READING

コワーキングフォーラム関西2022 in京都 〜変化する働き方!コワーキングの本質とワーケーションのその先とは?〜|8/9開催イベントレポート

執筆:三上由香利 編集:北川由依 写真・映像:赤星もゆる

日本では2010年頃から誕生したコワーキングスペース(以下、コワーキング)。以来、フリーランスや小規模のスタートアップなどを中心に利用する人がじわじわと増えていきました。またコロナ禍において働き方が変化し、より多くの人がコワーキングスペースを利用し始めています。

日本で初めてコワーキングの運営を始めた伊藤富雄さんによると、現在コワーキングは世界中に3万ヶ所以上、2024年には4万ヶ所を超えると言われています。

ますますニーズが高まるコワーキング。運営者や利用者が一堂に会し、繋がる機会をつくろうと、KOINは、2022年8月9日に「コワーキングフォーラム関西2022 in京都 〜変化する働き方!コワーキングの本質とワーケーションのその先とは?〜」を開催しました。

イベントでは、京都内外でコワーキングスペースの運営や新しい働き方に取り組む方々をゲストに招き、コロナによる変化を踏まえたコワーキングの本質や、ワーケションなど多様化する働く場ついて共に考える機会となりました。

本イベントはコロナ前に大阪にて開催され、大盛況だった「コワーキングフォーラム関西2020」の続編。関西でコミュニティ運営に携わる人が集まる「関西Beyond the Community」、イベント管理ウェブサービス「Peatix Japan株式会社」にもご協力いただきました。

総合司会を務めたのは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさんです。

「リアルな場で開催をできることに喜びを感じてます。これから多様化する働き方・働く場について、みんなでディスカッションできればと思います。最後まで楽しみましょう!」


総合司会者のタナカユウヤさん

トークセッション①「コワーキングの本質とワーケーションのその先」

トップバッターを務めるのは、日本初のコワーキングスペース「カフーツ」を主宰する伊藤富雄さん 。そして「一般社団法人日本ワーケーション協会」 の代表理事を務める入江真太郎さん。本題でもある「コワーキングの本質とワーケーションのその先」について、さっそく切り込んでいきます。進行の向井布弥(ふみ)さんは、関西Beyond the Communityの発起人でもあり、大阪のコワーキングスペース「The DECK」ではコミュニティマネージャーを勤めています。

▼向井さんには、以前もKOIN主催イベントにご登壇いただきました
「コワーキング」の意味を捉え直し、まちの可能性を広げる場づくりを目指す

 

伊藤さんは、コワーキングスペースの運営だけでなく、コワーキングの開業支援や、全国のコワーキングを訪れて各地の運営者のつながりをつくる「コワーキング協同組合」の設立、またコワーキングにまつわる情報を発信するなど、黎明期からコワーキングの価値を最大化させるために取り組んできました。

「コワーキングは、別の仕事を持ってる人たちがコミュニケーションを図りながら、お互いに協力し合って貢献しあうこと。それを実施するところが『コワーキングスペース』です。だから場所ありきではなく、コミュニケーションありきというのが大切なことなんです」

また、「コワーキングは単なる作業場ではなく、個人の果たしたい目的を持ち寄り、互いのスキルを分け合って、解決・達成するというコミュニティである」とも。

伊藤さんが作成した「コワーキング曼陀羅」は、コワーキングを軸にさまざまな要素がつながることで、どんな広がりが生まれるのかを表したものです。

例として挙げられたのが、「コワーキング×育児」を実践している長野県の「はたらクリエイト」。「子育てと仕事の両立」「出産後の社会復帰」などの悩みを持つ女性たちに企業からの仕事を斡旋する流れをつくりました。

他にも、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供する「こども食堂」の実施、農園の運営、宿泊施設の併設しているなど、さまざまな機能を持ち、地域の課題解決に取り組む全国各地のコワーキングをご紹介いただきました。

「コワーキングは、地域の経済を活性化させる、ローカルコミュニティになり得ると思うんです。人が集まることで地域の課題が見える化し、そこに関わる人が出てくる。『まちづくりの中核をなす』ことを意識した場づくりをしているコワーキングがやはり魅力的ですね」

