内報担当』と呼ぶのですが、それがすごく気持ち悪かったんです。『あれ、私、社内報の担当なん?』って。そもそも社内報は、社内コミュニケーションを円滑にするために作るものです。だから、作業としては社内報を作ることかもしれないけれど、私の仕事は社内報担当ではないよねと。そのモヤモヤを上司にも話をして、その後『社内広報担当』に肩書きが変わりました。そうやって私は自分の仕事を編み直していきました。

社内広報担当になると、社内報を作る以外の仕事も当然生まれていきました。今日は、今の自分の仕事を編み直すと、もっと自分が自由に動ける幅が広がっていくというお話をさせてもらいたいなと思っています。」

このお話はどう「立ち止まり方」と繋がるのか、と考えた参加者も多かったように思う。そんな問いを抱えながら、「立ち止まり方」を支える3つのキーワード紹介に移った。

1.幽体離脱を癖にする

「このキーワードは、先ほどお話した社内報と社内コミュニケーションの視点の違いを表しています。『社内報担当』と言われていた時は、仕事の範囲は限られていたんですよね。でも、『社内広報担当』としたら、視野が広くなり、『社内報担当』としては見えていなかった世界が見えるようになりました。

そこで私が取り組んだのが、イベントでした。社内報は社内で起こったことをみんなに知らせる仕事ですが、まだ起こっていないことを書くことにしてみようと思ったんですね。

ワコールには『人間科学研究所』があり、半世紀以上、人間の体型データを集めています。そこに、東京で運営する複合文化施設『SPIRAL(スパイラル)』のアーティストさんたちを掛け合わせたら、絶対面白いことが起こると思って。彼らとは日頃関わる機会がないので、社内報の取材のためにイベントを開催するところから企画しました。研究所の所長と『SPIRAL』のキュレーターとの対談をして、そこで出たアイデアは具現化しようと決めて、アーティストさんとのコラボレーションイベントを、『SPIRAL』で開催するようなこともしていました。

このように一つ視座を上げることで、仕事は広がるし、自分のやりたいことにも繋がる。自分らしく仕事ができる土壌を作れた、と今でも思っています。」

視座を上位概念に持ち上げる時、鳥屋尾さんが使う手法が「話を構造化して聞く」ことだ。

「みなさん自己紹介の時、相手との共通項を探しながら喋ると思います。例えば、趣味が自転車、映画鑑賞、山登りと聞くと全く違う風に思えます。しかし構造化すると、スポーツかなとか、場所は屋内・屋外とか、チームでやるのか一人でやるのかなど考えていくと共通項が出てきます。そこから話が広がっていった経験が何度もあります。私はこの構造化の手法を会議や本にも広げながら、上位概念から物事を考える癖をつけています。

幽体離脱をして、自分の仕事を編み直してみないか。鳥屋尾さんの提案に、頷く参加者の姿があちこちで見られた。

2.体験を経験まで持っていく

『体験は蒸発するから、定着させるには経験まで持っていかないと無理だよ』と言われたことがあります。それから、経験まで持っていくことを意識しています。経験っていうのは、自分の中を通るので定着するんですね。ただの体験を経験にまで持っていくのは難しいことではなくて、私の場合は、本を読んだら文章にまとめたり、面白い話を聞いたら5人に喋ったりして、自分の言葉にしてアウトプットをすることで”経験”に変えています。たったそれだけのことですが、定着が全然違います。

仕事では、部門異動時に必ずマニュアルを作成をしています。立ち止まる話にも通じますが、次に進む前に一度立ち止まり、この部門でやった仕事を総括する、という意味も込めてマニュアルというアウトプットをして、ここでの仕事を改めて“経験”に変えているんです。マニュアルといっても、仕事の手順を書くのではなく、どういう考えのもとでこの仕事があり、どのような判断基準でアウトプットが生まれているのかをまとめたもの。後任者も大きな幹がわかり、色々な判断ができるかなと思っています。」

3.具体的にイメージする

「このキーワードも立ち止まって、自分がどうなっていたいのかを考える一つの例です。例えば、『今年はたくさん本を読もう』と思っていても、読めないまま一年が終わってしまった経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。だから私は、○○分野の本を○冊読むと具体的に決めています。他にも、『一年後、私は○○についてスラスラ喋れるようになっている』とイメージしています。