さらに今後は、旅をしながら働く「デジタルノマド」が増えることで、コワーキングの在り方は変化してくると伊藤さんは言います。イタリア・ヴェネツィアなどでは、デジタルノマドに向けたビザを発給するなど、受け入れ体制が整ってきてるのだとか。

「デジタルノマドが滞在することによって、コワーキングスペースで地元のワーカーと交流が生まれ、新しいビジネスや活動が起こっていくでしょう。今後コワーキングスペースは、国や地域を超えて『新しい知が結合する場所』になっていくと思いますよ」

続いてお話しいただいたのは、日本ワーケーション協会の入江さん。生まれは長崎ですが、これまで福島・秋田・徳島・兵庫など、さまざまな地域に住んでいました。現在は大阪に住みながら、ワーケーションを実践中。4歳になるお子さんと一緒にワーケーションに行くこともあるそうです。

ワーケーションという言葉は、「ワーク」と「バケーション」を掛け合わせた言葉。しかし、「自然が豊かな場所で仕事をする」「都心のワーカーが田舎に行く」など、まだまだ一辺倒な情報だけで捉えられている現状があると、入江さんは話します。

「企業や地方自治体の中には、一時的な観光施策やコロナ対策としてワーケーションを導入しているところもありますが、本来は、暮らし方・働き方の選択肢の一つ。多様なライフスタイルを、社会において認めていくことが大切なんです」

宿やコワーキングなどにおいて地域と接点を持つことで、ワーケーションで訪れる人と地域の人がうまく混ざり合い、新たな可能性が広がっている場所も増えています。

「ワーケーションを一時的な対策だと捉えていると、地域の人にはスポットがあたりません。移住者・地元住民・ワーケーションで訪れた人も利用できる施設や、参加できるコミュニティづくりを行っている地域に注目しています」

その後のパネルディスカッションでは、入江さんからは、ワーケーションは「長く休めない」「会社でしか仕事ができない」というような、これまでの日本人の働き方を変えるチャンスだというお話も。伊藤さんも入江さんも注目している長野県の佐久市では、都市部で働きながら地域でも関わりを持つ「地域複業」の取り組みに力をいれていると話し、地域と仕事を通じて関わりを持つ可能性について意見を交わす時間となりました。

トークセッション②「各地を行き来する実践者トーク」

次のトークセッションでは、①のパートでも盛り上がった「ワーケーション」について、ゲストと共にを掘り下げていきます。進行は、岩田かなみさん。神戸を中心に、フリーランスのコミュニティマネジャーをしている側ら、自身もワーケーションをライフワークとして楽しんでいます。

 

▼岩田さんには、以前もKOIN主催イベントにご登壇いただきました
働く場の役割や人の繋がり方はもっと多様に変化する

進行役の岩田さん

まずはゲストの自己紹介からスタート。どのようなワーケーションライフを送っているかをお話いただきました。

自身が代表を務める会社「antymark 」で、松本城やNYのギャラリーなどさまざまなスポットのデジタルコンテンツの開発などに取り組んでいる松波直秀さん。最近は、五島列島や奄美大島などの島をよく訪れているそう。

フリーランスのフォトグラファーや、滋賀県の企業と地域を繋ぐコミュニティづくりなどを行う花田 和奈さんは旅好きが高じて、旅×フリーランスのコミュニティ「アットワールド」を運営しています。

「好きな場所でやりたいことをしながら暮らせるような社会を作りたい」と「LivingAnywhere Commons」を立ち上げたのは、小池 克典さん。ワーケーションの受け入れ拠点を全国に持ち、小池さん自身も茨城県の住まいを起点に全国の拠点に足を運び、コミュニティづくりや場のプロデュースに携わっています。


左から花田さん、松波さん、小池さん

自己紹介の後は、岩田さんやゲストの皆さんがワーケーションを通じて感じていることを話しながらテーマを深めていきます。ここからは、その一部を抜粋してお伝えします。

 

岩田:普段と違う環境で働くことで、仕事に還元されることはありますか。

松波:ワーケーションの際は昼と夜に散歩に行き、時間ごとに表情が変わる景色を見るなど、普段の生活ではやらないことをやって内省して振り返りをしたり、今後どうするかを考えたりします。直接仕事につながっているかは分かりませんが、そういった時間を持つことを大切にしていますね。

地域の人とのつながりが生まれ、一緒に仕事をしないかと誘いを受けることもあります。首都圏の仕事もしながら地域と関わる「地域複業」という形は、この先どんどん増えてくるのではないでしょうか。

 

岩田:働いて、滞在して終わりではなく、地域をめぐって魅力を感じたり、現地の人と交流があった方が、結果的にはとても満足できますよね。

花田:最近は観光地よりもメンバーに縁のある場所や、各地でつながった人から紹介された場所に足を運ぶようにしています。これまで知らなかった地域の魅力を知ることはとても楽しいです。また、現地のコワーキングスペースやお酒の席で仕事の依頼を受けることもあります。

そうした時間を旅する仲間や地域の人たちと過ごすうちに、「私にはこういう側面があるんだ」と自分の中に新しい発見があるんです。いつもと違う環境に身を置くことで、自分に合った働き方や仕事を見つめ直す機会にもなっていると思います。

 

岩田:小池さんはワーケーションの受け入れ側でもありますが、利用者と地域が交わる機会をどのように作っているのですか?

小池:利用者には、僕らの拠点を単に仕事をして寝泊りする場所じゃなく、「地域の人と一緒に作る場所」として認識して利用して欲しいと考えています。例えば、地元の人も参加できる食事の場を設けて、交流してもらうことも。やはり何か自分の刺激になるようなことがなければ、ワーケーションに行く意味が薄れてしまうと思うので、受け入れ側としては、その地域でしか得られない「体験・交流・発見」をつくることを意識していますね。

日頃からワーケーションをしているゲストならではの気づきや視点が盛りだくさんとなった「各地を行き来する実践者トーク」。ワーケーションは単にいつもと違う環境で仕事をするだけでなく、地域とつながりを持つきっかけや、自分と向き合い見つめ直す時間になるということを知ることができた時間となりました。

トークセッション③「これからの時代におけるリアルな場の在り方とは?」

最後のセッションでは、これまでお話いただいた「働く場の多様化」を受けて、時代とともに今後「場のあり方がどう変化していくか」に関してトークしていただきました。進行を務めるのは、後藤峻さん。広島県尾道市のコワーキング「ONOMICHI SHARE」の運営に携わり、コワーキングの事業者・利用者の関わりを生み出しています。

▼後藤さんには、以前もKOIN主催イベントにご登壇いただきました
働く場の役割や人の繋がり方はもっと多様に変化する


進行役の後藤さん

ゲスト3名は、全員がコワーキングの運営者です。各スペースの特色や、運営することになった経緯などを交えて自己紹介をしていただきました。

兵庫県姫路市・加古川市で「コワーキングスペースmocco 」を運営する梶原 伸介さん。以前は大阪で建築・空間の設計をしていましたが、実家のある姫路へUターン。「どうしたら町のことを好きになれるか。楽しく暮らせるのか」を考え、コワーキングを立ち上げることになったそうです。

「イベントができる拠点を持ちたい!」と大阪福島で「コワーキングスペースGRANDSLAM」を開業したのは、吉永 亮さん。マーケティングやSNS発信などのさまざまイベントを月に10本〜15本ほど開催しています。スペース内には来訪者が決意や目標などを壁に直接書くことができる「決意の壁」があり、会話のきっかけになっています。

コワーキング「co-ba hiroshima」のコミュニティマネージャー井口都さんは、後藤さんと同じ広島県から参加。co-baは広島市の他にも香川県高松市や宮城県気仙沼市にも拠点があり、co-ba hiroshimaは ビジネスが加速する場」というコンセプトで運営しています。「単に仕事をする場ではなく、仕事や人の繋がりが広がる場所を目指したい」と井口さん。イベントやワークショップを定期的に開催しています。

左から梶原さん、井口さん、吉永さん

「コロナにおいて変化したこと」からトークセッションはスタート。同じ場所に多くの人が集まることを制限された状況になり、改めてリアルな場の持つ意味が問われる中、後藤さんやゲストのみなさんは、どのように向き合ってきたのでしょうか。トークセッションの一部をお伝えします。

 

後藤:コロナによって場の在り方や取り組みはどのように変化したのでしょうか?