仕事に関しては、『グループ会社の人事・労務の相談案件の対応を一人で解決できて、チームみんなで笑って飲んでいる状況を一年後に作る』と決めています。すると、労務管理の本をたくさん読むことに繋がっていく。具体的にイメージできれば、日々の行動も変わっていきます。」

鳥屋尾さんが「具体的にイメージする」ことを意識し出したのは、「スタディホール」の立ち上げに関わった経験からきていると話を続ける。

「コワーキングスペースという言葉から、机や椅子があり、人が集まって何かが生み出されそうな雰囲気は共有できますが、メンバー一人ひとりイメージが全然違いました。女性ばかり集まっている場をイメージする人もいれば、静かな場をイメージする人もいる、逆に大勢の人がいて賑やかな場を想像する人もいる。だから、『スタディホール』を訪れる人が、どういう状態になることを目指すのか、『スタディホール』がどういう状態になるのが理想かをチームで握れない限り、具体策をいくら出してもゴールに近づけてないなって感じたんです。」

イベント後半は、参加者のみなさんからの質問に、鳥屋尾さんが次々と答えていった。

今回も、皆さんからの質問をいくつかご紹介したい。

参加者 「立ち止まる」というキーワードが心に残りました。鳥屋尾さんが立ち止まったことで、チームに変化が生まれたエピソードがあれば教えてください。

鳥屋尾 「社内報と社内コミュニケーションの話に関しては、上司が『僕らは社内のコミュニケーションを円滑にする仕事をしていたんやな。僕は間違っていたわ』とわざわざ言いに来てくれました。

またマスコミ対応をしていた広報部のメンバーは、記者さんから聞かれたことに答えるのが私たちの仕事ではなくて、会社にある情報を世の中の文脈にのせて伝えることが私たちの仕事であると伝えると、目の輝きが変わって。自ら社内情報を集めて、記者さんとコミュニケーションをとるようになりました。メンバーのやる気が開花した瞬間を目の当たりにしました。」

参加者 調子が悪い時は「構造化する」ことが難しくなるのではないかと思います。鳥屋尾さんは、どのようにリセットされているのでしょうか?

鳥屋尾 「構造化は私自身も訓練している状態です。調子が悪くて、聞き流してしまおうと思うこともあります。その時、どう立ち直っていくか。構造化は抽象的な話です。なのでもっと簡単に視座を上げるには、例えば、もし私が今の自分よりも一つ視座が高いところから事実を見ている人の立場ならどう考えるだろう、と想像します。もし、今の立場が課員であれば、課長の立場ならどう考えるだろう、と想像してみる、ということです。今私は部長職をやらせてもらっているので、役員の立場ならどう考えるだろうって。そう考えるとイメージしやすくなるかもしれませんね。」

参加者 仕事でポジションが上がったのですが、部下に対してどういう存在であったらいいのか具体化できません。イメージできない時はどうしたらいいですか?

鳥屋尾 「具体化には2つのパターンがあります。一つは、自分がどうなっているかのイメージ。もう一つは、周りがどうなっているかのイメージです。おそらく今、自分がどうなっていたいのかわからない状態かと思います。それであれば逆に、周りにどうなってほしいかをイメージした方がやりやすいかもしれませんね。例えば、会議で全員が発言している状態をつくりたいとしたら、どういう上司になれば周りがそうなるかを考えた方がイメージが湧きやすいはず。どういうチームにしたいかよりも、どういう上司になりたいかを先に考えてしまっているから、イメージしにくいのかもと思いました。

「チューニングしよう」「リフレーミングしよう」、そして「スキルを高めよう」と続いてきた講座もいよいよ、次回で最終回。2020年1月29日、「第4回:プロジェクトにしよう」を開催する。

「第3回までは、自分に視点を向けて話をしてきました。最後は仲間と同じ方向に進むためには何が必要かを、私の経験を元にお伝えします。チームの中にいる私としての行動を考える時間にしましょう。」

回を重ねるごとに、鳥屋尾さんファンが増えていることを実感する本講座。全4回の受講を終えた参加者が描く世界は、どのように変わっているだろうか。期待に胸を膨らませながら、会場を後にした。

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