梶原:人が来なくなって非常に焦りました。でも今は当時と一緒ぐらいか、それ以上ぐらいにまで人が戻ってきています。前よりもコワーキングの認知が広がって、利用者が増えているので、定着してもらうためにどんな仕組みをつくればいいのかを模索しています。

吉永:コロナ禍で何度かイベントのオンライン化を検討しましたが、僕たちにはあまりフィットしなかったんです。今日も会場にたくさんの方がいますが、名刺交換をしたり、一緒にワークショップで話したりすることで記憶に残りますよね。そこにリアルならではの魅力を感じるんです。ですので、小さくてもリアルな場を設けることを大切にしています。

井口:うちは情報発信の場としてオンラインを活用していました。頻度は高くなかったですけど、配信をすることで会員さんと接点になればと。コロナ禍でも場の存在感がなくなってしまわないように意識して発信していましたね。

 

後藤:梶原さんは、地域課題の解決を課題として取り組んでいるということですが、どのような場を目指されているんですか?

梶原:加古川の商店街の周辺では、地域の高校生たちがコンビニのおにぎりなどを地面に座り込んで食べてることがちょっとした問題になっていました。でも、大人は「やめろ」としか言わない。そのことに僕はめちゃくちゃ違和感があって。それなら「軒先を分けてあげようよ」ということで、誰でも使用できるフリースペースを設けました。

目指すのは、いつでも空いてる、誰でも利用できる公民館的な場所なんです。だから70歳の人の隣で高校生が勉強していることもあるようなある種「ごった煮」状態のコワーキングです。10年近くやってると高校生だった子が起業して戻ってきてくれたりと、長い時間の中で人や関係性が自然と育くまれている気がします。

その他にも、「まちと人が一緒に成長できる場でありたい」「ただ場があるだけでなく、そこで生まれたコンテンツや事業がその地域の魅力になっている」というお話もあり、コワーキングがその地域にある意味を問いながら、場づくりに取り組んでいるという話に、多くの運営者の方が頷き、耳を傾けていました。

3つのトークセッションで得た気づきを振り返るワークショップ

トークセッションの後は、ゲストの話の中から得た学びやアイデアをアウトプットするために参加者同士で集まり、ワークショップを行いました。

運営する上での悩みを共有したり、コワーキングを盛り上げていくためのアイデアを交換するチームがあった他、それぞれが関心を持った「コミュニティの繋がり方」「これからのワーケーション」「リアルとオンラインの融合」などについて話を深めたりと、各々盛り上がっていました。

また、今回北海道から九州まで全国各地から参加があったこともあり、日頃なかなか話す機会のない地域の人同士で意見交換をする機会になったようです。

中には、「コワーキングという名前が利用者のハードルを上げているかもしれない。新たな呼び名を考えられないか」という根本にせまった話から、「大学生とワーカーのコラボレーションを創出できないか」というお題まで。短時間の中でもそれぞれの情報を交換し、アイデアを交換し合う有意義な時間になりました。

神戸・大阪でも「コワーキングフォーラム関西」を開催!

3年ぶりに開催された「コワーキングフォーラム関西」。コワーキング(Coworking=共に創造する)を目指す場であるからこそ、ゲストも参加者もみんなが一方的に情報を手にするのではなく、それぞれの疑問・アイデア・知見を共有し、アップデートしようと主体的に関わる時間になりました。

次回のコワーキングフォーラムは、10月14日に神戸、12月9日に大阪で開催する予定です(両イベントの様子は本レポートの最後に記載されているリンクからご確認いただけます)。日本でも働き方、働く場が大きく変化し、ますます盛り上がりを見せるコワーキング界隈の動きに、ぜひご注目ください!

当日の様子は動画でもご覧いただけます。合わせてご覧ください!

神戸・大阪で開催されたコワーキングフォーラムのイベントレポートはこちら

メンバーページ